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第二章:銀の輝きと未知への準備

港湾都市マーレンの朝は、カルディアス内海から吹き付ける清涼な潮風と共に幕を開ける。

水平線の彼方から昇る太陽が、港にひしめくように停泊する無数の交易船のマストを黄金色に染め上げる頃、空を舞う海鳥たちのけたたましい鳴き声が目覚まし代わりとなって、石畳の街中に響き渡っていた。

ギルドや商店が軒を連ねる喧騒の中心ブロックから少し離れた、緑の多い静かな居住区画。そこに、チヅルたちが拠点として借りている一軒家があった。

二階の寝室。チヅルは、一階のキッチンから漂ってくる食欲を激しくそそる香ばしい匂いに鼻をひくつかせながら、ゆっくりとまぶたを開けた。

「……ふわぁ。おはよう、ラズベルちゃん。……くんくん、この海鮮とハーブの良い匂い……。今朝は一段と気合が入ってるね」

薄紫のポニーテールが寝癖で少し乱れたままのチヅルが、目をこすりながら一階のキッチンに顔を出す。そこには、清潔な白いエプロンを身につけたラズベルが、大きな寸胴鍋を木べらでかき混ぜながら楽しげに振り返る姿があった。

「おはよう、チヅルちゃん。今朝は市場の朝市で仕入れたばかりの小エビと貝をたっぷり使った、トマト仕立てのスープだよ。昨日の疲れをしっかり取らないとね」

「やったぁ! ラズベルちゃんのスープは、朝から体の芯まで元気が染み渡るんだよね。……あ、ユイちゃんは?」

「ユイちゃんなら、裏庭でもう素振りしてるよ。あの集中力、本当に頭が下がるわ。スープができたら呼んでくるから、ほら、チヅルちゃんは早く顔を洗ってきなさい!」

ラズベルのまるでお母さんのような優しい声に急かされ、チヅルは三角の猫耳を嬉しそうにパタパタと揺らしながら、洗面台へと向かった。

やがて、朝日が明るく差し込むダイニングの食卓には、魚介の濃厚な旨味が凝縮された熱々の赤いスープと、外側は黄金色にカリッと焼き上がり、中は驚くほどふっくらとした大きな丸パンが並べられた。危険な依頼の合間に訪れる、この三人での穏やかな朝食は、彼女たちの日常において最も大切で、かけがえのない時間だった。

テーブルの端には、昨夜マリアから受け取ったばかりの金貨四十五枚が詰まった、王宮の紋章入りの重厚な革袋が無造作に置かれている。

ヴァノス王国のギルドには銀行機能が併設されており、冒険者のギルドカードは一種のキャッシュカードとして機能する。王国内のギルドであれば、どこでも貨幣の引き出しが可能だ。しかし、今回の莫大な報奨金をあえて現金のまま持ち帰ったのは、チヅルの極めて実利的な判断からだった。朝一番で高額な装備を買いに行くなら、一度預けてまた引き出すのは二度手間だ。買い物がすべて終わってから、余った分をまとめて預ければいいだけの話なのだ。

「んん〜っ、ごちそうさま! やっぱりラズベルちゃんのスープと、このふっくらパンは最高だね。もう一杯おかわりしたい気分!」

チヅルが満足げに息をついて平らになったお腹をさすると、向かいの席で食後の茶を飲んでいたユイが、茶化すように口を開いた。

「……だな。特にチヅルは、朝のうちに限界まで食わせておかないと、街中を歩いてる時に美味しそうな串焼きの香りにつられて、無駄な出費をしちまうからな。あの古代遺跡に行く前に、誘惑に負けられたら困るんだよ」

「も、もう! ユイちゃん失礼だよ。あたしは必要な投資と無駄な出費の区別くらい、リーダーとしてちゃんとしてるんだからね!」

チヅルは胸を張り、机の上の革袋を両手でしっかりと抱え込んだ。窓の外を見上げれば、雲一つない、突き抜けるような青空が広がっている。

「ふふっ、お腹もいっぱいだし、今日は絶好のお買い物日和だね! さあ、まずは一番目の目的地、職人街の防具店へ行こう!」

***

朝食を済ませた三人は、マーレンの北側に位置する職人街へと足を運んでいた。

この一帯は、馬車が行き交う大通りとは異なり、石畳が他の区画よりも白く磨き上げられている。通り沿いのショーウィンドウには、職人の魂と高度な魔法技術が宿った武器や防具が誇らしげに並べられていた。一流の冒険者や王国の騎士たちが品定めに行き交うこの場所で、チヅルたちは目指す防具店『鋼の金床』に辿り着き、重い木扉を押し開いた。

