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プロローグ

ここのところスランプ気味でずっと小説がかけなかったのでリハビリ兼ねて投稿してみました

たぶん十万文字〜十二万文字辺りで終わるかと思います


「そろそろ迎えか」


 豪勢なベッドに寝ている立派な寝間着を着た老人が呟いた。その姿はやつれており、死期が近いことが誰の目で見ても分かる。

 その老人の側には見事なまでの蒼い髪と蒼い目をし、驚くほど整った顔立ちをした、十五歳くらいの少女がベッドの上に座り目を細めて彼を見ている。

 しかも着ている服は非常に豪華な振り袖であり、それが一層彼女を人形のように引き立てている。

 また部屋には四人の女性が控えていた。彼女らも全員少女と同じ蒼い目と髪をしており、やはり全員人形のように整った顔立ちである。

 ただし着ている服は振り袖ではなく、紺色をベースにしたメイド服である。


 ぱっと見、位の高い貴族と孫、そして使用人という風景だが、老人以外全員表情に乏しく一種異様な空間となっていた。

 今にも天に召されそうな老人の周りに、人形のような女性が五人も囲んでいるのだ。

 だが、老人の表情は多少苦しげなものの、後悔しているような雰囲気は感じられない。いや、全てをやり尽くしたかのようである。


「なあみやび

「何じゃ、シキト」


 掠れたような声で老人は側にいた少女へと声をかけると、ぞんざいともとれる口調で答える少女。年の割に少し高い声だが、その雰囲気や物腰は何百年も生きた老婆のように熟成されていた。

 見かけ通りの年齢ではないのだろう。


「お前とは長い付き合いだったが、楽しかったか?」

「もちろんじゃ、妾が初めて契約した者がシキト、お前だったことは幸福に思う。人の寿命がこれほど短いのは残念と思うくらいじゃ」

「それは良かった」


 安心したように目を塞ぐと、大きく咳き込む老人。

 後ろで控えていた女性の一人が水の入ったコップを差し出してくる。


「すまないキーティル。お前の創る・・水は非常に美味いのだが、もう一人では飲めない。情けないことに腕がもうあがらんのだ」


 それにもう少しだろうし必要ない、と呟く老人。

 蒼い瞳を伏せ、ベッドから静かに離れるキーティル。

 そうして暫く塞いでいた目を開いて、雅を見つめた。


「最後に頼みがある」

「これ以上妾に頼み事か? ならばそれ相応の契約をするのじゃ」

「いつか必ず雅にもっと楽しい事をしてやろう、同郷のものがな」

「シキトではなくシキトの同郷が、か? はっ、本来であればシキト本人がやらねばならぬ。それを他人に任せるのか。それ以前に本当に来るのか?」

「きっと来る。俺が来れたのだからな」

「ふむ、よかろう。いつか必ずその同郷の者に返して貰うぞ」

「ああ、同郷の者に悪いとは思うがこれも一つの『ハプニングイベント』だ」


 『ハプニングイベント』とはなんじゃ? と首を傾げる少女。だが老人は笑みを浮かべるだけでそれに答えず頼み事を言い始めた。


「この国……ファーティストに住む国民へ、お前たち水の精霊の加護を与えてほしい」


——水の精霊。


 この老人は彼女たちを水の精霊と言った。

 確かに人、というより精霊と言われると、なるほど、と納得する。

 そうなると、この老人が契約主だろう。そしてこの中で一番幼そうで立派な振り袖を着ている少女、雅がこの中で一番上位の精霊と思われる。


「いつまでじゃ?」

「この国が続く限り。詳しいことは雅に任せる」

「丸投げとは偉くなったな、シキト」


 そりゃ俺は国王だからな、と呟く老人。


「ふむ、ならばメルーレ、フォールミーデ」


 少女は少し考えたあと背後に控えていた女性たちの中から二人に声をかけると、呼ばれた二人は静かに前へ出て跪いた。


「貴様たちに命ずる。この国の次期国王と、国王の家名であるファーティスト=スガオウにそれぞれ契約し、貴様たちは人界へ留まり精霊との契約を介せよ」

「「確かに承りました精霊王様」」


 これで良いか? と老人へ可愛らしく微笑みを投げる少女。


「すまない、ありがとう雅。メルーレとフォールミーデにも苦労をかけるが頼む」

「精霊王様のご命令ですから」

「シキトの頼みなら断りづらいね」


 精霊と言っても、やはり性格は異なるのだろう。

 淡々と答えたのがメルーレ、そしてくすくすと笑いながら楽しそうに返事をしたのがフォールミーデだ。

 ただし、声だけで表情はどちらも乏しい。


 二人が元にいた場所へ戻ると、老人は静かに息を吐いた。喋る事すらもはや辛いのだろう。


「さて雅、そろそろ……だ」

「うむ、楽しかったぞシキト=ファーティスト=スガオウ。いや『オオスガトシキ』」

「俺もだ、雅……水の精霊王シーガイア。そして上位精霊たちよ、さらばだ」


 そう言った後老人は静かに息を引き取った。

 その瞬間、彼女たちは蒼い瞳を伏せ静かに黙祷を捧げる。

 彼女たちの身体から蒼い淡い光が浮き出て、それが徐々に集まり、そして天井をすり抜け空へと昇っていく。

 先ほどまで晴れた天気だったが、蒼い淡い光が天を染め上げていくと次第に曇り、そしてぱらぱらと雨が降り始める。



 彼の死を悲しむように三日三晩、しとしとと雨は降り続けた。




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