寒々しい炎天下 【月夜譚No.423】
真夏の炎天下、マフラーを巻いた女性が立っていた。
人通りのほとんどない、住宅街を走る道路のど真ん中。腰まである黒髪に厚手のコート、足元はロングブーツともなれば、見ているだけで汗が噴き出しそうな出で立ちである。
彼女は密かに息を吐き、何食わぬ顔で女性より手前の角を曲がった。少々遠回りになるが、仕方がない。
生まれつき霊感のある彼女は、度々こうした場面に遭遇した。所謂幽霊というやつは、何の前触れもなく突然目の前に現れる。
大抵はそこにいるだけで害はないが、中には取り憑いたり呪ったりと、質の悪い輩もいた。長年培ってきた経験からいうと、幽霊の類は安易に近づかないのが一番である。
それにしても、この辺りは人が少ない――というより、見当たらない。この暑さの中用もないのに出歩こうなどという物好きはそういないだろうが、ここまで気配がないというのはおかしい。家々やマンションが建ち並んでいるというのに、誰も在宅していないかのような静けさだ。
そういえば、先ほどから鳥や蝉の声もしないような――。
そう過った矢先、焼けるような暑さだった空気が冷たく感じて、二の腕に鳥肌が立った。
思わず足を止めると、すぐ背後に一瞬前まではなかったはずの気配がある。逃げなければと頭では判っているのに、凍りついたみたいに身体が動かない。
息を呑んでただ棒立ちになる彼女の耳に、囁くような冷たい声が掠めた。
『……ああ、やっと見つけた』




