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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十八話 花火と境界線
137/353

#127


 花火大会について盛り上がる校内を、一人目的地もなく進む。

 どこの道を歩いていても似たような話ばかりで、変わりがあるとすれば話す人間が違うことくらいだろう。


 誰を誘うか、どこに待ち合わせるか、祭りに連れていく彼女はいるのか。

 高校生の会話らしくもあり、初々しくもある。


 大人になる連れて、この手のイベントでこれだけ楽しそうに待ち望むことがなくなってしまうと聞く。

 学生の頃のように、日々追われるものが少ない時代だからこそ、現在を楽しめる環境にいるからこそこうして何も気にせず楽しんでいられるのだ。


 だが、そこの諸君たち、先の話ばかりで夢中になっているところ悪いが、君たちも現実を見ることになる可能性もあるのだ。

 何を隠そう、いや隠せていないのだが、この次の時間では、ある答案が返されることになっている。


 そう、期末テストの結果だ。

 実は先週の一週間をかけて一学期の期末テストが行われていた。

  

 今回は事前にテスト勉強をしたなどは無かったため、大して話すこともなかったので割愛していたが、その答案が今日返されるのだ。

 休み時間が終わるに近づいて、具合が悪いように顔色が悪くなる生徒がちらほらと見え始める。


 そんな中を、一人悠々と廊下を歩いて自販機に向かう人物こそ、何を隠そう……いや、隠せていないのだが俺だ。

 そもそも隠す必要性も、隠れるつもりのない。


 まあ、俺が何故こんなにも周りよりか気にせず歩いているのかと問われれば、答えは簡単。

 テストの答案なんて、きっと平均点位だから。


 ミスター平均。

 俺をそう呼んでいただいても構わない。


 恥ずかしいから、加えてダサすぎるからこのあだ名は無かったことにしよう。



 今回の期末テストに関しては、自己採点でもおおよそ平均点であることは分かっている。

 同じタイミングで綺羅坂と雫が採点をしていたのだが、二人とも満点ばかりだった。


 秀才どもめ……

 雫は「次はちゃんと復習しましょうね」と微笑んでいたが、綺羅坂に関しては「あら、真良君の点数は反対にしても私の方が上なのね」なんて言ってきたもんだから、アリ並みに小さいプライドが傷ついてしまった。


 絶対に忘れない。

 と、悪い意味でも良い意味でもなく、心配する必要性がないのでこうして自販機の前で何を買うか迷っているのだが、先ほどの教室での会話を思い出していた。

 

「祭りね……」


 正直、乗り気ではない。

 勿論、楓には話をして、その結果によっては俺の家に集まるのは仕方がないだろう。


 だとしても、祭りの雰囲気自体が嫌いな訳で、つまりは人が集まってワイワイと騒ぐ行為自体が嫌いないわけなので、自然と乗り気でないのは致し方あるまい。


 それにしても、花火大会を楓以外の人と見ること自体、何年ぶりの事だろうか。

 多分、雫が俺の家に来て見ているくらいなので彼女に聞けばすぐにわかることだ。


 しかし、俺の記憶の限りではかなり古い記憶になる。

 今となっては幼い頃の記憶で、あの頃はどうやって祭りを楽しんでいたのかすら忘れてしまった。


 適当に自販機から飲み物を買うと、片手に持ち教室までの復路を歩く。

 最中、考えるのは当日について。


 花火大会は打ち上げが午後十九時から、それまでは露店が駅前通りで開催されていて、歩行者天国となる。

 車は一切侵入できず、道路の両脇に店がずらりと並んでいる。


 できれば歩行者で埋まる前には買い出しを済ませて家に戻っていたい。

 今日の帰りにでも商店街のおっちゃんに当日の出店の営業時間を聞いておくのも、一つの手だろう。


 教室に着くまでの間、同じ道を戻るということは同じ喧騒の中に戻るということ。


 視界の端では生徒達の浮足立っている様子が入って来る。

 少し髪を茶髪に染めた、いかにも高校満喫している勢の生徒だろう。

 彼を中心に、一様に今週末の計画でも話しているようだった。



 そんな彼らを見ると同時に、自分と彼らとの違いを感じていた。

 俺には彼らのように祭りを満喫することはできないだろう。

 


 何故か、それは完全に持論であり、今までの生き方が関係している。

 周りと一緒に騒ぎたいと思わない、皆で祭りに行きたいと思わない。


 集団で行動する際には、全員が全員楽しく自分の選んだ方向性で行動するわけではない。

 誰かが妥協し、誰かが気を使い、顔色を窺って行動しているのだ。


 それは無自覚でやっているのかもしれない。

 だが、俺にはそれが酷く嫌なものに見えてならない。


 一人の中核が決めた選択に、流されるように従うことが楽しいと言うのであれば、俺は楽しい仲間での遊びなど参加しなくてもいい。

 いや、参加しない方がいい。


 一人とか寂しいとかよく言われるが、それは誰が決めた。

 真の個を極めた俺に言わせれば、一人とか最高だぞ。


 自分の決めた場所や食べ物、気を使う必要性すらない。

 だから、一人での行動は一番理想的なのではないかとすら思う。


 なんて、これはあくまで持論だ。

 持論であって、正解ではない。


 出題者などおらず、問題にすらない問いに正解なんて無いのだろう。

 

 そして、現実は理想や願い通りに事を運ぶことは稀であり、俺の考えとは裏腹に自分を取り巻く人間関係は複雑になり始めていることだけだ。


 一人、窓の外をボンヤリと眺めていた頃が懐かしい。

 たった数か月前のことを懐かしむように思い出し、俺は生徒で賑わう廊下を歩き教室へと戻った。

 


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