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マジェンタ・ローパー

 るぉんるぉん、びゅぉぉ

 不気味な音のするほうへ進むとすぐに森が途切れて湖沼が広がる場所に出た。

 足首よりも低い水位の水場を十五メートルほどいった先に小島がある。そこに異様な風体の木が立っていた。樹高三メートルほどだが幹の周りは大人が三人がかりでも届かないくらい太い。樹皮は明るく鮮やかな赤紫色で、幹の上部から長いねじくれた枝を生やしている。いや、枝ではなかった。それはときおりうねうねと蠢動していたのだ。

 びゅるるぅ、バシッ

 枝、いや触手が幹のような胴体の頭上で振り回されて、水面に叩きつけられる。あわやという瞬間に着水地点から黒い影が跳びのく。リーフウルフだ。

「ローパーがなぜこんなところに……」

 先ほどから聞こえていた異音はリーフウルフを狙うローパーの触手の風切り音だった。水源を冒し縄張りを主張するローパーとそれを排除しようとするリーフウルフが闘っているのだ。両者の戦いはすでにひと月に及んでいた。ローパーを囲むリーフウルフは十頭を超えるが皆薄汚れ疲弊し瘦せ衰えていた。数に勝るはずのリーフウルフが、たった一体の魔物に追い詰めらている様は異様な光景だった。

 ローパーは動物とも植物ともいえない生き物である。定着性で移動はしないが伸縮自在な触手で周囲を攻撃する。捕食するための口や内臓はないが、さりとて光合成をするわけでもなく一般的な動植物の分類には当てはまらない。ゆえに魔物に分類されている生物だ。とくにこの赤紫色のローパーは毒を排出する種類で厄介な存在だ。

 それにしてもデカい。聞いた話では一般的なローパーの体高は一メートル程度のはずだが。

(ヤツから力を感じる)

 やはり()()()を取り込んで巨大化、変質化しているのか。生体毒が呪毒化しているのもその影響に違いない。

 どうするか。

 移動しないから近づけば俺の腕でも攻撃は当てられる。しかしあの触手が厄介だ。少し本数を減らさないとこちらの行動が封じられるリスクが高い。

(見よ。ヤツの足下だ)

「むっ?何か大きな獲物が捕まっているな」

 グルルルル、グフッ

 何本もの触手が絡みつき、四肢を縛られ胴体や頸を絞められ、口吻マズルを封じられた巨大な白銀のオオカミがうずくまっている。遠目ではっきりとは確認できないが、馬ほどの大きさがあるようだ。

「大きい。シルヴァルフ?まさかな」

 ローパーがその触手の半数以上を巻き付けて押さえつけているにもかかわらず、白い獣は完全には拘束されていなかった。ときおり暴れては脱出を試みている。リーフウルフたちもその動きに呼応してローパーにヒットアンドアウェイ攻撃を繰り返す。

「いかがいたします、セオ殿」

「俺に考えがある。あのローパーの足下に捕まっている白いヤツを助け出す。ルーナは俺の後ろから触手攻撃をさばいてくれ」

「やってみます」

 俺は背中の大剣を抜き、体の正面で盾のように掲げる。ルーナも曲剣を抜いて構えた。

「いくぞっ」

 バシャバシャバシャ

 水を跳ね上げローパーが根付く小島に突進する。

 びゅん、ひゅるるぅ

 ローパーの触手が的確に俺の頸を狙って襲い掛かる。が、大剣に触れると抵抗もなくスパッと切り落とされ、水面に落ちる。くねくねと蠕動を続ける触手を無視して進む。

 るぉん、るぉぉぉ

 ひと際大きく振り回されて勢いをつけた触手が側面から打ち込まれる。

 びしっ

「ぐっ、硬い」

 ルーナが曲剣で触手攻撃を打ち落とす。だが、触手そのものは無傷でのたくりながらローパーの頭上に戻っていく。

 ローパーの触手はなめした革のように強靭で刃を合わせただけでは切り落とせない。俺の魔剣の切れ味が異常なだけで、ルーナの腕が悪いわけではないのだ。

「触手は叩き落とすだけでいい。捕まらないようにだけ気をつけてくれ」

「了解」

 俺が魔剣を盾にして正面をカバーし、左右からの攻撃をルーナが迎撃する。リーフウルフのヒットアンドアウェイ攻撃も功を奏していて、ローパーの狙いを分散させている。

 このまま一気に詰める!


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