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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十五話 屋上と昼休み

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#107


 綺羅坂とのデートの話の前に、後日談として一話だけ作りました。

 次話更新が新しい話になります。








 夏が近づき、生徒のテンションだけでなく気温まで上昇している今日この頃、俺の周りは相変わらずの寒々しさをみせていた。

 一人柵に手を置いて見下ろす視線の先には、多数の生徒が中庭で優雅なランチタイムさながら昼食をとっていた。


 その中に、雫の姿もある。

 女子生徒の中心で、ニコニコと楽しそうに会話に花を咲かせている雫は、時折、周りをチラチラと見回すように頭を動かしている。

 

 誰かを探しているのだろうか……。



 珍しく今日は妹手製の弁当ではなく、コンビニのおにぎりを頬張っていると不思議と上を見上げた雫と目が合った。

 何、あの子は湊君専用広域センサーでも搭載しているのですか……?


 きっと、俺があのセンサーに探知された時点で「この気配は湊君!?」だなんて、どこかのアニメさながらのやり取りが行われている……そんな訳ないか。


 雫の探索範囲内にいたことを知った俺は、ジッと視線を逸らさない雫にひらひらと小さく手を振る。

 すると、雫も周りに気が付かれないように胸の前で小さく手を振っていた。


 それにしても、何故だろうか。

 頭に浮かぶのは、数日前の綺羅坂とのやり取り。


 彼女が何を思い日々生活していたのかを、全てではないが断片的には知ることができた。

 知ることを望んでいたわけではないが、知ってしまった以上無視するわけにもいかない。


 あくまで個人的にだが、人間関係など、広くしていいことは少ない。

 狭く深くの方がいいに決まっている。


 友達が沢山いますと言った所で、その先どれだけの人間と付き合っていくのかを考えると、無駄な労力に思えてならない。


 だから、本当に長い付き合いになる人以外は、基本的に踏み込まないようにしてきた。

 けれど、彼女がそれを知っていて話してきたのは、今後も関わり続けるという彼女なりの意思の表れなのだろうか。



 と、そんなことはどうだっていい。

 先のことを考えていたところで、それは先の話でしかない。


 確定していないことに、時間を割くほど今は余裕がない。


 問題は、彼女の言葉をもう二日と迫ったデートという強制イベントについてだ。


 今一度会話の流れについて思い返してた。


 彼女が何故俺を気に入っていたのか、それは周りの生徒のように彼女を特別扱いしていないことに好感を持たれた。

 では、なぜ俺が彼女を特別扱いしていなかったのか。


 それについては簡単だ。

 知らない相手に特別扱いするほど、俺は人間出来てはいない、それだけのことだ。


 初対面にかかわらず、たいして知りもしない相手をただ容姿や成績などが優れているから、自分にとっては特別扱いする対象に入るか……否だ。


 結局、ただの他人でしかない。

 だから、俺は彼女を特別扱いなどしなかったのだ。



 そして次にデートについて。

 これは現時点において、一番の最重要案件だ。


 何が問題か、それは回避ができないということ。

 口では簡単に断ることができるが、彼女の性格を考えるに強制的にでも連れていかれそうだ。


 実力行使、なんて恐ろしい女の子なのだろう。



 日に日に増えるため息の回数を実感しながら、それでも一度深いため息をつく。


「……でも、その理由も分かっていない」


 柵に背中を預けるように寄りかかり、体制を変える。

 見上げた空は、俺の気分とは違い嫌になるほど快晴だ。


 俺には、彼女が俺とデートをしようと言い出した理由が分からない。

 好意を寄せられていたとは思えないし、彼女の言葉を何も疑わずに素直に受け止めていいものか。



 謎が多い美少女だけに、裏を探ってしまう。


 今も俺に出来ることがあるとすれば、当日に彼女の行動が探ること以外ないのかもしれない。



 昼休みも半分が経過したころ、屋上の戸が開く音が響く。

 ギギギと、少し錆びて滑りの悪い音だ。


 視線を入り口へ向けると、そこから出てきたのは優斗だった。


「やっぱりな、ここにいたのか」


「……」


 俺を探していたかのような口調に、用事でもあったかどうか一瞬だけ考える。

 まあ、用事がないところでこいつは来そうだが。


 隣にまで歩み寄ってきた優斗は、同じように背中を柵に持たれかけて止まった。


「聞いたよ、週末綺羅坂さんとデートをするんだってな」


「相変わらず情報が早いことで……」


 どこから聞いたんだこいつは。

 謎の情報網に驚いていると、案外身近な名前が出てきた。


「神崎さんから話を聞いてね、無理したような笑顔で『湊君を一日だけ貸してあげるんです』ってさ」


「俺はあいつの所有物ではないけどな……」


 貸してあげるとは何事か。

 容易に想像できるその姿に、おもわず苦笑が出る。


「でも、俺は良いと思うけどな」


「何が?」


 主語がない優斗の言葉に聞き返す。

 何が良いのか分からないだろうが。


 俺の問いに、優斗はニヤリと口元を歪ませて答えた。


「綺羅坂さんとのデートのことだよ、きっとクラスの人に話したらみんな羨ましがるぞ。それに湊は極端に人と出かけないからな……良いことだと思うよ」


「……周りが羨むことが必ずしも良いことじゃない」

 

 むしろ、俺から言わせれば迷惑なことの方が多い。

 だからこそ、こんなにも気分が落ち込んでいるのだ。


 結局、こいつは何を言いに来たのか、いまいちわかりかねているとようやく本題を話し始めた。


「俺も当日、神崎さんと出かけるんだ……と言っても湊の後を追うってだけだけどな」


「堂々と尾行宣言してどうすんだ」


 それはもはや尾行ではないだろう。

 俺が知っている時点で、この二人も引き連れて歩いてるに近い。


「神崎さんは一人で付いていくって言ってたんだけどね、俺が無理言って同行させてもらうんだ」


「……左様ですか」


 隠していたけど嫌そうな顔されたよ、そう笑いながら優斗は言った。

 こいつも、雫にアピールを続けている一人だ。


 またとないチャンスと見て、行動に移したのか。

 それを俺に報告する意味もないが、彼なりの信念でもあるのだろうか。


 だが、当日周りに見られていないか気にする必要もなくなったのは、精神的に楽になったのは確かだ。

 俺の反応を見て、優斗は真面目な表情に変える。


「綺羅坂さんは、考え方が湊と近い部分があるからもう少し違った顔をしていると思っていたんだけどな」


「……何を唐突に」


「いや、悪い!俺はそろそろ教室に戻るよ。当日、後ろから楽しませてもらうからな」


「……性格悪いな、お前」


 人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。

 後ろから眺めているだけなら、さぞ楽しいことだろう。


 デートなんて、当事者以外が見ているほうが楽しいまである。


 二ヒヒっと、悪ガキのような笑みを浮かべて優斗は屋上から去った。

 結局、あいつは何を言いに来たのだろうか。



 一人になった屋上で、昼休み終了の鐘が鳴るのを空を眺めボーっと待つのだった。



次話からデート回になります。

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