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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十九話 夏休みと懸念

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#142


 白石紅葉

 桜ノ丘学園一年生。


 血液型はB型。

 趣味は読書に飼い犬との散歩。


 三人姉妹の次女で、桜ノ丘学園の学年委員に所属している。

 部活動は未所属で、次期生徒会に立候補している生徒。


 教師達からの信頼も厚く、次代の柊茜のような生徒達の模範となることを望まれている。

 それに応えるべく、生徒会長選に立候補した白石紅葉は、自分を律し強くあるべきと答えを見出した。


 柊茜がそうであるように、自分もそうであるべきだと。

 その結果、普段は穏やかで親しみやすい生徒だったはずの彼女は、成果を求めるための生徒会へと作り変えると告げたあの姿になったというわけだ。

 

 現実、会長には遠く及ばないにしろ、少しでも近づけるように。


 それが雫達を生徒会に加入させるという結果になったと、彼女は小さな声音で話してくれた。


「本当は学年委員も入るつもりはなくて……クラスでも成績が一番だったことと、担任からの後押しがあって……」


「断れる状況が無くなったのか」


「……はい」


 その結果、基本的に優秀である白石は学年委員を難なくこなせてしまった。

 こなせない方が彼女的には都合が良かったはずなのに。


「人と話す言葉も聞かれるかもしれない問いの答えを用意しておかないと……緊張してうまく話せないんです」


「……じゃあ、今日の会話も最初から聞かれるパターンでも用意していたのか?」


「ええ…こういえばこう返されるだろうって、何度も自分の中で繰り返し予想を立てて……でも、予想外だったのは神崎先輩と綺羅坂先輩がいたことでした」


 才能の無駄遣い。

 人間関係の苦手分野を補うために繰り返している彼女は、予想外の状況には反応が出来ないだろう。


 柔軟に対処できないと言った方が正しい。

 だからこそ、俺が食堂に来た際も慌てふためくように取り乱していた。


 

 不器用なのだろう。

 でも、それを補える才能があるのも確かだ。


 質疑応答をすべて正確に用意しておくだなんて、普通考えることではない。

 面接などで聞かれる問いとはわけが違う。


 日常的な会話でそれを行うのは、正直労力に見合っていない。


 だが、そうしなければ会話がままならないという生徒も実際に目の前にいる。

 あらためて、この学園には変わった生徒が多く在籍していることを再認識した。



「学年委員の話は分かった……でも生徒会に立候補したのは自分の意思じゃないのか?」


「それは勿論です!学校をより良くしたいのも本当です!で、でも……」


 濁すように語尾が小さくなる。

 人差し指をちょんちょんと合わせるようにして、若干頬を赤らめて恥ずかしそうにしている白石は、上目遣いで聞いてきた。


「わ、笑いませんか?」


「笑う」


「そ、そこは笑わないって言うところでしょう!?」


「内容も聞いていないのに笑わないかどうか分かるはずがないだろ」


 

 俺を誰だと思っている。

 期待通りの答えを簡単に返すほどお優しくはないぜ嬢ちゃん。


 俺の言葉が的を得ていたのか、白石は「確かにそうですね」と呟いてから、周囲を気にして顔を近づける。

 よほど他の人には聞かれたくないのか、小さい子供が内緒話をするように白石の顔はこちらに近づいてくる。


 これぞ、目と鼻の先。


 彼女の吐息が顔に当たるくらいに近づいて彼女が呟こうとしたその瞬間だった。

 ”それは”俺と白石の間を通過した。


 木製の机が軋み、轟音が室内を反響する。

 僅かに俺の鼻には痛みがあるが、白石には当たっていないらしい。


 ただ、目を丸くして呆けていた。


 当然だ、俺も同様なのだから。

 何が起こったのか分からない。


 本当に死角から高速で何かが間を通過した、それくらいの認識しかない。

 しかし、それはすぐに分かることになる。


 耳元で囁かれた二人の女性の声によって……


「楽しそうね真良君」

「楽しそうですね湊君」


 魔王、悪魔、そんな単語が頭をよぎる。

 人生の終わりにも思える姿が横には佇んでいた。


「あ、いや、これは……」


「ひぃぃい!悪魔!?」


「「あ?」」


「ごごごごごめんなさい!」


 俺と白石の間に割り込んだのは、雫と綺羅坂の手刀だった。

 ただの手のはずなのに、今は日本刀にすら見える。


 きらりと輝いて、今にも首をはねられそうな殺気が、その手には込められていた。

 というか、実際俺の鼻にかすっているのだが。



 それにしても、白石も本音だとしても言って良いことと悪いことがあるだろうが。

 いや……俺も実際に思ったから仕方ないけど。


 悪魔と言われた二人は、普段からは想像もできない怒気の含まれた声で年下の生徒を見据える。

 完全に怯えて縮こまってしまった白石は、机の下に隠れるようにうずくまる。



 二人は視線を白石からこちらに向けると、下ろしていた手を戻す。

 そして、そのまま俺の両脇を掴むと引きずるように食堂の出口へと歩を進める。


「まったく、飲み物を買うだけで何故女子生徒と話をすることになるのかしら」


「油断も隙もありません」


「何か勘違いしてるみたいだが……俺はただ状況確認をだな」


 弁明をするが、聞く気配もない二人は歩みを進める速度を緩めることはない。

 依然、机の下に隠れている白石は話の途中だったこともあり、何か言いたげな表情を浮かべているように見えた。


「続きは明日……三時頃に駅前の喫茶店でも大丈夫か」


「え……いや、流石に初対面の人とデートは……」


「違うわ……話が途中だろうが」


 この状況で終わるのは、不完全燃焼のようで逆に気になって寝れないまである。

 白石の発言で、掴まれていた両腕に鈍い痛みが走り、視線を上に向けるが二人は何事もないかのように澄まし顔で歩く。


「し、私服の方がいいでしょうか!?」


「自分のマニュアルに頼れ」


 そのためにメモ帳を書いているのだろう。

 活躍するのを見てみたいものだ。


 最後に見たのは、立ち上がろうとして机に頭をぶつけているドジな後輩の姿だった。


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