第6章:豊作の悩みと、街道レストラン計画
豊作の喜びも束の間、私たちは新たな問題に直面していた。有り余るほどの食料。それは喜ばしいことであると同時に、頭の痛い問題でもあったのだ。
「このままじゃ、せっかく採れた野菜が腐っちまう……」
村の集会で、カイが溜息混じりに言った。この世界には、冷蔵庫なんて便利なものはない。干し野菜や塩漬けといった基本的な保存食の作り方はあるが、それだけでは追いつかないほどの量が、今年は収穫できてしまったのだ。
村人たちの顔にも、喜びと不安が入り混じった複雑な色が浮かんでいる。自分たちが食べる分は十分すぎるほどある。だが、丹精込めて育てた作物を、ただ腐らせてしまうのは忍びなかった。
「……そうだわ」
皆が頭を悩ませている中、私はぽんと手を打った。
「この美味しい野菜を、村の外の人にも食べてもらいましょう」
「村の外の人に?」
カイが怪訝な顔で聞き返す。
「ええ。この村の近くには、王都と北の商業都市を結ぶ街道が通っていますわよね?毎日、多くの商人や旅人が行き来しているはずです。その人たちに、私たちの作った野菜料理を売るというのはどうかしら?」
私の提案に、集会所はしんと静まり返った。
「街道沿いに、小さな食堂を開くのです。新鮮な野菜を使った、温かくて美味しい料理を出せば、きっと喜ばれるはず。そうすれば、余った野菜を無駄にすることもないし、村の収入にも繋がりますわ」
それは、この村の誰もが考えつかなかったアイデアだった。しばらくの沈黙の後、一人の村人がおそるおそる口を開いた。
「しかし、イザベラ様。俺たちに、そんな店の経営なんて……」
「それに、旅の人がわざわざこんな辺鄙な村の食堂に寄ってくれるもんかねえ」
村人たちの不安ももっともだ。農業一筋で生きてきた彼らにとって、商売は未知の世界。成功する保証なんて、どこにもない。
皆が半信半疑の表情を浮かべる中、カイが立ち上がった。
「……やろう」
その力強い一言に、全員の視線が彼に集まる。
「俺は、イザベラを信じる。この人が言うなら、きっとうまくいく。だってそうだろう?この不毛の地で、これだけの収穫を成し遂げたんだ。今更、怖いものなんてあるか?」
カイは、私に向き直ってにやりと笑った。
「それに、面白そうじゃねえか。俺たちが作った野菜が、どんなふうに人を喜ばせるのか、見てみたい。なあ、みんなもそう思わねえか?」
彼の言葉は、村人たちの心に灯をともした。そうだ、やってみなければ分からない。不安よりも、新しい挑戦への期待が上回り始めたのだ。
「よし、やろう!」「村長代理が言うなら!」「俺も手伝うぜ!」
次々と賛同の声が上がり、集会所は熱気に包まれた。
「計画の詳細は、私が考えます。建物の設計や建築は、大工仕事が得意なカイにお願いできるかしら?」
「おう、任せとけ!最高の店を建ててやる」
カイは力強く胸を叩いた。こうして、私たちの次なる挑戦、「街道レストラン計画」が、満場一致で可決された。まだ見ぬ未来への期待に、私の胸は高鳴っていた。この村から、新しい風を吹かせてみせる。そんな野心に満ちた計画が、今、静かに幕を開けたのだった。




