番外編2:王都の食卓革命
財務大臣デューク・ランバートは、王都に戻ってから、すぐに行動を開始した。彼はまず、王宮の料理長を呼びつけ、ヴァルム辺境伯領で食した料理の数々を説明した。
「素材の味を活かす、だと?そんな田舎料理、王宮の食卓には相応しくありませんな」
プライドの高い料理長は、一笑に付した。だが、ランバート卿は動じない。彼は国王陛下に直接謁見し、イザベラの成功と、彼女が考案した「バイキング」という画期的なシステムについて、熱弁を振るった。
「これは、単なる食事の形式ではございません。効率性、公平性、そして何より『選ぶ楽しみ』を提供する、新しい文化です。我が国の停滞した食文化に、新しい風を吹き込むものと確信しております」
彼の言葉と、詳細な報告書に興味を示した国王は、試験的な導入を許可した。
ランバート卿は、王宮で開かれる、比較的格式の低い夜会で、バイキング形式を試すことにした。最初は、多くの貴族が戸惑いを見せた。
「自分で取りに行くなど、下品だわ」
「使用人に持ってこさせればよろしいものを」
しかし、ずらりと並んだ色とりどりの料理を前に、彼らの好奇心が勝った。恐る恐る皿を手にした貴族たちは、やがてその魅力の虜になった。嫌いなものを無理に食べる必要はなく、好きな料理を好きなだけ味わえる。会話も弾み、夜会はかつてないほどの盛り上がりを見せた。
この夜会の成功は、瞬く間に王都の噂となった。裕福な商人たちは、こぞって自分たちのパーティでバイキングを取り入れ始めた。やがて、王都にも「好きなものを好きなだけ」を謳い文句にしたレストランが次々とオープンし、市民の間でも大流行となった。
食文化は、豊かになった。人々は食事を、ただ空腹を満たすためのものではなく、一つのエンターテイメントとして楽しむようになったのだ。
ランバート卿は、執務室の窓から王都の賑わいを眺めながら、遠い辺境の地にいる一人の女性に思いを馳せた。
「イザベラ嬢。君が蒔いた種は、君のいないこの場所でも、見事に花を咲かせているよ」
彼女の影響は、国境を越え、時代を超え、人々の食卓を、そして心を、豊かに変え続けていく。イザベラが成し遂げた革命は、まだ始まったばかりだった。




