白く塗りつぶせ!
※結構きついかもしれないグロ
※「莢←厩戸」なBL要素あり
日に日に酷くなっているのは分かっていた。
でもそれが之乃の為に、莢の為になるんだったら…止めることはないかなって思ってたんだ。
でも、今回ばかりはそういうわけにはいかない。
ビックリしちゃうよね。仕事から帰ってきたらリビングが真っ赤でさ。まあ、これはいつも通りなんだけど。
よくよく見渡してみたら、首のない死体が転がってるんだもの。さすがに血の気が引いた。
それが莢だって分かった瞬間、笑みが零れたんだけどね。
そこからはやけに落ち着いた感じで、いつも通り之乃の部屋に向かうんだよ。
大方莢の首でも抱いて泣いてるのかなぁ…なんて少しでも思った自分が馬鹿だった。
戸を開いたと同時に香ってくる生臭さ。目に入った、ぐちゃぐちゃの血肉。あーそうだ、この子はそういう子だ。
案の定之乃は血まみれの包丁を片手に血まみれの姿で壁に持たれかかって寝ていた。それはもう満足気な寝顔で。
之乃は『首だけでも愛す』というフランのようなロマンチックさは持ち合わせていないようだった。それもそうだな。
しかしこれは酷い。リビングにあった死体はなんとか原型を保っていたけど…この死体はただの血肉の塊だ。
月架が人間を貪った後より酷いかも…って、月架のそんなところを見たわけじゃないけど。ていうかこんなこと言ったらフランに殺されるな、うん。
…まあ、そんなこんなでまたいつものようにテルが莢の新しい体を作ってくれている。
もう少しで完成するから、って言われてから彼是一時間近く廊下で待たされてるんだけど。
用意されたイスに座りため息をつく。明日の仕事も朝早いんだけどなぁなんてこれからの予定を考えていると不意に一つの光が廊下を照らした。
「お久しぶりです」
「まだ一日も経ってないから」
「…之乃は?」
「たぶん寝てる」
「そ。ならいいけど」
光とともに現れた莢…なんていったらすんごく神秘的に聞こえるけど、本当にそれぐらいの神秘さは感じても良いんじゃないか。
だってね、あの首なし死体が、ぐちゃぐちゃの血肉の塊が、またこうして普通に笑っているんだから。うんうん、神秘神秘。
「いつもごめんな、テル」
「あ?ああ、別にどうってことないって」
莢の後ろで首に手を当ててダルそうにしているテルに頭を下げる。いつものことだけど、いつものことだからこそちゃんとした礼儀を見せなくちゃね。
「んなことより、はやく帰ってやれよ。之乃ちゃん待ってるんだろ?」
「寝てるってさ」
「あー…まあ、なんだ…うん、帰れ」
「急に命令口調だなお前」
テルからお払いを受けすさすさと家を出る。すっかり暗くなってしまった夜道を、こうやって二人きりで歩いたのは何度目だろう。
私は、この時間が一番嫌いだった。頭の奥底、真底で思い出したくない、良く分からないものがよみがえってくるから。
なるべく莢を見ないように顔を俯き、それに気付かれないように一歩後ろを歩く。水溜りに映る月が綺麗だった。
「…うまやど、」
「んー?」
「俺、幸せだわ」
「…そう」
急になにかと思えば、惚気ですか。
必ず聞かされるこの言葉。ああ、幸せだなんてね。まあ、莢がそういってくれるのが、私の幸せなんだけど。
首を取られても、四肢を無くしても、両目を抉られても、心臓を潰されても、脳味噌をかき混ぜられても、
それでも莢は幸せだという。これはおかしいことなんだろうか。おかしいことなんだよ。
ねえ、私の気持ちに気付いてなんて言わないから、 お願い
本当の、愛を知って
(私の気持ちは、それからでいいから)