「いらっしゃい! おお、チヅル嬢ちゃん達か。最近調子はどうだ?」

店内に一歩足を踏み入れれば、炉の熱気と鉄を打つ心地よい匂いと共に、立派な髭を蓄えた逞しい店主のガレスが満面の笑みで迎えてくれた。

「今日は何か探してるのかい? ひょっとして、また危ない探索にでも挑戦するつもりか? ランクアップを目指すなら、特にそこの前衛の嬢ちゃん、今の使い込まれた装備じゃ心もとないだろう」

「ああ。今の軽鎧セットは、もう何度も手入れして修理を繰り返してるし、そろそろ本格的に新しいのに替えたいと思ってたんだ」

ユイは、自身の身につけている傷だらけの防具を軽く叩いてみせた。

「予算は金貨で十枚くらいまでなら出せる。軽量で動きやすくて、でも防御力が高いやつがいいんだけど、何かおすすめはあるか? それと、魔法攻撃に対する耐性があるやつだと尚いいんだが」

「金貨十枚か。気前がいいな。それなら、ちょうどいい上物があるぞ。ミスリル合金製の軽鎧セットだ」

ガレスはニヤリと笑うと、店の奥にある厳重なガラス棚から、気品ある青白い輝きを放つ銀色の鎧を取り出してきた。

「胸当て、腰当て、肩当て、腕当て、脛当てのフルセットで金貨八枚だ。軽量だが、防御力は上質な鋼鉄の二倍を誇る。さらに、高位の魔術師による『魔法耐性』のエンチャントも施されてるからな。前衛で暴れ回る剣士には最適な代物だ。試着してみるかい?」

「わあ、やっぱりミスリル合金は、すごく綺麗だね!」

ラズベルが、その滑らかな金属の光沢に目を輝かせた。ハイドワーフの血を引く彼女は、優れた金属加工品を見ると本能的に心が躍るのだ。

「ユイちゃん、これならあの古代遺跡の得体の知れない攻撃にも安心して立ち向かえるよ。試着してみたら? きっと似合うと思うわ!」

ユイは促されるまま試着室へ入り、新しい鎧を身に着けて鏡の前に立った。

ミスリル合金の軽鎧は、見た目の重厚さに反して羽毛のように軽く、関節部分の可動域もしっかりと計算されており、魔刀『白綱しらつな』を振るう激しい動作を一切妨げない。ユイは肩を回し、何度か鋭い踏み込みの動きを確認して満足そうに頷くと、試着室から出てきた。

その銀色の鎧は、光の加減で青みがかって見える彼女の黒髪のポニーテールと、異世界特有の「セーラー服」という出立ちに見事に調和し、より洗練された、凛々しい剣士としての風格を漂わせていた。

「これはいいな。驚くほど軽いし動きやすい。ミスリルということで防御力も申し分ないだろう。ガレスのオヤジ、これ買うわ。金貨八枚だったよな? ……それと、他のみんなの分も見繕ってくれないか?」

ユイが満足げに新しい鎧の感触を確かめながら振り返ると、ガレスは自慢の髭を豪快に撫でながら大きく頷いた。

「おう、任せておけ。そっちのリーダーの嬢ちゃんには、これなんかどうだ?」

ガレスがカウンターの奥からうやうやしく持ち出してきたのは、上質な薄茶色の皮に、ミスリル銀の細い糸が幾何学的な模様を描くように縫い込まれた軽装セットだった。

「ワイバーンの若竜から取れた高級なめし皮に、ミスリル繊維を編み込んで強度を上げた特注品だ。ダークエルフの血を引く嬢ちゃんの高い魔力適性を阻害せず、かつ獣人の敏捷な動きにも完璧に追従する。おまけに、こいつにも軽微な魔法耐性が付与されてるぜ」

「わあ、すっごくかっこいい! 動きやすそうだし、あたしの戦い方にぴったりかも!」

チヅルがそのなめし皮の滑らかな手触りに歓声を上げると、ガレスはさらにいくつかのアクセサリーを取り出した。

「これに加えて、魔法耐性のエンチャントが二重に施されたチョーカーとブレスレットだ。得体の知れない魔法攻撃が飛んでくる遺跡なら、これくらいは装備しておいた方がいいだろう。……で、そっちの嬢ちゃんはどうする?」

ガレスの視線を受け、ラズベルが一歩前に出た。彼女の瞳には、優れた金属加工品を前にしたハイドワーフ特有の熱い光が宿っている。

「あたしはね、今のスケイルメイルを、完全にミスリル合金製のものにアップグレードしたいの。前衛でユイちゃんをサポートしつつ、チヅルちゃんを守る壁にならないといけないから。……それから、あたしにも魔法耐性のある護符とブレスレットをお願いできるかしら?」

