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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十八話 花火と境界線

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#130


 自宅から駅まではさほど遠くはない。 

 三人、横に並んで歩いているが、周りにも似たような人達が、同じ方向に進んでいた。


 中には浴衣姿のカップルや、小さな少年少女が可愛らしく小さな浴衣に身を包み、楽し気に駆けている。

 昔は、楓もああやって一人で先走って転んでいたことを思い出す。


 偶然か、楓も同じことを思い出していたようで、呟くように言った。


「懐かしいですね……私も昔はしゃいで転んでいました」


「何もないところでも転ぶからなお前は」


 なんだったら、今も転びそうまである。

 兄妹の会話を羨ましがるように、優斗は話しかける。


「俺にも兄弟がいたら家でも楽しかったのかもな」


「……否定はしないが、一人っ子も良いところがあるだろ」


 例えば、好きなものを買ってもらえるとか。

 ……あとは、基本的に独り占めが出来るくらいだろうか。


 一人は一人で気楽そうだから、良し悪しなのだろう。


 

 駅に近づくにつれて、周りの人口密度も増してくる。

 先ほどまでは横並びで歩いていても問題なかった歩道も、今は縦一列に並んで歩いている。

 

 時折、すれ違う人と肩が当たりそうになるくらいになると、視界に集合場所の時計台を捉える。


「多分、お二人で一緒にいるはずなんですが」


「あまり期待はしない方がいいぞ……」


 隣同士で立っている姿など、想像する方が難しい。

 あの二人の不仲具合は筋金入りだ。


 

 スマホの画面で時刻を確認しながら、周りを三人でも回す。

 あの二人がどのような格好で来ているのか聞いていないが、周りが似たような服装ばかりで探すのが面倒である。


 なんで、若い連中はああも似た服装ばかりで歩いているのだ。

 分かりづらいったらこの上ない。


 最近の量産型格好に内心で苦言を垂れていると、見回す視線がとある場所で止まる。


 何度も経験したことのある、周りとの圧倒的な差。

 格好や化粧などでは決して真似できない、そもそもの素質の違いを彼女達は見せつけていた。


 常人を魅了し、視線を集めるその容姿。

 あまりにも整い過ぎてるためか、彼女達には近づく勇者は見当たらない。


 これが、一人ならまだいたのかもしれない。

 しかし、そんな人物が二人も並んでいたら、確かに話しかけるのは容易ではないのだろう。


 ゆっくり、進む方向を変えて彼女達の方へ歩み寄る。

 むこうも俺達が来たことに気が付いたのか、つまらなさそうにしていた表情を明るくさせた。


 まあ、綺羅坂に関しては変わるというほど変化はなかったのだが。

 

「こんにちは湊君!それに楓ちゃんと荻原君も」


「ああ……浴衣にしたんだな」


「はい!」


 元気よく返事をする雫の姿を今一度確認する。

 白色を基調にして水玉のような模様の入った白色の浴衣に、小さな巾着を持っていた。


 雫の白い肌と明るい表情と相まって、とても似合って見える。


「……随分待たせるわね、真良君の癖に生意気ね」


 そして、隣の綺羅坂も同じように浴衣に着替えていた。

 雫とは対照的な黒色の布地に青色の花柄の浴衣は、凛とした雰囲気を纏う綺羅坂をさらに大人びて見せる。


「悪いな……これでも時間には間に合わせたんだがな」


 反省などみじんも感じなせない謝罪で、彼女からの言葉攻めを回避すると、楓や優斗もそれぞれに挨拶を交わす。

 雫と楓は互いの姿を褒め合い、和気あいあいとした空気が流れる。



 挨拶も一通り終わると、雫と綺羅坂が無言でこちらに視線を向ける。

 何を意味しているのか、すぐに察したが言葉にすると恥ずかしいものがある。


 何より、妹と友人の面前で言わなければならないことが、さらに言いづらさを加速させる。


「……良いんじゃない?」


 

 何故、俺は疑問形で返答をしてしまったのだろう。

 こんなところでコミュニケーション能力、さらに言えば語弊力の無さを露呈させてしまうとは。


 恥ずかしさを隠すため、背を向けて一人先に歩き出す。

 後ろからクスクスと笑う様な声が聞こえたのは気のせいだろう。



 



 

「相変わらず賑やかですねー」


 楓が祭りに集まった人を見ると、率直な感想を漏らす。

 確かに賑わっている。


 むしろ、賑わい過ぎて気分が悪くなり始めたまである。


 ぶつからないように、そして悪目立ちしないように歩くというのは意外に神経をすり減らすものだ。

 それに、今年は余計目立つ三人を引き連れて歩いているのだから、尚の事周りからの視線を気にしていた。


「毎年花火の規模も増しているし、出店の数も増えているんじゃないかな」


「毎年見ていると、同じように見えてしまうのがもったいないですよね」


 後ろで雫と優斗がそんな会話をしていた。

 いくら有名な祭りや花火でも、毎年見ていると確かに新鮮味を感じないのは分かる気がする。


 それをもったいないと思うのかはさておき、俺にはどこが例年と違うのかを見つける方が難しく感じてしまう。

 下手な間違い探しよりも難しい。


「人が多すぎるわね……減らしてやろうかしら」


「……」


 どこの神様ですか、あなたは。

 発想が怖すぎて身震いが止まらないのだが……。


 それにしても一体、どんな減らし方をするんですかね。

 間違いなく空から何かを打ち落とすに違いない。


 金曜ロードショーとかでもよくやっているもんね!

 毎年恒例でSNSのサーバーがダウンしたってよく聞きますもん。



 各々、人混みや出店などの感想を述べている中、すれ違った団体からの言葉が耳に届く。

 言葉だけで、どんな人が言っていたかは定かではないが、その声は確かに聞こえてきた。


「うわ、マジで綺麗だなあの人」


「後ろの二人も可愛いし、隣のやつもイケメンだよな」


 他意の無い、完全な他人からの意見ほど正確で信頼できる言葉はない。

 人間関係や性格、その他の情報など一切なく、外見で判断しているのだから。


 彼らの会話に自分が入っていないことなんて、今更気にすることでもない。

 そもそも、俺がこのグループの一員であることすら、彼らは思ってもいないだろう。


 無駄に目立つ連中だから、当然似たような声はちらほらと聞こえてくる。

 

 本来であれば、劣等感や嫌悪感が心中を渦巻くのかもしれない。

 自分だけ同じように見られないことを嘆くかもしれない。


 だが、これが現実であり、これまでも同じだった。

 今に始まったことではない事実を、久方ぶりに言われただけのことだ。


 人間、無いものを持つと人間性が変わるとよく聞くが、俺も忘れかけていた。

 最近は、周りの人間に恵まれているのか、呪われているのか、どちらにせよ人が集まる環境に身を置いていた。

 

 慣れとは恐ろしいものだ。

 自分も彼らと同じような立場であると、同じカテゴライズをされているのだと錯覚にも似た感覚でいてしまっていた。


 

 どんな環境であろうと、決して変わってはいなかったのだ。

 俺と彼らとの差は、こんなにも明確になっているではないか。

 

 それを再確認できたからなのか、俺の心中には何故か安堵の気持ちだけが支配していた。



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