#125
校舎には暖かいと言うには強すぎる日の光が差し込み、夏もいよいよ本番を迎える。
それに伴って、生徒達も右肩上がりでテンションが上昇していた。
夏は、それだけ学生にとっては重要である証拠だ。
しかし、反対に教師たちはやる気が下がっている気もする。
学生には長期の休みだが、教師たちは社会人なので関係ない。
生徒が来なくとも仕事はある。
日々、繰り返される社畜魂に俺は感服せざるを得ない。
出来ることなら、一生家でぬくぬくと暮らしていたい。
だが、それを許さないのも世の常である。
来年、つまりは三年生のこの時期は、目の前に受験が迫っている。
当然、遊べる時間も減り目の前の重圧で夏休みライフを満喫出来るかは定かではない。
入学してから一年が経ち、周りの人間関係が完成している二年生は、最も夏休みを満喫できる学年ではないだろうか。
だが、遊びたいという誘惑を押し殺し、二年生の夏休みに夏期講習など前もって勉強しておく生徒も多かろう。
そうすれば、来年のこの時期もある程度の余裕を持って暮らすことが出来る。
現にちらほらと、周りでも同じような話をしている生徒がいた。
「夏期講習で合宿があるんだよ」
「俺のところも三日間泊まり込みだ」
夏期講習で泊まり込みとか、なんの罰ですかそれは。
何でもかんでも泊まり込みで行えばいいとでも思っているのだろうか。
集中力もやる気も時間と共に減少していくのだから、短時間で効率的に勉強するのが真良家では正しい勉強方法と言われている。
でも、俺の夏休みはクーラーの効いた部屋でテレビを見て過ごす。
家から出ない。
出たとしても買い物だけ、そう心に決めている。
だが、最近は決めたのに実現できていない節があるので、あえて家から出るという計画を立てるのもあり。
そうすれば裏を返して何も用事が出来ないという結果になるかもしれない。
なんて、下らない思考に頭が動くのは、当然ながら俺の席の近くには人が集まってこないからである。
友達でもなく、知り合いとも言えない、ただのクラスメイトを誘うほど人手不足の生徒はこのクラスにはいないらしい。
俺も誘われたところで、絶対に行かないのだから問題は無い。
これが正しい状況であり、光景なのだ。
正反対に、教室の真ん中に陣取っている優斗と雫は夏休みのお誘いの対応に追われていた。
やれ映画に行こう、遊園地に行こう、避暑地に行こうなんて提案が四方八方から投げかけられていた。
「……こんな暑い中よく出掛けるな」
呟いた声は、教室の話声と外からの騒音により霧散となって消えた。
窓の外からはミンミンと蝉が鳴き声を響かせている。
まったく、どこの栄養ドリンクですか君たちは。
今時、エアコンも設置されていない教室で、ただあと数日と迫った一大イベントに胸躍らせる生徒達は眺めるだけで時計の針は少しづつ動いていく。
そんな中、隣では綺羅坂が相も変わらず持ち込んだ文庫本に視線を落としていた。
クソ暑い教室で、一人涼し気に読み進めている。
それを暇つぶしに眺めていると、気が付いたのかそれとも最初から分かっていたのか綺羅坂が呟いた。
「暑いわね……加えて隣から熱い視線を向けられると私も熱中症になってしまうわ」
「大丈夫だ、人間の視線ごときで熱中症にはならないから」
俺の視線からは何かレーザーでも出ているんですかね。
言葉の割にはそぐわない表情では、まるで説得力がない。
彼女から視線を逸らしてはみたが、会話は続く。
「確認なのだけれど……週末は時計台に十七時でいいのよね」
「俺の予定を勝手決めるな……週末なんて何も約束してないだろ」
脳内カレンダーには何も予定は記入されていない。
つまり、家で穏やかに過ごすことになっているはずだ。
あらかじめ決まっていたかのように言った綺羅坂の発言に、速攻で否定する。
彼女も俺の返答は大体予想が付いていたのだろう、視線すら動かすことはなかった。
しかし、次の言葉は俺にではない誰かへ向けられていた。
「だそうよ、神崎さん」
「湊君!週末は暇でしたよね!?」
……おかしいな。
ほんの一瞬前まではクラスの中心で生徒に囲まれていたはずの雫が、今は俺の机に手を置き前のめりになっている。
しかも、この子さりげなく俺に「どうせ週末暇だろ?」的な意味を含んでいそうな発言をしたぞ。
雫は俺の答えを聞く前に、今回の話の中心ともなる言葉を告げた。
「花火大会に行きましょう!」
花火大会……。
この田舎の町にも、とうとう夏が訪れた。
湊たちにも夏の訪れ