「おお、全員分の装備を一気にそこまで高水準に引き上げるか。それは極めて賢明な判断だ。命あっての物種だからな」

ガレスは満足そうに深く頷くと、奥の棚からラズベルの体格に合わせた鈍く輝くスケイルメイルと、美しい細工が施された護符を取り出してきた。

「チヅル嬢のミスリル入り高級なめし皮軽装は金貨二枚、魔法耐性のチョーカーとブレスレットで金貨三枚だ。ラズベル嬢、お前さんのミスリル合金製のスケイルメイルは金貨四枚。魔法耐性の護符とブレスレットで金貨三枚。……ユイ嬢の鎧と合わせて、〆て金貨二十枚だ」

「わあ、あたしの装備が、見違えるように充実したわ! ありがとう、チヅルちゃん、ユイちゃん!」

ラズベルは目を輝かせて、青白い光を放つ護符とブレスレットを手に取った。新調したミスリル製のスケイルメイルは、無数の金属片が緻密に重ねられており、圧倒的な強固さを誇りながらも、ドワーフの技術で作られたそれは驚くほど軽い。

「この護符、すごく綺麗ね。スケイルメイルも、これならあの遺跡の得体の知れない攻撃でも、しっかり弾き返せそうだわ。本当にありがとう!」

三人がそれぞれの新しい装備を身に纏うと、ガレスは「よし、仕上げだ」と声をかけ、分厚い革のエプロンのポケットから調整用の細かな工具を取り出した。

「どんなに上等で高価な鎧でも、自分の体に完璧に合ってなけりゃ、いざという時にただの重石になっちまう。じっとしてな」

ガレスは職人の顔つきに変わり、まずユイの背後に回った。彼はミスリル鎧の継ぎ目にある革ベルトの締め具合を、ユイの筋肉の動きに合わせて細かく調整していく。激しい剣戟を繰り出しても肩当てが浮き上がらず、それでいて深い呼吸を一切妨げない絶妙な締め加減。

次にチヅルのなめし皮軽装の脇を詰め、彼女の素早く変則的な身のこなしでも布擦れの音が鳴らないよう、縫い目の位置を念入りに確認し、魔法の糸で微調整を施した。

最後にラズベルのスケイルメイルだ。ミスリル片が重なる角度を指先で一つ一つ微調整し、歩くたびに鱗状の金属が滑らかに連動して音を殺すよう、特殊な油を注していく。さらにブレスレットの魔法陣が直接肌に干渉してかぶれないよう、内側に極薄の絹の裏地を当てる手際の良さは、まさにマーレン随一と謳われる熟練の職人技だった。

「よし、これで完璧だ。これなら一晩中荒野を走り回っても、どこも痛まないはずだぜ」

ガレスが満足げに工具を置く。

店内の大きな姿見の鏡に映る、銀色の輝きを増した三人の姿。それはもはや「幸運に恵まれた若手」という枠を完全に抜け出し、どんな困難な依頼も切り拓いていけそうな「本物のプロの冒険者」としての頼もしい風格を漂わせていた。

「ガレスさん、ありがとう! これならどんな場所でも安心だよ!」

チヅルは迷いのない手つきでマジックポーチから革袋を取り出し、カウンターの上に金貨二十枚を一枚ずつ、丁寧に数えて支払った。ジャラリ、と心地よい黄金の響きが店内に落ちる。

防具屋『鋼の金床』を出たとき、陽の光は高く昇り、職人街はすっかり昼前の活気に満ち溢れていた。

「さて、これで一番大きな買い物は終わったね。でも、まだ魔法道具や消耗品の補充が残ってる。……ねえ二人とも。午後は効率よく手分けして動かない?」

チヅルが提案すると、二人は顔を見合わせて力強く頷いた。

「そうだね。私は中央市場へ行って、遺跡探索に必要なロープなどの道具や、一週間分の食料の買い出しに行ってくるよ」

「なら、あたしは魔刀の本格的なメンテナンスに、行きつけの武器屋へ行ってくる。ガレスの店は防具専門だからな。あっちの親父さんに『白綱しらつな』をしっかり研いでもらってる間に、酒場やギルドを回って、ガラムたちの敗退についてもっと具体的な情報が転がってないか探っておくぜ」

