#102
HJ大賞2018で一次選考通過いたしました。
この作品を読んでくださった皆様のおかげです!
本当にありがとうございます!
引き続き、作品を楽しんでいただければ幸いです
更新頑張ります!
突然、右腕を抱き抱えるように飛びついてきた雫は、断りもなく急かすかのように腕を引いてきた。
意識外からの行動で、体が反応できず側頭部をガラス窓に強打した。
姿勢を崩しながらも、立ち上がると雫はその理由を話した。
「次の授業は視聴覚室で映画鑑賞ですよ!」
「……ああ、先週そんなことも言ってたな」
次は現代文の授業。
映画とは無縁そうな授業だが、時折だが映画鑑賞などもしたりする。
教師の完全な個人的教育方針だ。
良い作品は、文章だけでなく映像にも表れる。
内容を読み解く、理解することは映像を見ることでも培われるとかなんとか……
学生からすれば、時間つぶしの良い授業だ。
理由はともあれ、ぼんやりと映画を見ているだけで終わる授業は、生徒の間でも好評である。
「早く移動して席を確保しましょう、隣に座れないと大変ですよ?」
「何が大変なんだよ……お前の席はどうせもう確保してあるだろ」
視聴覚室の中央最後尾辺りの、いわばVIP席が確保してあるはずだ。
彼女たちの取り巻きは、そこら辺に関しては抜かりない。
教室を見渡してみるが、既に数名の生徒の姿が見当たらないのも、それが理由だろう。
別に、俺はどこの席でも構わない。
どうせ、人気の最後尾や窓側、端の席は埋まっているし、空いている席は大体クラスでも浮いてしまっている生徒が座っている隣だ。
静かに映画を楽しむという意味では、最高の席だ。
むしろ、俺はそこに座りたい。
そんなことをしているうちに、教室内には生徒が少なくなり始めていた。
優斗の姿がないのは、雫と同じように彼の隣を確保したい生徒が連れて行ったのだろう。
席が自由とは、本当の意味で自由ではない……なんて格言染みた言葉が脳裏をよぎる。
「……話はとりあえず置いておくとして、私たちも移動しましょうか」
綺羅坂が立ち上がり、そう提案した。
まるで俺の隣には雫がいないと言っているかのように、視線など微塵も合わせる様子がない。
「あら?綺羅坂さんもいらしていたんですか……先に言っておきますが、湊君の隣は私ですからね」
「なら、その反対に私が座れば問題ないわね……それにしてもあなたも居たのね、興味もなさ過ぎて気が付かなかったわ」
「はぁ……行きますか」
バチバチと視線を交わし、毒言で戦いわせる二人。
胃がキリキリと痛くなるような、錯覚を覚える。
二人を連れて教材と筆記用具を手に取り、視聴覚室のある三棟の一階へと歩き始めた。
棟を移り、三年が主に生活している三棟に到着すると、すぐにある視聴覚室の戸を開ける。
映画を見るからか、カーテンが閉められて少し薄暗い教室の中には、既に多数の生徒が席についていた。
予想通り、人気の席は埋まっている。
優斗はクラスメイトに囲まれるように、周りを固められていた。
右側には男子、左側には女子。
境界線でもあるように、綺麗に二つへ別れて生徒達は座っている。
「神崎さん!こっち空いてるよ!」
「え……いや、私は」
俺の後から教室内に入ってきた雫に、一人の女子生徒が声を掛けた。
空いている席というのは、当然だが優斗の隣の席だった。
指定席だと言わんばかりに、ぽっかりと空いた席。
優斗の取り巻きも、それは既に承知の上なのか、だれも何も発しない。
ただ、雫が自分たちの用意した席に座るのを待っている。
入口で困惑している雫に、一言だけ声を掛ける。
「……勝手に用意されている席に、無理やり座るくらいなら好きな席を選べばいいだろ」
「ふふ、不器用なのねあなたは……正直に「断ってもいいんだぞ」って言えばいいのに」
俺の言葉を、翻訳するかのように綺羅坂が苦笑交じりでそう言った。
勝手に訳さないでいただきたい。
どこぞの、男子ツンデレみたいで恥ずかしさが倍増した。
先に進む俺と綺羅坂を見ていた雫は、小さく頷くとクラスメイト達に話をしに行った。
しばらくして、「なんで!?」という驚きにも似た声が教室内に響いたのは、雫が断ったからだろう。
中途半端だが、三人分の席が空いていた場所に腰を下ろすと、優斗たちの座る方へ視線を向ける。
何度も頭を下げて謝っていた雫に、優斗が優しく笑みを浮かべて何かを言っていた。
「お待たせしました!」
「……こっちで良いのか?」
「はい!」
トコトコと、こちらに駆け寄ってきた雫は俺の右側の席に座る。
綺羅坂は左側へ。
これは……両手に花?
いや、両手に薔薇だな。
やけに男子生徒からの視線が集まると思っていたが、これは致し方ない。
学校で男子に驚異的な人気のある二人の間に座っているのだから。
この授業は、居心地が悪くなりそうだ。
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