カイバル③
久方ぶりの投稿となります。
拙い文章である自分の小説を登録して下さった方々に感謝を込めて続きを。
市庁舎前庭
『こちら分遣隊1番機、特派隊聞こえるか?』
『こちら特派隊、感度良好。』
『現在地はそちらの発信機から約10kmだ。最終誘導を頼んだぞ。』
『了解』
馬車の中から話し声が聞こえてくる。
ボーゼスはなんだろうと思い首を伸ばすが1人しか見えない。
不思議に思っていると
「あれは無線機といって遠く離れたところと会話をする機械ですよ。」と後ろから坪井が教えてくれたのだった。
「ところで、なぜ前庭なのですか?」
アダムズ市長が尋ねた時だった。
バラバラバラバラと、なにやら聞いたコトのない音が複数聞こえ始めた。
次第にその音は大きくなり、人々はなんだなんだと騒ぎ出した。
そして悠然と空を飛ぶ15機のヘリコプターの姿が見え始めた時は、それはもう目をまん丸に開き、見ている物が信じられないという様だった。
その間もヘリコプターの集団は近づいてきていて、音はどんどん大きくなっていく。
隊長を除く4人は前庭にロープを張り巡らし、野次馬が着陸の邪魔にならない様に誘導していく。
そして発煙筒に火を付け着陸場所をヘリに向かって教えていく。
人々はブシューと勢いよく赤い煙を出す発煙筒を見てどよめく。
「あ、あの空の物は一体!?」
アダムズ市長が驚き質問する。
「あれは我々の保有するヘリコプター、チヌークとブラックホークですよ。」
と坪井は答える。
「まさかこれを見せる為に外へ?」
「いえいえ、ちょっと違いますね。」
ヘリはどうやらこちらを確認したらしく高度を落とし始めた。
「ま、まさかここに!?」
「ええ、そうです。」
「!?」
もう驚きすぎて声もでない様だ。
ヘリが近付くと猛烈なダウンウォッシュが広い前庭を襲い、石畳の上の砂や小石を巻き上げる。
隣接する騎士団の建物からは顔に焦りが見える団員達が飛び出してくる。
そして着陸。
ドアが開き、中から表れたのは特殊作戦群の仲間達。
さっそうと整列してい姿は迷彩服に戦闘装備一式。
しかもチヌークからは高機動車や73式小型トラックなどがはき出され、この世界には本来あるはず無い物が並べられていった。
前庭に整列した特殊作戦群の隊員達は総勢30名。
車両は高機動車5台に軽装甲機動車4台、73式小型トラック1台の計10台だ。
高機動車の広い荷台には食糧や武器弾薬が山積みにされていた。
坪井はまさかこれ程の重装備が送られて来るとは思って無かったので、唖然としてしまった。しかも、あまり部隊の説明をしていなかったので、
「あなた方は一体何者なんですか?」
「この様な物を持つ国は聞いたコトがありません。」
と市長から質問攻めに合うコトになったのだった。
しかし、市民の様子を見る限りあまり動揺は見られなかったのが不思議だった。
蒸気機関車も無いのだ、ヘリコプターや車といった物を見せられればもっと騒いだり怯えたりするのが普通ではないのだろうか?
と坪井が思ったのも無理は無い。
ここカイバルは自由貿易を唄う街だ。
その為にあちこちから様々な物や人がやって来る。
だから分遣隊も彼らにとっては新しいアトラクション位の捉え方なのだ。
その証拠に騎士団員達までもが興味津々といった様子で笑ながら語り掛け始めるという感じであった。
これにはむしろ隊員達が面食らってしまうくらいだった。
そんなこんなで色々あったが分遣隊の隊長と市長の挨拶が済み、市長が用意した屋敷へと案内されて行ったのだった。
10番ストリート
ここは街の奥の方に位置し、主に宿泊施設や豪商の屋敷といった建物が並ぶ通りだ。
その中で分遣隊にあてがわれたのは3階建てで中庭のあるそこそこ立派な建物である。
分遣隊がここに案内されて早3週間。
その間は日本から持ってきた物を設置するので大忙しだった。
そのために建物の中はガラッと変わっている。
特に電気が引かれたことだ。
これはガソリンで動く発電機を中庭に設置し、ケーブルをあちこちに伸ばしたからだ。
そのおかげで24時間の当直が出来るようになったし、パソコンや大型の無線機などが使える様になった。
1階は当直室や風呂場、トイレがあり、2階には武器庫とベットがある。
3階は無線室と倉庫で、屋上にはアンテナとパラボラが並んでおり、周りからかなり浮いて見える。
こうして改造した建物を「自衛隊カイバル派遣部隊事務所」と命名した。
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