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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十三話 写真

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107/355

#100

#100話的な何か……

読んでいただきありがとうございます!


 #100話ということで……。

 一話完結ですが、次話に繋がる短い話です。(湊のとある休日の話です)








 職業体験を、無事にとは言えないが、大きな問題を起こすことなく終えることができ、桜ノ丘学園にも平穏な日常が戻った。

 夏休みを手前に、学期末テストも終えた生徒達は、いよいよ夏休みを待つばかり。


 浮足立っている雰囲気が、学校全体に広がっていた。

 かくいう俺も、約40日間の大型の休みともなれば、心待ちにしているのだが……

 


 本日は土曜日、学校が休みの貴重な日に、俺は生徒会の面々と学校へ来ていた。

 休日登校、なんて嫌な響き……


 しかし、今日は雫も綺羅坂も優斗もいない。

 周りは静かで、幾分か気が楽なことだけが救いだ。


 そして、今日は少し前から会長から頼まれていた、ある資料を整理するために来ている。



「これは倉庫に持って行ってもいいんですか?」


「いや、それは隣の資料室に運んでくれ」


 会長が指示を出し、それぞれ必要か不要かで置く場所が異なるため、俺達は適宜会長へ質問をしてから、段ボールに入った資料を移動させていた。


 俺は側面そくめんに『入学式』と書かれた資料を担当して、所定の場所へ運んでいた。

 この高校は、毎年行事の度に写真撮影をして、希望生徒に写真のプレゼントをしている。


 行事が終わると、普段使用していない教室を開けて、壁一面に撮影した写真を貼り、自分が写っている写真などが欲しい生徒は、そこで言えば貰えるシステムだ。


 意外と好評な写真配布だが、そこにも生徒会は絡んでいる。


 入学式から卒業式まで、無数のイベントごとに大量の写真があるので、こうして毎年、整理を行うのも生徒会の仕事だ。

 会長が入学した年の写真もあり、さっきまで生徒会の全員でその写真を見て、今の会長と比較して楽しんでいた。


 会長は頬を赤らめ、恥ずかしそうに俯いた表情は、今どきの少女みたいで新鮮さに溢れていた。


「……これ、一個が重すぎだろう」


 昨年入学、つまり俺達の入学式に関する資料が入った段ボールを持ち上げるが、おそらく2~3キロはあるはずだ。


 これまで運んだ箱よりも、倍くらい重い。


「何が入ってるんだ?」


 会長は基本的に写真と言っていたが、これが本当に写真だけで埋め尽くされているなら、尋常じゃない枚数のはずだ。


 興味本位で開けようかと考えていると、後ろから一人の生徒が近づいてくる。


「開けてみても良いんじゃないかな?僕たちの入学式の写真だから大丈夫だよ」


 後ろで更に古い年度の資料を整理していた小泉が、そう声を掛けてきた。

 三浦と火野君も近寄ってきて、休憩がてらで思い出に浸ることになりそうだ……


 代表して、テープを剥がして箱を開けてみると、数冊の分厚いアルバムが綺麗に並んでいた。

 だから、こんなにも重かったのか……。


「おお、それは君たちの年のアルバムか、そういえば写真の量が過去最高だとかで、やけに沢山アルバムを買ったのだよ」


 会長席で自分の写真に懐かしんでいた会長が、ひょいと顔を上げて言った。

 まあ、確かに写真を撮れそうな人物には心当たりがあるからね……



 各々、中に入っていたアルバムを手に取り、懐かしいだ、自分が写っているだと盛り上がっている中、俺も同様に一番下に隠れていたアルバムに目を通す。

 自分の姿など、微塵も写っていない写真を見ても、たいして面白くはない。


 ほとんどが見たことあるなぁ……程度の生徒ばかり。


 その中でも、ダントツで枚数が多かったのが雫、そして優斗だった。

 まあ、モデルがいいからね、それは見事な写真ばかりだ。


 撮っている側も楽しくなってしまったのだろう、二人の写真は群を抜いて多い。

 だが、不思議と綺羅坂の姿が写っていないことに途中で疑問を抱いたが、彼女がこの場にいなかった可能性もある。

 

 入学式をサボるとか、彼女なら普通にやりそうだし。

 大して気に留めず、最後のページをめくると、やっと俺の写る写真が一枚だけファイリングされていた。

 

「お……探してみればあるもんだな」


 これも記念だ。

 あとで持って帰って良いかと、会長に聞いてみようか考えていると、俺の隣に一人の女子生徒が座っているのに気が付いた。

 黒髪の、少しだけ髪の長いセミロングの女子生徒。


 制服が俺と同じで真新しいから、たぶん同じ新入生なのだろう。

 少し遠巻きから撮影しているせいもあり、隣の生徒が誰なのか分からない。


 雫でないことだけは分かるのだが……

 だって、あいつは入学式の時点でもう少し髪長かったし。


 じっとその写真を見ていると、後ろから会長がのぞき込むように顔を出す。

 ふわりと、花のような香りがして、思わず体をのけ反らしていると、会長が写真を見て呟いた。


「珍しい写真もあるものだね……君と怜のツーショットだなんて」


「……俺と綺羅坂?」


 すぐに写真を見直す。

 確かに、綺麗な生徒だとは、初見から思ってはいたが、彼女はもっと髪が短い。


 もしこれが綺羅坂なら、まるで雰囲気が違う。

 疑うように何度も写真を見直している俺に、会長は確信に満ちた声で言う。


「間違いない、これは怜の写真だよ」


「……」


 写真に写る場所は、人気の少ない中庭。

 入学式の日、確かに俺はそこにいた。


 校門前では、人で溢れていて気分が悪くなったから。

 でもそこで、その時に、つまりは一年以上前に……俺は綺羅坂と会っていた。


 写真で微笑む少女は、今の彼女とは程遠いくらい、眩しいくらいな笑みを浮かべていた。


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