妄想逃避
之乃の 死ね は 愛してる なんだろ?
だなんて、どっかの似非人間さんが言っていた。
馬鹿だなぁ頭いかれてるなぁはやく死んじゃえば良いのに死んで悔い改めれば良いのにああでもこいつ死ねないのかかわいそうに死ねよ馬鹿
なんて思ったのは良い思い出。うん、死んじゃえば良いのに。
そんな似非人間さんは今日も今日とてパソコンでエッチな画像を掘り出してはなんやかんやでニート三昧。たまに見せてこようとしてくるからフライパンで頭かち割ってやろうとしたり。
まあこいつは人間じゃないからね、どこも雇い先がないだけでね。ああ可哀想に、あはは可哀想に、あははは死ねばいいのに。
厩戸が養護施設で本格的に働くことになってからというものの、こいつと二人きりの時間が増えてしまった。
たいした会話とかはしないんだけど、なんかこいつが同じ空間にいるっていうだけで腹が立つ。その頭上に包丁を振りかざしてやりたいわ。噴水みたいに血がぴゅーって?うわーうざい。
だったら部屋に居れば良いって?そしたらそいつわざわざ部屋まで来て、お前がいないと寂しい とか言ってくるんだよ。その顔がまたうざくてさ、人間じゃないくせにそんな、顔すんなって
之乃ちゃんは本当に莢くんが好きなんだね、
この前月架のところに遊びに言ったら、フランさんに言われてしまった。
否定はしなかった。そうだね、私は似非人間が好きだ。好き過ぎる自分を殺してしまいたくなるぐらい、好きだ。
でも、私よりあいつの方が私のことが好きなんじゃないかって、自惚れてみる。でも残念ながらそれは私の妄想でしかなく、真実は…まあ、
「厩戸、なんだと思う」
「そうかな?」
「はぐらかそうとする厩戸嫌い」
「はいはい。紅茶飲む?」
「飲む」
今日は珍しく厩戸と二人きりだったので、ずっと溜め込んできたものを吐き出してみた。
莢は輝秀さんのところに行ったらしく、あの耳障りなパソコンのモーター音も聞こえてこない。
食卓用のテーブルを挟むように座っていた厩戸は、紅茶を淹れる為に席を立ち私の後ろにある食器棚からカップを出すついでに、私の頭を一撫でしていった。
なにかと歪んでいる私だが、厩戸にされる子供扱いは何故か幸せになれる。たぶん厩戸から放たれる、なにかそういったものもあるのかもしれないが。
莢なんかに子供扱いされた日には…たぶん、正気で居られない気がする。勿論悪い意味で。
「…厩戸が淹れてくれる紅茶好き」
「そう?ありがと。まあ、フランには負けちゃうけどね」
「うん…でも、厩戸の方が好き」
「そっか」
厩戸にだけは素直になれ、ているような気がする。寧ろ厩戸だから素直になりたい。
で莢に見せ付けたい。お前には素直じゃないんだぜ、って。…結局は、気を引くためのちょっとした恋の駆け引きとかそういうもんになっちゃうんだけど。
コポコポとお湯が入る音、と同時に香ってくる紅茶。この瞬間が一番好き、だなんて。
「はい、熱いから気をつけてね」
「ありがと」
「…ふふ、」
急に笑い出した厩戸を見上げ、睨みつける。おー怖い怖い、なんて両手を挙げ降参のポーズを取りおどける厩戸にちょっとだけムカッと来た。
眉間にたくさん皺を寄せて なに と呟くと、厩戸は目を伏せてもう一度笑う。睫毛長いなぁ…本当に女性みたいだ。
「莢にも、それぐらい素直になってあげればいいのに」
「……」
「まあ、そういうところが之乃なんだろうけどね」
パチクリとぎこちないウィンクを落として来た。なんか可愛い。女の私がそう思うんだから、相当なものなんだろう。
だから、敵わない。
昔も今も。なにをどうしたって、あいつの瞳に映ってるのは
「ずっとそうだ…」
「んー?」
「なんでもない」
ずっとずっとずっと、ずっと昔から 好きだったのに