お父さんはホットケーキを食べたい
私はホットケーキが大好きだった。
ほんのりきつね色に焼けた生地、その上でゆっくり溶けるバター、たっぷりとかかったシロップ。想像するだけで口の中によだれが広がる。
子供の頃は母の作るホットケーキが大好きで、おやつにホットケーキが出た日には飛び跳ねて喜んだものだ。
学生になりアルバイトを始めるようになると、自分で稼いだ金で色んな店のホットケーキを食べ歩いた。
就職し、サラリーマンになってからも、たまのホットケーキはやめられなかった。
こんな私も結婚し、娘ができた。
父親になったからには、私はますます強くならねばならない。
強く、逞しく、家族思いな、一家の大黒柱。
そんな父親になるためには、ホットケーキは甘すぎる。
私は決心する。一種の願掛けのつもりで、これを機にホットケーキはやめよう、強い父親になろう、と。
娘がおやつのホットケーキを食べていても、興味がない風にやり過ごす。
これが大人のおやつだとばかりに煎餅を食べる。
ああ、だけど本当は……ホットケーキを食べたい。食べたい。食べたい。
甘い誘惑を耐え抜き、私はどうにかホットケーキ断ちを続けてきた。
ある日、私はふと今日は自分の誕生日だと思い出す。
この年になると、もはや誕生日も嬉しくなく、自分が一歳年を取るだけの日に過ぎない。
しかし、家に帰ると――
「お帰りなさい!」
娘が出迎えてくれた。
「今日はパパの誕生日でしょ? だからプレゼント用意したの!」
おお、なんて気がきく娘だ。私はそのまま居間に向かう。
すると――
「……え!?」
そこには皿に載ったホットケーキがあった。
きつね色に焼けた生地、バターが溶け、シロップがかけられている。
「これは……!?」
驚いている私に妻が言う。
「この子がね、パパに作ってあげたいって言ったのよ。だから作らせてあげたの。私も手伝ってね」
なんと娘が言い出したことだった。
「なんでパパがホットケーキが好きだって分かったんだ?」
娘はけらけらと笑う。
「だってパパ、あたしがホットケーキ食べてると、羨ましそうに見るじゃない。バレバレだよ!」
娘には隠していたつもりだったが、お見通しだった。
「パパ、いつもお仕事お疲れ様。だから今日はたっぷりホットケーキを食べて!」
「ああ、いただくよ」
久しぶりに食べたホットケーキは、とても甘くて美味しかった。
私は強い父親になるためにホットケーキをやめたが、それはもうやめだ。
だってホットケーキはこんなに元気をくれるんだから。
完
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ラジオ大賞参加作品となります。




