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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
それぞれの休日
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楓の休日

妹の楓の短いお話です。

本編とはあまり関係ありませんが読んでいただければ幸いです。


 私、真良楓と兄である真良湊は、兄妹なのにあまり似ていないと周りからはよく言われる。


 兄さんが高校に入学する前までは、向かいに住む神崎雫さんと遊んだり出かけたりする機会も多かったので、姉妹だと間違われることも少なくなかった。


 最近は雫さんと会う機会も減り、周りから姉妹だと勘違いされることもなくなったが、それでも私と兄さんを見て兄妹ではないと思う人は今でも多い。


 

 確かに、私も兄さんとは似ていないと思う時がある。

 友人のお兄さんや弟さんを見ても、性別が違えどもどこかしら似ている所があった。

 顔つきであったり、話し方、仕草、声など色々あるが似ていた所が確かにあった。



 それでも似ていないよな……と、部屋のベッドで寝ている兄さんの寝顔を見ながら私はそう思った。


 

 今日の兄さんは起きるのが遅い日だ。


 私よりも起きるのが早い日もあれば、ほとんど同じ時間に起きたり、私が起こさないと全然起きれない日があったり、長年一緒にくらしているけれど朝に強いのか弱いのか分からない。


 今日は起きれない日のようで、朝食を作り終えたのにまだ起きてこなかった。


 口を開けて、だらしなく涎を垂らして寝ている兄さんを、スマホのカメラ機能で一枚だけ写真を撮る。

 これは妹である私にだけ許された特権だ。


 写真を『兄さんの寝顔』というフォルダに保存してから、声をかける。


「兄さん、朝食ができましたよ」


 すると目をゆっくりと開けて、私の顔を確認している兄さんは、数回瞬きをすると朝で私が起こしに来たのだと気が付き体を起こす。


「ほら兄さん、顔洗ってきてください」


「……んー」


 兄さんの両手を取り、引っ張りながら立ち上がらせると、背中を押して洗面所へ連れていく。


 私は、兄さんが歯磨きや顔を洗っているうちに、兄さん専用のマグカップにコーヒーを注ぎ、これで朝食の準備が本当の意味で完了する。


「今日はパンにしました」


「んー」


 洗面所から戻り、私の隣の席に着いた兄さんが「……いただきます」と手を合わせ、朝食を食べるのを確認してから私も同じく目の前の食事に手を付ける。


 兄さんは、小さい頃から家では変わった返事をすることが多い。

 お願い事や、確認をした時に反対などをしない場合は大体短く頷いて答える。


 今日もパンが朝食なのに反対ではないらしい。


 モソモソと焼いたパンを口に運ぶ兄さんは、喉が渇いたのか、淹れたてのコーヒーを小さくすする。


「苦い……」


 ブラックが苦手な兄さんは、顔をしかめ苦いと言いながらもチビチビと飲んでいる。

 コーヒーが好きな私は、いつもブラックで飲んでいるけれど、兄さんが自分でコーヒーを作るときは牛乳と砂糖をたくさん入れているのを知っている。


 でも、私が淹れた時は毎回そのまま飲んでくれているのはとても嬉しい。


 このまま兄さんもコーヒーが好きになり、そのうち有名な喫茶店に二人で出かけたり……なんてできたらいいなと思っている。


 朝食を終えると、本来なら学校へ行く身支度を始めるのだが、今日は年に一度の大型連休であるゴールデンウィーク。


 もちろん学校も休みのため、私達は家でのんびり寛ぐことができる。


「兄さんはどこか出かけるんですか?」


 二人でソファーに座り、テレビ番組を観賞しながら私は兄さんに尋ねた。


「絶対に家から出ない」


 間髪入れずに答える兄さんに、思わず笑みを零す。

 


 

 

「せっかくの連休なので家の中を掃除したいと思います!」


 一息ついた後、私が兄さんにそう伝えると、兄さんは無言で立ち上がり自室へ戻ろうとする。

 私は逃げられる前に背中から抱き着き、部屋に入れないようにする。


「いや、俺はこの後出かける予定があったのを忘れていた」


「いえ、兄さんにはそんな予定無いはずです!それにさっきも家から出ないなんて言ってたじゃないですか!」


 無駄な抵抗をする兄さんに、私は兄さんのみ必殺技ともいえる魔法の言葉を使った。



「手伝って……お兄ちゃん」


「よし手伝おう、俺は何をすればいいんだ?」



 


 私がリビングと台所を掃除している間に、兄さんは洗面所、お風呂場とトイレの掃除をしていた。

 いつも以上に細かい溝まで掃除をする兄さんの顔には、珍しくやる気に満ちていた。


 トイレや浴槽をピカピカに磨いていく兄さんは、一通り掃除が終わり脱衣所の洗濯機の前に置いてあった洗濯籠の中身に視線が移る。


「知らぬ間に妹が成長していた……」


「見なくてよろしい!」


 私の成長を下着のサイズで確認する兄さんの頭をおたまで叩き、籠の中身を洗濯機の中に入れる。

 


 途中、お昼に休憩を取ったけれど、一階と二階、それに自室も含めて午後の三時頃には全ての掃除を終えることが出来た。


「夜ご飯はどこかに食べに行きますか?」


 確か冷蔵庫の中身も少なかったし、今日は外食でもいいかなと思い兄さんに提案してみると


「買い物行って家で食べよう」


 頭を横に振り、兄さんはその案を断る。

 どうせ買い物はしなければいけないので、どちらでもよかった私は部屋着から着替えると、すでに玄関で待っていた兄さんと共に家を出る。


「今日は何が食べたいですか?」


 ずっと昔から変わらず、買い物の際には二人で手をつなぎながら歩く。

 私の質問に、兄さんは少し考えると


「カレー」


 そう答えた。

 

「チキンカレーの中辛、ニンジン少な目!」


 完全に兄さんの好みを熟知した私は、食べたいカレーを言い当てると、満足そうに兄さんは頷く。


「では今日はカレーにしましょう」


「はいよ」





 二人で横に並び歩きながら考える。

 別に兄妹だからって似ていなくてもいい。


 この人が私の兄で、私はこの人の妹。

 私が兄さんのことが大好きなのは変わらないのだから。



 私は繋いだ手を離すと兄さんの左腕に抱き着き、ここだけは誰にも渡さないと心に決めた。



「……やっぱり成長した?」


「そんなこと外で言わなくていい!」


 

 



次は綺羅坂怜の話しです。

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