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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十八話 花火と境界線

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/355

#128

更新が遅くなりました!



 夏休み前の最後の関門、期末テストの結果は別段、普段と変わるような成績ではなかった。

 可もなく不可もない。


 これといって高い点数の答案用紙は帰っては来なかった。

 

 だが、これで夏休みに赤点などの補習に呼ばれる心配は無い。 

 たまに「俺補習だわ!」とか、教室内で堂々と声高々に言いふらしている輩がいるが、何を自慢げに語るのか一度聞いてみたい感はある。


 だが、残念ながら身の回りにいる生徒は、大概が満点に近い点数しか取らないので、これは次回の機会まで残しておくことにしよう。

 その次回が何年後になることかはさておき。


 

 これでいっそう、教室内のムードは完全に夏休み一色になる。

 杞憂も晴れて、本格的に計画を練ることが出来るから、表情も明るい。


 放課後の合図の鐘が校内に鳴り響くと同時に、いつもの事ながら俺の一つ前の空席に腰を下ろした雫は、何やら広告を片手に持っていた。

 よく見ると、今年の花火大会の広告である。


 見覚えがあるのは当然だ、最近は朝刊に混ざって入っていたこともあるし、町中いたるところに貼り出されている。


 雫も本格的に今週末の話を詰めに来ているのは、問いかけなくとも容易に分かる事だった。

 無意識に視線を広告に移すと、そこには『最大の打ち上げ』なんて、いかにもな売り文句が書かれていた。


 大体、この手の広告は毎年が過去最大規模である。

 そのうち、最大過ぎて町が火事になってしまうのではないかと、今から心配でならない。


 要らぬ心配など他所に、隣の綺羅坂は以前として視線を落としたままである。

 けれど、普段よりページをめくる速度が遅いのは、会話を聞きつつの読書だからだろうか。


 雫は続けて言葉を紡いだ。


「今年も花火の打ち上げ時間は変更ありませんし、混み始める六時より前に買い出しに行けば問題は無さそうですね」


「まだ参加するとも言ってないんだが……楓にも連絡してないし」


「楓ちゃんなら私の方から連絡して承諾を貰いましたよ?」


 小首を傾げて、何か問題でも?とでも言いたげな表情を見せて雫は話を進める。

 お兄ちゃんはそんな連絡を貰っていないのだが……

 


 それにしても、これで先手は打たれてしまった。


 さりげなく楓に断ってもらう選択肢も考えてはいたのだが、楓が断るとも思えないし、そもそも雫と楓も連絡先を交換しているから個々人で連絡を取れる。

 幼馴染とは、何とも厄介である。

 


 隣の席の綺羅坂も、雫の話に耳を傾けていた。

 この人も賛成派の派閥なので、何も期待はできない。


 何気に、最近この二人は本当は気が合うのでは?なんて思ってしまう状況が多々ある気がする。

 

 雫は、例年の傾向から出店の配置を予想して、目的のルートを説明していく。

 

「駅前には店の数は少ないので、商店街の大通り……それから神社の外苑がいえんによく店を構えている道を回りましょう」


「……俺はたこ焼きとか焼きそばが買えれば文句はない」


 じゃがバターやお好み焼きなども捨てがたい。

 無難なチョイスなのは重々理解しているが、下手に珍しい食べ物を買って損した気分になることは避けたい防衛意識があるせいか、毎回同じ食べ物を買ってしまう。


 結局のところ、人気があるから無難と言われるのであり、必然的に買うのが祭りの一連の流れとまで言える。

 

「魚屋で売っているホタテの串焼きなども買いましょう!普段からお世話になっているのだから売り上げに貢献です」


 雫は小さく胸の前で拳を握ると、何とも優しさに溢れる提案をする。

 おっちゃんが焼いていることが、少々……いや、大いに悔しいのだがこれが美味なのだ。


 真良家に関しては毎週のように売り上げに貢献していると、思わず喉元まで出かかったが、ぐっと言葉を押し殺す。


  

 雫が鞄から蛍光ペンを取り出し、ルートを分かりやすいよう彩っている間、広告に記載されているスケジュールを今一度確認する。

 毎年の事なので、これといった目新しい内容は書かれてはいない。


 ただ、歩行者天国の開始時間と日時、場所、花火の時間などが書かれている。


 当日、俺がやるべきことは荷物持ち、以上。

 結局、男の役目なんて単純なもので、分かりやすくあり、そして納得は出来ないものだ。




 話も終盤に差し掛かり、解散の雰囲気になりつつある時、クラスメイト達の輪から優斗が歩み寄ってきた。

 後ろでは気を落とした、落胆にも似た様子の生徒達が数人いることから、おおよその検討はついた。


「俺も一緒にいいかな?」


「……断る理由もないだろ、荷物は半分持ってもらうからな」


 内心、この話が進むにつれて誰が集まるかなんて、予想はついていた。

 優斗だって俺達の方へ合流するのは当然予想済みだ。


 何より、雫がいる状況でこのイベントを無視するとは思えない。

 

「んじゃ……祭りはこのメンツに楓を加えてだな」


 時間の打ち合わせも、流れもこれで決まった。

 あとは、当日を迎えて流れに身を任せるしかない。


 高校二年の夏、これだけで何か最大級のイベントに聞こえるが、その二年の夏祭りがもう目の前にまで迫っていた。


 そして、夏祭りを合図に俺達の通う桜ノ丘学園は夏休みに突入することになる。



夏祭りの話は次回の更新分からになります!


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