表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境レストラン「太陽の恵み」へようこそ!追放令嬢がバイキング形式で巻き起こす、お腹いっぱい幸せいっぱい大逆転劇!  作者: 緋村ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/19

第15章:辺境の地の祝福、私の王国

 打ちのめされたアルフォンスと、完全に我を失ったリリアは、逃げるようにして「太陽の恵み」を後にした。誰も、彼らを引き止めはしなかった。彼らが乗った馬車が小さくなっていくのを、私はただ静かに見送った。


 過去が、完全に去っていった。何の未練も、悔しさもなかった。ただ、胸いっぱいに広がるのは、解放感と、この場所への愛おしさだけだった。


「……よかったのか?」


 隣に立ったカイが、心配そうに私の顔を覗き込む。


「妃の座だぞ?」

「いらないわ。私のお城は、王宮じゃなくて、この『太陽の恵み』だもの。それに、私の王子様は……」


 そこまで言って、私はカイの顔を見上げて、悪戯っぽく笑った。


「もっと無骨で、土の匂いがする人の方が、好きなの」


 私の言葉に、カイは一瞬きょとんとした後、みるみるうちに顔を真っ赤に染めた。その慌てぶりが可笑しくて、私は思わず声を上げて笑ってしまった。私たちの周りで、村人たちも温かい笑い声を上げる。


 この騒動は、私と村の絆を、そして私とカイの距離を、さらに縮めることになった。


 ――そして、季節は再び巡り、村はまた、黄金色の収穫の季節を迎えた。


 その年の収穫祭は、これまでで一番盛大なものになった。村の広場には、山と積まれた野菜や果物。そして、「太陽の恵み」のスタッフ総出で作った、豪華なバイキング料理がずらりと並ぶ。


 夜には篝火が焚かれ、村人たちは楽器を奏で、歌い、踊った。その輪の中心で、私もカイと手を取り合って、ぎこちないステップを踏んでいた。


 人々の楽しそうな笑顔。子供たちのはしゃぎ声。美味しい料理の香り。温かい炎の光。その全てが、愛おしくて、眩しくて。


「ここが、私の王国ね」


 私は、胸に込み上げる熱い想いと共に、そう呟いた。あの日の断罪があったから、ここにいる。全てを失ったと思ったけれど、私はそれ以上のものを手に入れた。


 ふと、頬に冷たいものが伝った。驚いて触れると、それは涙だった。でも、悲しい涙じゃない。温かくて、幸せな涙だ。


「どうした?」


 カイが、私の涙に気づいて、不器用にその指で拭ってくれる。そのごつごつとした指の優しさに、また涙が溢れてくる。


「ううん。なんでもないの。幸せだなって、思っただけ」


 私は笑顔で答えた。


「ありがとう、カイ。あなたがいてくれて、よかった」

「……馬鹿野郎。それは、こっちのセリフだ」


 照れくさそうにそっぽを向く彼の耳が、篝火に照らされて赤く染まっている。


 空には、満月と、数えきれないほどの星が輝いていた。王都から見る星よりも、ずっと、ずっと綺麗だ。


 私は、この辺境の地で、本当の祝福を見つけたのだ。地位も名誉もないけれど、心からの笑顔と、愛する人々と、美味しいごはんに満ちた、私だけの、最高の王国を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