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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十九話 夏休みと懸念

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#135


 合宿という場での定番の夕食と言えば、何を想像するだろう。

 環境により変化はあるものの、定番と言えばカレーではないだろうか。


 料理の工程も定番ゆえに簡単なもので、今日も例外なくカレーが振舞われた。

 雫と綺羅坂が率先して調理に取り掛かり、三浦も細かな点をサポートしたり洗い物をしたりと忙しそうに動いていた。


 そんな中、男性陣は何をしているかと言うと、着席して進む工程を眺めているだけだ。

 何か手伝うかと進言してみたが、「動くな」その一言で制された。


 いや、まあ分かりますよ。

 男子が余計な手出しをして余計な仕事を増やすくらいなら、いっそのこと動くなと言う方が楽だというのは。

 

 これが俺や火野君ではなく、目立ちたがりな男子生徒なら完全に手伝うと言い出すに決まっている。

 だが、動くなと言われたからには、甘んじてそれを受け入れよう。


 なんたって俺は、楽に生きていきたい男だからだ。

 ……なんてカッコよく言いながらも、なんてくだらない発言をしているのだろうか。


 それくらいに暇な時間、やることもないので火野君と話すことにした。


「やあやあ後輩君……最近はどうだね調子は」


「どうしたんすかその話し方……調子と言われても問題ないっすね」


「そうか……そうか」


 終了。

 問題ないと言わてしまったからには、話を広がすことが出来ない。

 

 本当、会話って難しいね。

 言葉のキャッチボールなんて言い方もあるけれども、一方的に投げて終わったり、逆に投げられた言葉を受け止められないのは得意なのだが。


 これでいよいよやることはなくなった。

 目の前で調理をする女子生徒達を眺め、手際の良さに感心しているしかない。


 すると、その視線に気が付いたのか雫がこちらに目を向ける。

 しかし、野菜を切る手を止めることは無い。


 なんでこっちを見ながら野菜が切れるんだ。

 俺なら完全に自分の手を調理しているぞ。


 湊君の簡単クッキングが、バイオレンスクッキングになっているに違いない。


 そんな雫は少し頬を赤らめ小さな声で呟く。


「湊君……熱い視線を向けられても」


「違うわ……感心していた俺の気持ちを返せ」


 いつ、そんな熱い眼差しを向けたのだ。

 最近、君はキャラのブレ方が凄い気がするのは、彼女の本来の姿が出てきている証拠なのだろうか。

 

 しかし、そんな彼女の発言に黙っていないのが一人。


「何を勘違いしているのかしら、真良君が見ていたのは私の背中よ」


「それも違う」


 親父の背中を見ているみたいに言うな。

 背中を見たところで見えるのは結局のところ背中だ。


 面白くもなんともない。

 だが、二人はいがみ合うように視線をぶつけ合い、尚も調理を進める手を止めずにいた。


 三浦もこの環境に慣れてきたのか、呆れているように溜息を零しつつも仲裁することなく自分の作業を進めていた。


 そんな状況で出来上がったカレーは、見事なまでに美味しそうである。

 皆が座る席に配られたカレーを置き終えたころ、会長と小泉は戻ってきた。






 食器とスプーンが当たる音と、最低限の会話だけの室内。 


 会話の内容も味の感想、今後の予定の話など差しさわりの無い会話ばかり。

 様子のおかしい小泉について、どこまで踏み込んだ問いをしていいのか、皆が探っているように感じた。


 それは火野君であり、三浦であり、雫もどこか気にしているように感じる。

 綺羅坂は一貫して我関せずといった様子だが、会話の話として出していないのは親睦のある会長への配慮か……。


 何にせよ、料理の味は抜群であるのに、味気の無い夕食となった。



「ご馳走様でした、用意に参加できなかった分、私たちが片づけをしよう」


「そうですね、皆は先に汗でも流してきてよ」


 会長と小泉が告げる。

 ここでいつもなら、自分たちも手伝うと言いたいところだが、今は言えない。


 まだ、会長と小泉に間での話が終わっていないだろう。

 

「じゃあ、お願いします」


 席を立ち、食器を流しに置いてから部屋を後にする。

 他の四人も同じように部屋から出て行った。


「重要な話ですかね?」


 既に暗くなった廊下を進み、荷物を置いてある生徒会室に向かう中、火野君の問いが廊下に響く。

 三浦は答えることはなく、そして内容を知らない俺達にも答えようがない。


 それを理解しつつ、雫がこちらに向けて質問を投げかけてきた。


「湊君はどう思いますか?」


「……」


 ここで三浦に問いかけないのは、答えを彼女が言わないからだろう。

 なら、個人的な見解だとしても、意見を聞いておきたいそんな意味での問いなのだと感じた。


「少なくとも俺達が全く関係ない話ではないだろうな……あの会長が露骨に二人だけの時間を作っているんだ、生徒会に関する問題であることは確かだろう」


 直接的に関わるのは小泉なのかもしれない。

 だが、俺達生徒会の役員達にも少なからず関係のある話であることまでは予想ができる。


 分からないとすれば、雫と綺羅坂をこの勉強合宿に呼んでいることだろう。

 本当に生徒会だけの問題なら二人は呼ばずに行われているはずだ。


 だが、今回はこの二人を呼んだ。

 何かしらの役目、もしくは手助けになる役目を与えたいから呼んだと仮定するのであれば、俺の想像よりも厄介な問題なのかもしれない。


「……明日あたりが重要になるだろうな」


 明日は折り返しの二日目。

 何か行動を移すのであれば、最低でも明日には話があるはずだ。


 だから、今日出来ることがあるとすれば、自分のできる範囲で課題を進めて、明日からの日程を楽に行動できるようにしておくことくらいだろう。



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