「了解! じゃああたしは、魔法道具専門店『アルカナ』へ行って、いざという時のスクロールや必要なアイテムを揃えてくるよ」

職人街の四辻で、三人はそれぞれの目的地へと視線を向けた。

陽光は石畳を白く焼き、行き交う荷馬車の車輪の音や、どこか遠くで響く鍛冶の槌音が、昼前の街に活気あるリズムを刻んでいる。

「それじゃあ、予定通り。陽の七刻ちょうどに、ギルドのメインホールでね」

チヅルの合図にユイとラズベルが力強く頷き、三人の影はそれぞれの通りへと分かれていった。

***

職人街の北端、古びたレンガ造りの建物が並ぶ一角に、魔法道具専門店『アルカナ』はひっそりと店を構えている。

チヅルが重厚な木製の扉を押し開けると、チリンと涼やかな鈴の音とともに、乾燥した薬草と古い羊皮紙が混じり合った独特の香りが彼女を包み込んだ。

「こんにちは、ミリエルさん! また来ちゃった!」

薄暗い店内のカウンターの奥で、長い灰色の髪を後ろで一つに結んだ初老の女性――店主のミリエルが、分厚い魔導書から顔を上げて穏やかに目を細めた。

「おや、チヅルじゃないか。昨日の今日でまた顔を見せるとは、相変わらず忙しい子だね。今日は何を物色しに来たんだい?」

「ふふ、今日はちょっと奮発しに来たの。まずは、ずっと気になってた一級品のマジックバックパックと、あたしが持っているマジックポーチと同等の能力をもつポーチを二つ。それから、実戦で確実に使える魔法スクロールもいくつか揃えたいんだ」

ミリエルは「ほう」と感心したように眼鏡の位置を直し、棚の奥へと足を踏み入れた。

「ローガン村のクエストで、随分と羽ぶりが良くなったみたいだね。いいだろう。あんたがずっと気になっていたこのマジックバックパックは、熟練の付与術師による空間拡張魔法が二重に掛けられた極上の品だ。見た目は普通の藍色の革製だが、乗合馬車を丸ごと一台収納できるくらいの空間がある。長期間のクエストでも、野営具や物資を運ぶのに重宝するだろう。それに、どれだけ荷物を詰め込んでも、魔法の力で重さが一切変わらないようになっている。内部は特殊術式により経年劣化対策が施されているから、生鮮食品の保管にも向いているさね」

チヅルは差し出された藍色のバックパックの革の質感を確かめ、内部に流れる魔力の安定性を吟味する。かつての経験から、彼女はこの種の道具の「質」を見抜く確かな目を持っていた。

「いいですね、これ。これならいつも大荷物を持たせているラズベルちゃんの負担も劇的に減るし、たくさん荷物が詰め込めそう。マジックポーチの方は在庫ある?」

「ああ、お前さんが今腰に提げているのと同じ規格のものが、ちょうど二つ残っているよ。……それからスクロールは?」

「威力の高い『火槍投てき魔法ファイアランス』を二枚、防御用の『中級防御結界』を二枚、お願い」

ミリエルは手際よく棚から薄黄色のスクロールを取り出し、丁寧に革の防湿ケースに収めていく。

「えらく奮発したね。マジックバックパックが一つ、マジックポーチが二つ、さらにスクロールが四枚。全部合わせて金貨七枚と銀貨四十枚だよ」

チヅルは金貨八枚を迷いなく差し出し、銀貨六十枚のお釣りを受け取った。一見すると高額な出費だが、これからの探索の異常な危険度を考えれば、命を繋ぐための決して無駄ではない投資だ。

「ありがと、ミリエルさん! これで準備も一段落だよ」

「気をつけてな。いくら装備が良くなっても、過信は禁物だよ。生きてまた顔を見せておくれ」

馴染みの店主の温かい言葉を背に、チヅルは真新しいバックパックを肩にかけ、満足げに店を後にした。

***

一方、ラズベルは職人街からほど近い中央市場へと足を運んでいた。

彼女の担当は、ダンジョンや遺跡の探索に必要な「消耗品」の一切を調達することだ。

「ええと、一週間分の携帯食料に……水筒は新しいのを三つ。松明は地下でも煙の少ないオイルタイプがいいかな。ロープは丈夫なものを二十エム……」

ラズベルは使い込まれた手帳に細かく記したリストを指でなぞりながら、活気あふれる市場の商店を効率よく回っていく。長期の遠征において、食の質と道具の信頼性がパーティーの士気や生存率に直結することを、彼女は誰よりも熟知していた。

日持ちのする硬いライ麦パンや塩漬けの乾燥肉、風味豊かなハードチーズに加え、移動中の馬車の中で少しでもリラックスできるよう、香りの良い茶葉や少量のドライフルーツも予備として購入した。

「それから、『ヒール』の魔法と同等の効果を持つ回復ポーションを十本。……おじさん、これ全部でおいくら?」

「まいど! いつも贔屓にしてくれてありがとな、嬢ちゃん。全部まとめて銀貨十七枚だ。……よし、景気づけにポーションを一本おまけしとくよ。十一本持っていきな!」

「えっ、いいんですか? ありがとうございます、おじさん! 本当に助かります!」

ラズベルは丁寧にお礼を言い、銀貨を支払った。彼女は自身の背負う巨大なバックパックに収まりきらない荷物を、両手に持った大きな麻製の手提げ袋にぎゅうぎゅうに詰め込んだ。仲間たちの健康と安全を守るための「備え」が、予備を含めて万全になった充足感に、彼女の表情は自然と和らいでいた。

