5話
この物語はフィクションです。
登場人物、場所などは全て架空のものです。
帰り道、佐恵はまだ泣いていた。彼女の涙をみたのは美咲の引越しを聞いた時以来だろうか。
空は曇り始めていて、今にも雨が降りそうだった。
彼女が泣き止んだ頃には雨は強くなっていた。俺は、まだ俯いている佐恵を横目にバッグから折りたたみ傘を出してさす。傘下にはもちろん彼女も入れる。
「ねえ」
突然の声掛けで一瞬息が、止まるがすぐに返事をする。
「どうした」
「あんたは泣いた?」
「は?」
「だから、最初美咲に会ったときあんたは泣いた?」
「……泣いてはないけど、かなり焦った。身体中汗びっしょりになって、少し寒くなるぐらいだった」
「汚い」
「なんだよ、お前から聞いといて」
そこで、佐恵の口から小さな笑い声が聞こえた。
それは次第に佐恵を笑顔にしていった。
「私さ、どこかで安心してたんだ。私はずっと美咲をいじめたって責任を感じていたけれど、忘れてしまっているなら少しは楽になるんじゃないかって。でも楽にはならなくて、むしろ重く感じるようになった。……今日ね、爆発しちゃった。泣いて、謝って……抱きしめて」
彼女の口調は昔の佐恵のそれになっていた。俺はなんだか嬉しくなって少し笑った。佐恵にはなんで笑うの、と怒られたがその顔はいつかの可愛らしい顔になっていた。
家に帰ると、いつもの暖かな家族の笑顔があった。
夕飯を食べてから当番である風呂掃除をして、風呂に入り、寝支度をして自室に行く。
机の上のスマホが通知を報せるライトを点滅させていた。
確認すると美咲からのマインだった。内容はというと、
『あの後佐恵ちゃん大丈夫だった?』
20分ほど前の通知だったので急いで返信する。
『大丈夫だったよ最後は笑ってた』
返信はすぐに返ってきた。
『よかった でもどうして抱きついたのかな?』
『今までの気持ちが爆発しちゃったらしいよ』
『そっか もう寝るねおやすみ』
『おやすみ』
まだ、抱き着かれた理由がわからないのだろう。
翌日、学校で会った佐恵はいつもとは違う顔で本を読んでいた。自然と緩んだ口が笑っていた。昔のはっちゃけた笑顔からは想像出来ない大人な笑顔だった。
「おはよう」
俺は驚いた。何せ、この3年間で佐恵から話しかけてくることは滅多に無かったからだ。
「お、おはよう」
驚きでついまごつく。
「誠大は進路決めたの?」
「ああ、一応美咲が行くって言ってた私立のとこに行くつもり。お前は?」
「私は……私もそこ行こうかな」
「今更進路変えるのか」
「あんたたちはそこ行くんでしょ。だったら私も行きたい」
「そっか、まあ佐恵の成績だったら多分余裕で受かるよ。俺はちょっと頑張るけど」
「そう」
短く返すと、佐恵は席を立った。
「どこ行くんだよ」
「お手洗いよ」
その言葉は少し強かった。強い既視感を感じた。
もうすぐ卒業式だ。でもその前に受験だ。
俺は、家族を始め様々な人の手を借りて、勉強して受験に臨む。高校生活をより良くするためではなく、もっと先のことを考えて。
お久しぶりです。幸星です
受験勉強や受験や卒業式などでしばらくてを着けられませんでした。申し訳ありませんでした。
でもこれからはきっと、たぶん活発になると思いますので、よろしくお願いします。