国会議員殺害事件 中編
橘は、死ぬ時まで、黒川蒼介という衆議院議員と話していたらしい。
さて、容疑者は、そんな黒川蒼介と、橘の西園寺真里、記者の桐生隼人の3人だ。
やはり、捜査で1番初めに浮かぶのは、黒川蒼介。
彼は橘が死ぬ時にも一緒におり、救急車を呼んだ人でもある。つまり、最も怪しい。
さて、黒川蒼介という男はどんな人物なのか。
多くの人々を前にすると優しい好青年。
だが、中身は損得で全てを決め、価値がないと思ったらすぐさま切り捨てるような男、というのを橘の部下の1人に聞いた。
黒川蒼介の事情聴取
「どうして橘さんと話していた?」
黒川「橘さんとは、政策について話していてね」
「なんでそんなことはっきり言うんだ?」
黒川「ふふっ。 確かに僕を疑うのは合理的だ。でもねーー」 黒川が小さく笑う
黒川「僕なら、もっと上手くやるよ。
それに、やるならもっと上手くやるさ。——それに、もし彼女を殺したとしても、俺に利益はないよ」
(聞いていた通りの人物だな。)
「………いいな、その自信。嫌いじゃねぇ」
楽しそうに笑う
黒川「それは光栄だね? 原田航くん?」
「ああ。もしお前が犯人でなかったら、俺となかよくしてくれるか?」
黒川「ふふっ。もちろん」
(まあ、お前が犯人でなかったら、だが。)
西園寺真里の事情聴取
「橘さんとはどのような関係で?」
西園寺「私はかのんの秘書です。それ以上でもそれ以下でもありません。」
「どのような仕事をなさっていたんですか?」
西園寺「かのん、もの忘れが激しくて、使えないと怒ってくるので一から十まで私が管理していました。」
「管理、ですか?」
西園寺「ええ、今日も使っていた、お気に入りのペンやハンドクリームなどの置き場所や、とってこいと言われるとパシリのようなことまでですね。」
「嫌じゃなかったんですか?」
西園寺「 ええ。たまに嫌になるけど、生きるためなので。」
「そうですか。あ、あと黒川蒼介さんと橘さんの関係性について教えていただけませんか?」
西園寺「ああ、かのん、黒川さんのこと好きみたいで、いっつも照れるとき手で顔を隠すんです。で、そのあと手の下でにやにやしてるんです。みてておもしろかったですよ?」
西園寺「いえいえ。犯人、早く見つかるといいですね。」
(生きるためにパシリ、か…)
桐生隼人の事情聴取
「橘さんとはどのような関係で?」
桐生「ああ、僕とあの女は、記者と議員。いたって良好な関係でしたよ」
軽い口調だった。
だがその目は、どこか苛立っている。
「良好、ですか」
桐生「ええ。少なくとも表向きはね」
(表向き、か)
「あなたは橘さんの政策について調べていたそうですね」
桐生「ああ、“100円政策”ってやつだ」
桐生は椅子に深くもたれた。
桐生「綺麗事で持ち上げられてるけど、裏がある」
「裏?」
桐生「あるんだよ。確実に」
言い切る。
「証拠は?」
桐生「……掴みかけてた」
その一瞬だけ、言葉が濁る。
「掴みかけていた?」
桐生「ああ。あと一歩で記事にできた」
「ですが、出ていませんね」
桐生は舌打ちした。
桐生「上が止めたんだよ。“信憑性が足りない”ってな」
(つまり、決定打がなかった)
「その“裏”というのは、誰から?」
桐生「……さあな」
視線を逸らす。
(隠しているな)
「情報源は大切です。」
桐生「記者には守秘義務があんだ。」
「裏の内容は?」
桐生「さあな。でも――」
少しだけ身を乗り出す。
桐生「国を揺るがすぐらいだっていうのだけは確かだ。」
桐生の“裏”という言葉は、確かに引っかかる。
だが、それだけで一人に絞るには弱いな。
(むしろ――全員、どこかおかしい)
まず黒川蒼介。
あの余裕。
疑われている状況で、あそこまで平然としていられるものか。
「やるならもっと上手くやる」
あの言葉。
(否定になっていない)
やっていない、とは言っていない。
ただ、“自分なら違う方法を取る”と言っているだけだ。
(つまり、“できる側の人間”だ)
もし関与しているなら、
もっと痕跡を消すはずだ。
――だが。
(逆に、“完璧すぎる無関係”も不自然だ)
次に西園寺真里。
「一から十まで管理していた」
その言葉通りなら、
異変に気づかないはずがねぇな。
でも。
「今日もいつも通りでした」
そう言い切った。
(本当に“全部”把握していたのか?)
あるいは――
(把握していたからこそ、“言わなかった”のか)
さらに。
桐生隼人。
“裏があった”と断言しながら、
その中身は語らない。
語れないのか、知らないのか。
(どちらにしても、不自然、だな。)
だが桐生の違和感は、単独では成立しない。
必ず“誰か”が関わっている。
情報を与えた人間。
もしくは、そう思わせた人間。
(つまり、単独犯とは限らねぇってわけか。)
そう考えると、景色が変わる。
黒川は実行役ではなく、関与者かもしれない。
西園寺は気づいていて、黙っている可能性がある。
桐生は利用されただけかもしれない。
(……じゃあ、“誰が中心だ?”)
一人ずつ見ていく。
黒川は、やるならもっと合理的に動く。
西園寺は、管理しているがすべてを自分でやるわけではない。
桐生は、内部事情を直接掴める立場ではない。
(全員、“決め手に欠ける”)
だが同時に、
(全員、“関われる余地がある”)
静かに、息を吐く。
(まだ、線が足りない)
どこかに、もう一つ。
全員を繋ぐような、小さな違和感があるはずだ。
それが見つかれば、
この曖昧な疑いは、一気に形を持つ。
視線を落とす。
誰もがそれぞれに、もっともらしい顔をしている。
(――誰でも、あり得る)
そう思った瞬間。
逆に、“誰でもあり得る状況”そのものが、
ひどく作為的に感じられた。
まるで最初から、
そう見えるように配置されているみたいに。
(……考えすぎか?)
いや。
むしろ――
(考えさせられている、のかもしれねぇな。)