だが、市場の喧騒を抜けて大通りに出る頃には、その精神的な充足感も、物理的な「重さ」の前に敗北し始めていた。

背中にはパンパンに膨れ上がったバックパック、さらには両手にはずっしりと重い手提げ袋。いくら力自慢のハイドワーフ混領種とはいえ、大量の食料と水、そしてガラス瓶に入ったポーションを下げて歩くのは、かなりの重労働だ。

ラズベルは時折立ち止まっては袋を持ち直し、じんわりと汗をかきながら、ふらふらとした足取りで合流場所であるギルドへと向かっていた。

***

その頃、ユイはギルド『潮鳴りの鉄錨』へと戻り、併設された酒場の中ほど、目立たない柱の陰に腰を下ろしていた。

店内には敗退したガラムたちの惨状を肴に、不安を紛らわせるような噂話が飛び交っている。ユイは頼んだエールには口をつけず、周囲のテーブルから漏れ聞こえる声に鋭く耳を澄ませた。

最初の一組目、Eランクの新人たちの話が聞こえてきた。

「あいつら、ただのコボルトにビビって逃げ帰ったわけじゃねえ。……『群れの動きが軍隊のようだった』って震えてたよ。本来、本能のままバラバラに動くはずの魔物が、一斉に包囲陣を組んで逃げ道を塞いできたんだと」

魔物の完全な統制。ユイは小さく眉を寄せた。

二組目、ベテラン斥候がいたパーティの情報は奇妙だった。

「あの老練な斥候が、方向感覚を完全に失ったって話だぜ。昨日まであったはずの二階の居住区の通路が、目の前で『組み換わった』らしい。まるで遺跡そのものが意志を持って、侵入者を迷わせる巨大なパズルになったみたいだとな」

構造のリアルタイムな変化。それは物理的な罠の域を完全に超えている。

三組目の実力派たちの証言は、遺跡の強固な防衛力を如実に物語っていた。

「あいつらは最上階の手前まで行った。だが、そこで立ち塞がったのは魔物の壁だ。分厚い盾を構えたオークが最前列を固め、後ろからゴブリンが正確な狙撃をしてくる。あれはもう『巣』なんかじゃない、難攻不落の『要塞』だ」

そして最後に、ユイが自身の目で見たガラムたちの姿。救護班の若者が青ざめた顔で仲間に漏らしていた。

「……ガラムさんの鎧、雷撃魔法を受けた後のような、鋭い銀の匂いがしたんだ。右手の震えも、毒じゃなくて『激しい雷』に打たれたような衝撃による神経の麻痺らしい」

ユイは静かに立ち上がった。軍隊、可変する迷宮、オークの要塞、そして雷撃魔法による鎧のダメージ痕。すべてが、奥底に眠る「何か」を守るためだけに構築された城壁のように思えた。

「……正面から馬鹿正直にぶつかれば、私たちもあの二の舞になるな」

ユイはそのまま酒場を抜け、職人街の裏手にひっそりと佇む武器専門店へ向かった。看板のないその暗い店に踏み込むと、炉の火を落としたばかりの、独特の熱気と鋼の匂いが立ち込めていた。

「……終わったか」

「ああ。じっくり見させてもらったよ」

初老の無口な研ぎ師が、奥から一本の刀をうやうやしく差し出した。白を基調とした美しい蒔絵が施された鞘に収められた魔刀『白綱しらつな』。ユイがそれを受け取り、ゆっくりと鯉口を切ると、琥珀色の油脂ランプの火を反射して、抜き身の刃が青白い冷気を纏ったかのような鋭い輝きを放った。

「……見事だ」

「元が良すぎる業物だからな。だが、あれだけ酷使すれば鋼も悲鳴を上げる。しばらくは無理をさせるなよ」

「助かる。最高の仕事だ」

ユイは指先で刃の波紋をなぞり、その滑らかさと恐ろしいほどのキレを確認する。そして吸い込まれるように鞘へと戻すと、「カチリ」と、一切の隙のない完璧な音が工房に響いた。

「このキレなら、鉄壁のオークの装甲でも……」

魔刀を腰に佩き、ユイは研ぎ澄まされた鋭い眼光を宿して店を後にした。

***

陽が中天に差し掛かり始めた、ギルドへと続く大通り。

チヅルは新調した藍色のマジックバックパックを軽く背負い、鼻歌交じりの軽快なステップでギルドを目指していた。ふと前方を見ると、人混みの中で見覚えのある桃色の髪が、重そうな荷物に振り回されるように左右に激しく揺れているのが見えた。

