エピローグ:それぞれの未来、太陽の恵みの下で
あれから、五年が過ぎた。
ヴァルム辺境伯領は、今や王国で最も人気のある観光地の一つとなった。緑豊かな大地、美味しい料理、そして温かい人々。それらを求めて、一年中多くの人々が訪れる。
私の城、「太陽の恵み」は、王都にも支店を出すほどの一大レストランチェーンに成長した。もちろん、私は今も、この辺境の本店で厨房に立っている。ここが、私の原点だから。
そして、私の隣には、変わらずカイがいる。彼はもう村長代理ではなく、正式な村長であり、そして、私の愛する夫だ。私たちの間には、太陽のように明るい笑顔の男の子と、私によく似て食いしん坊な女の子、二人の子供にも恵まれた。
「母さん、今日のまかない、なに?」
厨房の入り口から、息子のリオがひょっこり顔を出す。
「今日は、とれたてのトウモロコシで、ポタージュを作りましょうね」
私がそう言うと、リオは「やったー!」と歓声を上げて庭へ駆けていく。その向こうでは、カイが娘のリーナを肩車して、リンゴの木の様子を見ていた。何気ない、でもかけがえのない、私の宝物の光景。
一方、王都では。
アルフォンス殿下は、国王陛下に即位された。彼は、かつての過ちを深く胸に刻み、民の声に真摯に耳を傾ける賢王へと成長したという。時折、ヴァルムから献上される新しい品種の野菜や果物を口にするたび、彼は遠い辺境にいる女性の幸せを、静かに祈っているらしい。ランバート卿から、そんな話を聞いた。
聖女だったリリアは、完全に力を失い、王宮の片隅にある修道院で、静かに余生を送っていると聞く。彼女が自分の犯した罪と向き合い、いつか心の平穏を得られる日が来ることを、私は願っている。
物語の終わりは、いつもと同じ、家族と、そして大切な領民たちとの夕食の風景だ。
私たちの家の大きなテーブルには、自分たちの手で育て、収穫した作物で作った料理が、ところ狭しと並んでいる。カイの隣に座り、子供たちに料理を取り分けてやる。
「イザベラ、美味い。やっぱり、あんたの作る飯が一番だ」
カイが、少し照れくさそうに、でも心からの笑顔で言ってくれる。
「あら、当たり前でしょう?」
私も、満面の笑みで返す。
あの日の断罪は、私から全てを奪ったように見えた。けれど、本当は、私に全てを与えてくれたのだ。
王妃のティアラよりも、泥のついた麦わら帽子の方が、ずっと私には似合っている。
私は、この太陽の恵みあふれる大地で、王妃の座よりもずっと温かく、美味しくて、お腹いっぱいの幸せを手に入れた。これ以上の結末なんて、どこにもない。私の人生は、最高に幸せだ。




