第7章:その名は「太陽の恵み」、温かい湯気の向こう側
レストラン計画が始動すると、村は再び活気に満ち溢れた。カイの指揮のもと、村の男たちが総出で街道沿いの土地に店を建て始める。彼はまるで水を得た魚のようだった。正確な測量、頑丈な基礎作り、そして手際の良い組み立て。彼のリーダーシップと技術は、村人たちの心を一つにし、作業は驚くほど順調に進んでいった。
私も、彼らのために毎日炊き出しをしながら、店の内装や厨房の設計、そして最も重要なメニューについて考えていた。
「店の名前、どうしようかしら」
「名前か……。そうだな……」
休憩中、隣に座ったカイに問いかけると、彼は空を見上げながら少し考え込んだ。
「あんたが来てから、この村は変わった。まるで、ずっと曇り空だった場所に、太陽の光が差したみたいだ。だから……『太陽の恵み』ってのはどうだ?」
「太陽の恵み……」
素敵な名前だと思った。私たちが作っている野菜も、そしてこの村に訪れた変化も、まさに太陽の恵みそのものだ。
「ええ、それにしましょう!」
こうして、私たちの店の名前は「太陽の恵み」に決まった。
そして一か月後。街道沿いに、温かみのある木造の食堂が完成した。店内には、村の男たちが作った頑丈なテーブルと椅子が並び、私が縫った素朴なチェック柄のカーテンが窓辺を彩っている。厨房は、私が使いやすいようにと、カイが何度も設計をやり直してくれた、自慢の城だ。
開店当日。私たちは、緊張した面持ちで最初の客を待った。メニューは、日替わりの定食一つだけ。今日のメインは、私が得意とするカブのクリームシチューと、焼きたての黒パン、そして新鮮野菜のサラダだ。
しばらくすると、一人の疲れた顔の商人が、物珍しそうに店を覗き込み、おそるおそる入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
接客担当のカイが、少しぎこちないながらも威勢のいい声で迎える。私が厨房から熱々のシチューを運ぶと、商人はその湯気と良い香りに、ほっとしたような表情を浮かべた。
「……うまい」
一口食べた商人が、ぽつりと呟いた。
「こんなに優しい味のシチューは初めてだ。野菜が、甘い……。パンも、噛めば噛むほど味がある」
彼はあっという間に皿を空にし、満足そうな顔でお代を置いていった。
「ありがとう、体が温まったよ。また近くに来たら寄らせてもらう」
その言葉が、私たちにとって何よりの報酬だった。
その日を境に、「太陽の恵み」の評判は、街道を行き交う人々によって、少しずつ口コミで広がっていった。
「街道沿いに、安くて滅茶苦茶うまい飯を食わせる店ができたらしい」
「野菜料理が絶品なんだと」
私は厨房で腕を振るい、カイは接客や仕入れ、力仕事を一手に引き受ける。アンナも、今では立派なウェイトレスとして笑顔を振りまいている。最初はぎこちなかった村の女の子たちも、次第に仕事に慣れ、店はいつも明るい笑い声で満たされるようになった。
私たちの息はぴったりだった。カイが客から聞いた好みを私に伝え、私が次の日のメニューの参考にする。私が考えた新しい料理を、カイが一番に味見する。共に働き、共に笑い、共に悩みながら、私たちは店を切り盛りしていった。
それは、忙しいけれど、充実した毎日だった。王宮では決して味わえなかった、自分の力で何かを成し遂げる喜び。誰かを笑顔にできる幸せ。私はこの「太陽の恵み」という小さな城で、確かに輝いていた。