「あ、ラズベルちゃん! ラズベルちゃーん!」

チヅルが声を上げて駆け寄ると、両手に大きな麻袋を下げて今にも膝から崩れ落ちそうだったラズベルが、肩を震わせて涙目で顔を上げた。

「あ……チヅル、ちゃん……. たす、けて……。指が、もう限界……っ」

「わああ、そんなに買い込んだの!? ちょっと待ってて、今すぐ楽にしてあげるから!」

チヅルは背負っていたマジックバックパックを下ろし、その口を大きく開けた。

「ジャジャーン! これ、さっき『アルカナ』で奮発して買った一級品のマジックバックパックだよ! さあ、その荷物全部ここに入れて!」

「えっ……マジックバックパック!? あ、ありがとう……!」

ラズベルが震える手で差し出した二つの巨大な麻袋、さらには彼女が背負っていたパンパンのバックパックまで、チヅルが受け取って次々と藍色のバックパックの中へ押し込んでいく。山のような物資が、まるで底なし沼に吸い込まれるように消えていく光景に、ラズベルは丸くした目をさらに見開いた。

「すごい……あんなに重くてかさばったのに、外側は全然膨らんでないね」

「でしょ? 空間拡張が二重にかかってるんだって。魔法の力で重さも一切増えないから、ほら、まるで空っぽみたいに軽いんだよ!」

チヅルが指一本で軽々とバックパックを持ち上げて見せると、ラズベルはようやく解放された両手をさすりながら、心底ホッとしたように深くため息をついた。

「……助かったぁ。チヅルちゃんがマジックバックパックを買ってくれてて、本当によかった……。あたし、ギルドに着くまでに挫折して荷物を道ばたに投げ出すところだったよ」

「えへへ、これからは荷物の重さなんて気にしなくていいよ。さあ、ユイちゃんもそろそろギルドに到着する頃かな。あたしたちも行こう!」

身軽になった二人は並んで歩き、約束の陽の七刻ちょうどに、ギルドのメインホールに滑り込んだ。そこでは、柱に背を預けていたユイが、鋭い刃を取り戻した『白綱』の鯉口を親指で軽く切って二人を迎えた。

「遅かったな。……二人とも、何かいいことでもあったのか?」

「ユイちゃん、お疲れ様! これを見てよ、チヅルちゃんが最高のマジックアイテムを買ってくれたんだよ!」

ラズベルは自身が背負っている真新しい藍色のマジックバックパックをユイの方へと向けて、嬉しそうに声を弾ませた。

「この中にね、一週間分の食料にお水、回復ポーション、それにロープや松明まで、必要なものが全部入ってるの。なのに、羽みたいに軽いのよ!」

「……そうか。酒場で集めた状況は予想以上に最悪だが、対策の立てようはある。これだけの準備をしたんだ。無駄にはさせない」

ユイの言葉に、チヅルとラズベルは顔を見合わせ、頼もしげに頷いた。

装備を整え、情報を精査した彼女たちの次なる目的地は、青白い閃光が眠る石の巨塔。

そして静かに、次なる「未知」への足音が近づいていた。

***

陽の七刻を回り、マーレンの街は午後の穏やかで少し気怠い熱気に包まれていた。

ギルドのメインホールで無事に合流を果たした三人は、まず受付カウンターへ向かい、マリアから発行された『調査遠征用・公用馬車手配の紹介状』を恭しく受け取った。ヴァノス王国のギルド規定では、馬車での移動を要する距離の公式依頼において、安全を確保するための馬車のチャーター費用はギルドが全額負担することになっている。

「紹介状を出すだけでいいなんて、やっぱりギルドのサポートは手厚いよね。浮いたお金で、移動中のおやつをもっと豪華にできちゃうかも!」

チヅルは、マリアから預かった羊皮紙の書状を大切にマジックポーチにしまい込むと、弾むような足取りで居住区の端にある貸し馬車組合へと向かった。

今回の目的地である古代遺跡までは、ここマーレンから北西へ約七十ケイエムの道のりだ。起伏の少ない平らな街道が続くとはいえ、完全武装した三人と一週間分の物資を運ぶ長旅である。移動中の馬車内でどれだけ体力を温存できるかが、現地での生存率に直結する重要な戦略の一つだった。

「明日の早朝出発で、北西の遺跡までお願いします。現地で一晩野営に付き合ってもらった後、御者さんは一度街へ戻って、三日目の夜にまた迎えに来てほしいんです。四日目の朝にはここへ向けて出発できるように」

貸し馬車組合の賑やかな窓口で、チヅルがギルドの紹介状を差し出すと、組合員は内容を確認し、すぐに一人のベテラン御者を手配してくれた。恰幅が良く、日焼けした分厚い肌に刻まれた深い皺が、長年の経験と危機回避能力を雄弁に物語る男だった。彼はギルドの正式な依頼書に目を通し、力強く頷いた。

「七十ケイエムか。日の出とともに出りゃあ、日暮れには着ける距離だな。任せな、あんたたちの命、きっちり馬車に積んで運んでやるよ。三日目の夜には、約束の野営ポイントで焚き火を焚いて待っててやるからな」

