影
昔はとにかく暴れていた、
己の空腹を満たすために目についた下等種どもを腹が減っては食べ、腹が減っては食べ、縄張りを持つこともなく世界を飛び回り各地を荒らしていた。
そんなファントムリザードは全盛期を迎えたある日見たこともない塔の中で深い眠りについた。
理由はわからないがとても満たされた気持ちになっていた。
ある生き物の村を襲ってからだったような気がする。
名前もわからない種族、しかし当時は凄くお気に入りだった。
その生き物は集団で生活しており、その生き物が住んでいる場所には決まって不思議な物が建っている。
ファントムリザードにそれらがカール種の家であったり建物であることなど知るよしもなく、また、興味すらなかった。
しかしそれらを壊されるときの生き物の叫ぶ声や恐怖・絶望に歪む顔が気持ちよかった。
味はもちろん、歯ごたえもよく、悲鳴を聞きながらの食事は思い出すだけでも腹がっ減ってきた。
まるでその種を襲うために自分が生まれたような気までしていた。
何年寝ていたのかはわからない。
深い眠りから覚めた今ファントムリザードは混乱していた。
目を覚ました時、気配を感じた。
しかしすぐにその気配は消えた。
突然のことに周りを警戒するが何もいない。
何も感じとることができなかった。
目覚めたばかりで寝ぼけていたのだろうと思いかけたとき、突然背中の上になにかが立っていた。
実体化したままだったのかと思い、混乱しつつもすぐに尻尾で叩き落とそうとしたが身体がうまく動かせなかった。
身体を動かして無理矢理にでもほどこうとしたが、ほどくことができない。
それどころか徐々に締め付ける力が強くなっていく。
仕方なく自身の特殊能力である<影化>の一段階目を発動……しようとして自身がすでに一段階目を発動していたことを知る。
影化とはその名の通り自身の身体を影へと変化させる能力である。
一段階目は透けて、触れられることはないはずだった。
その事がますますファントムリザードを混乱させた。
混乱しているとき、背後から何者かが飛び降りた。今まで背に乗っていた何かだ。
その何かは目の前に着地し、そのとき初めてファントムリザードはその何かと対面した。
その何かはあの種族だった。
何か違和感を感じたがその見た目は眠りにつく前、好物だった。
好物だったものを目の前にして腹が減ってくるのを感じると同時に、獲物でしかないものに、ここまでの恐怖を感じたことに、屈辱と、そして激しい怒りを覚えた。
一瞬で終わるのは面白くないが、こいつは全力で殺そうと決めた。
「グォォォォォォォォ」
ファントムリザードが大きな咆哮をあげる。
水気は先程までと違うファントムリザードの気配を感じた。
感じても水気のやることには変わりはない、焦ったり緊張したりすることなくいつもの感じでやればいいのだ。
それでも水気の血は沸々と熱く、全身をかきまわる。
水気が指をならすと一本のロープが現れ、水気のてに握られる。
十センチ程度の長さのロープだ。
「硬化」
水気の手からはみ出していて、垂れていたロープがピンと芯が通ったように真っ直ぐになった。
「伸びろ」
棒と化したロープを地面に向けてそう言うと先が地面に向けて勢いよく伸びていく。
それが地面に突き刺さる。
水気が手を離した。
深く刺さったのか、水気が手を離しても倒れない。
水気がそうしている間、ファントムリザードにも変化が訪れていた。
黒く、少し透けていた身体は今や、完全に黒く、まるで、闇そのもののようになっている。
光も、すべてを飲み込んでしまいそうだ。
ファントムリザードが、闇に…影に完全に溶け込んだときファントムリザードの力は最大となった。
……が、力に一番驚いていたのはファントムリザード自身だった。
ファントムリザードは知らなかった。
それは、今まで自身が強かったからだ。
影とは本来光が強ければ強いほど影も濃くなる。
その特性をファントムリザードは知らなかった。




