第13章:再会、そして残酷なまでの現実
王都から何週間も馬車に揺られ、アルフォンスとリリアはついにヴァルム辺境伯領の入り口に差し掛かった。
「……ここが、ヴァルム……?」
リリアが、信じられないといった声で呟いた。彼女が想像していたのは、荒涼とした灰色の土地だった。しかし、目の前に広がるのは、どこまでも続く緑の絨毯。整然と区画された畑には、様々な作物が太陽の光を浴びて生き生きと育っている。道端には色とりどりの花が咲き、心地よい風がハーブの香りを運んでくる。
「何かの間違いでは……?」
アルフォンスもまた、絶句していた。彼が追放を命じた「捨てられた土地」の面影は、どこにもない。街道を進むにつれて、その驚きはさらに大きくなった。道は綺麗に整備され、すれ違う村人たちの表情は明るく、健康的だ。子供たちの楽しそうな笑い声が聞こえ、家々は清潔で、庭先には花が植えられている。
まるで、理想郷のような光景だった。
そして、彼らの目に飛び込んできたのが、街道沿いに建つ一際賑わいを見せる建物だった。「太陽の恵み」と書かれた看板。中からは、人々の楽しそうな声と、食欲をそそる良い香りが漏れ聞こえてくる。
二人は顔を見合わせた。そして、身分を隠すために羽織っていたフードを深く被り直し、吸い寄せられるように店の中へ入った。
店の中は、客でごった返していた。中央の大きなテーブルには、目が眩むほどたくさんの種類の料理が並べられ、客たちは思い思いにそれを皿に取っている。誰もが、幸せそうな顔をしていた。
そして、厨房とホールを忙しなく動き回る、一人の女性の姿が、アルフォンスの目に留まった。
泥のついたエプロンを締め、髪を無造作に後ろで束ねている。額には汗が光り、決して着飾っているとは言えない姿。だが、その横顔は、王宮にいた頃のどんなに着飾った姿よりも、ずっと、ずっと輝いて見えた。
イザベラだった。
彼女は客に料理の説明をしたり、子供の頭を優しく撫でたりしながら、テキパキと働いている。その表情には、苦労や惨めさなど微塵も感じられない。あるのは、自信と、充実感と、そして幸福の色だけだ。
そして、彼女の隣には、常に一人の男がいた。逞しい体つきの、無骨な男。カイだ。彼は、重い荷物を軽々と運び、イザベラと短い言葉を交わしては、お互いに信頼しきった笑みを浮かべている。イザベラがよろめけば、さっとその腕を支える。その何気ない仕草に、二人の間の深い絆が透けて見えた。
アルフォンスは、その光景に金槌で頭を殴られたような衝撃を受けた。
嫉妬深い女?惨めな暮らし?とんでもない。彼女は、彼が与えた絶望の淵から這い上がったのではない。彼女は、彼が与えた絶望を、自らの手で楽園に変えてしまったのだ。
「……嘘よ」
隣で、リリアが震える声で呟いた。彼女の顔からは血の気が失せ、その瞳には信じられないという色と共に、嫉妬と憎悪の炎が燃え上がっていた。自分が手に入れたかった、人々の称賛と尊敬。それを、自分が追放した女が、こんな場所で、自分以上に享受している。その事実が、彼女の心を粉々に打ち砕いていた。