「よし、これで足も確保できたね! 今回は重くてかさばる荷物も、全部ラズベルちゃんの新しいマジックバックパックに任せることができるから、客車の中は広々使えるよ。移動中の馬車の中で、ゆっくり足を伸ばしながら作戦会議ができそうだね」

チヅルは、すでにラズベルの背中にすっかり馴染んでいる藍色の一級品バックパックを見つめながら、今回の準備の完璧さに満足げな微笑みを浮かべた。

***

夕刻。

買い出しと手配をすべて終え、拠点の家に戻った三人は、ラズベルが手際よく作った温かい夕食をたっぷりと平らげた。そして食後の香草茶の香りが漂う中、リビングの丸いテーブルを囲んで、いよいよ今回の莫大な報酬の精算を始めることにした。

卓上には、防具の新調で支払った金貨二十枚を差し引いてなお、圧倒的な存在感を放つ金貨二十五枚が、琥珀色のランプの光を反射して輝いている。

「さて、リーダー。お楽しみの山分けタイムといこうか」

ユイが楽しげに促すと、チヅルは真剣な表情になり、空中で指を弾くようにして計算を始めた。冒険者としての日銭のやり繰りで鍛えられた彼女の頭内算盤は、戦闘中の素早い身のこなしに負けないほど正確で、かつシビアだ。

「ええと、まずは必要経費の差し引きからね。今回の遠征のために『アルカナ』で買ったマジックバックパックの代金が金貨四枚。これはパーティーの共通装備になるから、二十五枚から引きます。それから、ラズベルちゃんが市場で揃えてくれた食料やポーションの代金が銀貨十七枚……これも経費だね」

チヅルは金貨を四枚端に寄せ、さらに銀貨の束から十七枚を数えてラズベルに渡した。

「そうすると、残りは金貨二十枚と銀貨八十三枚だね。これを純利益として三等分してそれぞれの報酬にするんだけど……これからの家の家賃や日々の食費、武具のメンテナンス費用みたいな、パーティーの維持費も確保しておかないといけないでしょ? だから、今回の個人の取り分は、きっちり一人『金貨四枚』ずつにしようと思うの。みんな、これでいいかな?」

一人金貨四枚。それでも銀貨四百枚という、Dランク冒険者にとっては数ヶ月遊んで暮らせる破格の大金だ。ユイとラズベルが異存なく力強く頷くのを確認して、チヅルはそれぞれの前に、ピカピカの金貨を四枚ずつ、塔のように重ねて並べた。

「で、残った金貨八枚と銀貨八十三枚。これはパーティーの活動資金として、この『パーティー用財布』に入れておきます。管理はいつもの通り、ラズベルちゃんにお願いしていい?」

「了解。私が責任を持って、一銀貨たりとも無駄にしないよう預かっておくわ」

ラズベルがずっしりと重みのある革の財布を受け取ると、大金の精算は無事に終了した。チヅルはホッと一息ついた様子だったが、すぐに何かを思い出したように、傍らに置いていた麻の手提げバッグへ手を伸ばした。

「これ、あたしのポケットマネーで買ったんだけど。二人へのプレゼント!」

チヅルがテーブルの上にポンと置いたのは、彼女が使っているものと同じ規格の、高品質なマジックポーチが二つだった。

「えっ……これ、マジックポーチじゃない。これだけでも金貨一枚以上はする高価な魔法具なのに……本当にいいの?」

「あたしたち、これからもっと得体の知れない過酷な場所に行くでしょ? ラズベルちゃんの大きなバックパックだけじゃなくて、戦闘中にもすぐに取り出せるように、各自で予備のポーションや緊急用の道具を身につけておいた方がいいと思ったの。あたしだけ便利なのを持ってるのは、リーダーとして落ち着かないしさ!」

チヅルが少し照れくさそうに笑って見せると、ユイは「あはは、チヅルはホント、そういう実用的なところは気が利くよな」と、嬉しそうにポーチを腰のベルトに装着した。

「ありがとう、チヅルちゃん。私の命綱だと思って、大切に使うわね」

ラズベルも目を細め、その魔法のポーチをそっと撫でた。

***

精算とプレゼントの贈呈が終わり、リビングの円卓には、ギルドの資料室から特別に借りてきた『古代遺跡』の分厚い古地図が広げられた。

ユイが昼間に酒場で聞き込んできた、ガラムたち敗残パーティの凄惨な情報を地図に書き込み、潜入ルートを練るためだ。

「……軍隊のような魔物の統制、リアルタイムで組み換わる居住区の迷宮、そして最上階への道を塞ぐオークの要塞……。やっぱり、この正面玄関から馬鹿正直に入っていくのは無謀すぎるな」

