カイバル④
12月のある日の朝。
「ふぁ~ぁ・・・」
と大きなアクビをし、眠たそうに2階の部屋から出てきたのは坪井だ。
分遣隊として送られて来た30人の殆どは日本へ帰還したが、特派隊の5人は元々長期間の活動を想定して派遣されたので未だにこちらに居るのだ。
1階へ降りて顔を洗い終わり詰め所へ行こうと思ったが、トントンという包丁の音が聞こえてきて自然と足がそちらに向かったのだった。
まだ夜明け前だというのに厨房では最近雇った人達が忙しく働いている。
「おはようございます。」
「「おはようございます。」」
坪井が顔を覗かせると、数人の大人に混じり3人程の女の子達が働いていた。
どうやら今さっき調理が始まったようだ。
1人が窯に火を付けようとしていたのでとっさに服から100円ライターを出す。
「あぁ、火でしょ?付けてあげるよ。」
そう言ってライターの火を付け、火種に移してあげた。
「凄いんですね。ニホンという国は。」
1人の子がそう言う。
「そうかな?まぁ、色々進んではいるよ。」
「ところで、皆さんはどうしてここで働いてるんですか?」
「私達ですか?えっと...ニホンに行ってみたいからです。」
続けて聞くと、どうやらこの子達は
上級学校(日本でいう高校)の生徒らしく。授業中に窓から見たヘリコプターの姿などから日本に興味をもったらしい。
そこにきて料理人の募集だ。
チャンスだと申し込みして採用されたという訳だった。
(もっとも彼女達の親、特に父親から脅しギリギリの推薦も深く関係している。)
まぁ、実際は近所のおばさん方が料理して、運んだり片付けるのが仕事だが。
「なるほどね。興味を持ってくれてありがとう、それじゃあ俺は当直室いくから。何かあったら呼んで下さい。」
そういって当直室へ向かったのだった。
午後になり、5人は高機動車に乗り込み、部隊が送られて来るポイントへと向かった。
今日送られて来るのは中央即応集団から志願者を集めた部隊で長期間の滞在が決定している。
その数は前回同様に30人。
だが、車両の数が10台から5台と大幅に減ってしまう。
その代わりにオートバイが2台配備される。人混みの多いこの街ならではの工夫だ。
ポイントは街北部の草原地帯だ。
前回と同じコトをするとさすがに迷惑だからだ。
既に帰還させる車両は運びこんであり、積むだけである。
バラバラと途切れることの無いローター音。
まだ着慣れない迷彩服を身にまとい
ヘリの中で小さくなっているのは今年入隊したばかりの高橋俊哉(二士)だ。
「おい、ボウズ!元気ねぇな!もう日本が恋しくなったか?」
「そんな訳ないでしょう!ただ、少し不安だなと・・・。」
「そんなんすぐに慣れるって!俺もイラクの時はそうだった!」
ガハハと笑うのは顔の割に面倒見の良い田中信敏(士長)である。
(そんなもんかな~?)
と思いつつも、なんとかなるかと気持ちを変えたのだった。
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