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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十六話 理解と恋心
119/353

#112

遅くなりましたが更新になります


 幼少の頃から頻繁に遊びに訪れた神社やその裏に流れる川辺、図書館を回った。

 道中、ポツリポツリと綺羅坂は自分のことについて語ってくれた。


 読書をしているのは言わずもがな、長期休みには家族で海外旅行に行っていることや、時間があればスポーツ観戦もしているらしい。

 意外と行動的というか活発的というか、自宅でゴロゴロ休日を過ごしている俺とは違っていた。


 二人きりの状況が、デートと言う口実が綺羅坂を開放的にしているのか、いつになく楽しそうに話していた。


 真良湊コースと題打っただけに、俺が昔から過ごしてきた場所を巡るだけに行く先が限られる。

 次の中学とそのあとに回る商店街で今日のコースは完走となるだろう。


 二年前まで通っていた中学校の建物を視界に入れると、グラウンドのある方向から掛け声や指示が飛び交っていた。


「休日でも中学なら部活があるものね……少し見ていきましょうか」


「ああ……別に構わないけど」


 中学校の裏側、生徒からは裏門と呼ばれる小さな門がある場所から、グラウンドの中を覗き見る。

 そこには中学生たちが、各々の部活動に汗水、中には鼻水すら流していそうな勢いで部活に精を出していた。


「ここで真良君も練習していたのね」


「……」


 綺羅坂の視線の先では、サッカー部が練習をしていた。

 卒業してから二年、ちらほら見た顔があるが話しかけるほど仲良くなかったし、今更先輩ずらして中に入る気にもならない。


 自分が在校生だったとして、そんな先輩が隣に超美人な女性を連れて来るとか……考えるだけでムカッとしてしまう。

 リア充め、と血走った目で睨みつけてしまうかもしれない。

 

 生徒の中に、一人の教師の姿を見つけた。

 俺が在学中と変わらず、男性の監督が両腕を組んで静観している。


 ……変わっていないってのは間違っていた、訂正をしよう。

 体格が心なしか丸型にアップグレードしていた。


 暴飲暴食してしまったんですか……監督。

 あんなに自分では生徒に食べ物にも注意しろ、なんて怒鳴り散らしていたのに。


 まあ、最近はいろいろと大変だっていうからね……主に保護者が。

 悲哀の目で監督を見ているが、不思議とそれ以外に特段思うところはなかった。


 昔はあんなに会いたくない教師だったのに、今になればどうということはない。

 既に自分の中で、過去の出来事と受け入れていることを再確認できた。


「……いくら練習したところで、どこかで現実に戻される」


 気が付くと呟いていた。

 将来はサッカー選手になる、全国大会で優勝するなんて叶いもしない大それた夢を語る年頃だ。

 

 でも、どこかで現実に戻される瞬間がある。

 俺には確かにあった。


 自分では、努力してもあの監督の目には留まらないと、熱意がなくなってしまった瞬間があった。


 無駄な努力は無いと言う人もいるが、実際無駄な努力はこの世にいくらでもある。

 その経験が自分の糧になっていると言うが、どうだろうか。


 俺、小学校で学んだ理科の授業とか、今のところどこでも活躍していないのだが……。

 頭を捻りだして、唯一あるとすればべっこう飴を楓と家で作ったことくらいだ。


 あれ、理科の授業じゃなくて、完全に家庭科の授業だよね。

 


 なんて考えをしていると、隣の綺羅坂は踵を返した。


「もういいのか?」


「ええ、ちょうどあんな感じで湊君もここで部活をしていたことを知れたから、別に他の人には興味ないもの」


 相も変わらず、綺羅坂は興味のない人物などにはとことん気にならないらしい。

 スタスタと先に行ってしまう綺羅坂を追う前に、もう一度だけグラウンドへ振り返る。



 名残惜しいと思うこともなく、またあの頃に戻りたいとも思わない。

 中学という時代は記憶の片隅で、埃をかぶったように思い出されることはなく終わってしまうのかもしれない。


 でも俺にも、いつか今日のように中学を訪れた時、懐かしく良い学生時代だったと思える時が来るのだろうか。

 もし、そんなことを想える日が来るとすれば、今とは正反対の性格になっていることだろう。


「そんなの来るわけないか……」


 人間、そう簡単に変われない。

 ましてや正反対のような人間に代わるだなんて、高校デビューの上位互換として俺の中では位置されている大学デビューでもしない限りあり得ない。


 綺羅坂を追う中、そんな答えを選択していた。



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