「魔物たちが要塞を築いているなら、正面から行けば必ず数の暴力で包囲されるわ。でも、他の入り口は数十年も前に落盤で封鎖されたって記録にあるし……」

「ああ。それに、迷宮化する通路に迷い込めば、物理的に道を塞がれてジ・エンドだ。……どう思う、チヅル?」

ユイが真剣な顔で尋ねたが、チヅルは地図を凝視したまま、ピクリとも動かなかった。

というより、ラズベルが淹れてくれた温かいハーブティーに添えられた、甘酸っぱいベリーのジャムがたっぷり乗ったクッキーを齧るのに、完全に夢中になっていたのだ。

「ん、んぐ。……あ、ごめん、聞いてたよ。……あっ、やば!」

チヅルが慌てて口を開いた瞬間、クッキーに乗っていた赤いジャムの塊がポトリと落ち、広げられた貴重な古地図の上にべちゃりと落ちてしまった。

「そこはただの断崖だろ。入り口なんてないはず……って、ちょっとチヅル! 何やってんだよ、ギルドの備品だぞ!」

「ご、ごめんなさい! 今すぐ拭くから!」

チヅルは慌てふためき、自分の指先で地図に落ちたジャムをゴシゴシとこすり取った。

すると、ジャムの水分と強い摩擦によって、古びた羊皮紙の表面がふやけ、上塗りのインクがわずかに剥がれ落ちてしまった。ユイが頭を抱え、ラズベルが布巾を取りに立ち上がろうとした、その時だった。

「……あれ? ねぇ、ユイちゃん。インクが剥がれた下から、何か別の線が見えるよ」

チヅルが不思議そうに指差した箇所。ユイが油脂ランプを引き寄せ、透かすようにしてその場所を覗き込む。

「……なんだ、これ。インクの下に……別の経路が隠してあるのか?」

それは、通常の視点では絶対に見つからない、羊皮紙の繊維の層の間に隠された特殊な記述だった。かつてこの遺跡を建造した未知の者たちが、資材搬入口として利用していたと思われる極細の線が、崖の中腹へと伸びているのが浮かび上がっている。

「これ、崖の中腹にある『隠し扉』のルートじゃないか? しかも、これを使えば一階と二階を完全にすっ飛ばせるぞ! ……おいチヅル、お前これ、最初から狙ってやったのか?」

「まさか! ジャムが勿体ないって思って、必死にこすっただけだよ!」

チヅルはケロリと言ってのけたが、ユイとラズベルは無言で顔を見合わせた。

何十人ものベテラン冒険者が何年も見つめ、誰も気づかなかった地図の秘密。たった数ミリのインクの剥落を、ジャムをこぼすという失態ひとつでピンポイントに引き当ててしまう。これこそが、彼女を彼女足らしめる所以であり、周囲がどれほど緻密な計算をしようともひっくり返される、理不尽なまでの『幸運』なのだ。

「このルートなら、魔物が密集している一階の大広間と、迷宮化している二階の居住区を完全に回避して、三階の裏側に直接出られるわ。崖下から十七エムほど自力で登る必要はあるけど……私たちなら問題ないわね」

「あはは、正面から待ち構えてる連中を完全に出し抜くのか。いいね、最高に痛快な作戦になりそうだ。チヅル、お前のおかげで、生存確率が跳ね上がったぜ」

***

夜が更け、マーレンの街を穏やかな静寂が包み始める。

明日の早朝出発に備え、三人は一日の疲れを癒やすべく、順番に湯浴みを済ませることにした。

拠点の家に備え付けられた浴室には、ラズベルが市場で見つけてきた油脂ランプの温かな火に照らされた、リラックス効果のある香草の香りが満ちている。

「ふぅ……。やっぱり、お風呂は最高だねぇ」

「本当だね。今日は一日中街を歩き回ったから、足の裏の芯まで解れるみたい」

「……新しい鎧の調整も完璧だし、刀のキレも申し分ない。あとはあたしたちの体調次第だからな。しっかり温まっておけよ」

ユイが脱衣所から浴室内へ声をかけた。

温かな湯気の中で、三人はこれからの遠征への不安を少しずつ洗い流し、清潔な寝巻きに着替えてそれぞれのベッドへと潜り込んだ。

新調したミスリル合金の鎧と、完璧に研ぎ澄まされた魔刀。買い揃えた魔法の道具と、一週間分の備え。そして、リーダーの強運が導き出した秘密の抜け道。

窓の外、北西の空には、雲一つない穏やかな星空が広がっている。

だが、その静寂の彼方で、遺跡は確実に蠢いている。

遥か古の遺産と、最上階で待つ得体の知れない「意志」。

チヅルは、枕元に置いた新しいマジックポーチを軽く撫でると、心地よい眠りへと落ちていった。

運命の歯車は、少女の無邪気な直感に導かれ、今、カチリと音を立てて確実に回り始めていた。


――第二章:完。


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