Sleeping Beauty
こたつに潜り込んで結局眠ってしまった彼女を見て、僕はため息をついた。今年こそは起きたまま新年を迎えたいと言っていたのに夕方起こしたらひどく不機嫌だったし。
騒々しいカウントダウン番組も彼女の眠気覚ましの役に立たなかったので消す。途端マンションの一室は静まり返った。彼女の安らかな寝息だけが聞こえる。
小さなこたつは2人で入るといっぱいいっぱいだ。天板に頬をつけて彼女の寝顔を覗き込む。頬をつつく。起きない。
室内でこたつに入っているというのにもこもこに着込んだ彼女は、去年も一昨年もこの時期寝ていた。今年ももちろん例外ではない。だから僕たちの間に冬のイベントはなきに等しい。クリスマスも年末年始もバレンタインも。
ああやっぱり彼女は《蛇》なのだ、と冬になると思う。
彼女は冬眠する。脱皮もする(そのときはいつも大仕事だ)。顔や手にはないけれど、服で隠れた二の腕や太股から胴にかけて鱗がある。
微かに開いた唇、長い睫毛、ウェーブのかかった栗色の髪。髪も肌も、外に出ないで眠ってばかりいるせいか傷んでいない。顔にかかった髪を掻き上げて無心に見つめていると、ふと目が開いた。眠いのか何度もまばたきして少し顔をしかめる。くっきりとした二重瞼だ。
「今11時50分。もうすぐだよ」
「……眠い……」
「寝る?がんばる?」
「……がんばる」
上半身を起こしてあくびをして、彼女はとろんとした半眼で僕を見た。頭が働いていないらしく凝視し続けるので肩を抱き寄せると彼女は僕をぺしぺしと叩いて抵抗した。
「駄目。やめて」
「なんで?」
「体温、眠くなる」
「じゃあまずこたつから出てマフラーと上着脱ごうよ」
「それは凍える……」
渋い表情がかわいくて思わず笑うと、一瞬僕を睨んだ彼女もすぐに頬を緩めた。
テレビをつけると毎年恒例のお寺の中継をしていた。それを眺めながら彼女が呟く。
「……初詣かあ」
「行きたい?」
「行けない。眠いし、寒いし。……でも、」
彼女が眠たげな顔のまま僕に振り返る。
「春になったら、一緒に行ってくれる?」
「うん。クリスマスもバレンタインも、まとめてやろう」
「ん」
毎年の約束を今年も繰り返す。彼女が頷くのも例年のこと。春まで僕は、神社やお寺に行かないように気をつけて過ごす。一緒に「初詣」に行くために。
冬のイベントはないけれど、全部まとめて春にやってくる。僕たちの間では、季節はそうやって流れていく。
来年も、きっと。
「あけましておめでとう」
そしてやって来た今年を、彼女は目覚めたまま迎えて微笑んだ。