ギフトスキル
俺の育った辺境の村では成人になる十五歳の年に姫神様からギフトと呼ばれるスキルを一つ授かる儀式がある。
どんなスキルでも本人の努力次第で身に着けることはできるが、ギフトスキルは本人に一番適した能力を姫神様が授けてくださるのだ。
だからギフトスキルは熟達も早いし到達点も高い。
自分の人生を決めるほどの影響力があるのだ。
ギフトスキルは戦闘向けの能力だけではない。パン屋の息子はパンを美味しく焼くスキルを手に入れるし、お針子の娘は裁縫のスキルを手に入れる。それぞれの道で一流になれるチャンスを得るのだ。
俺は物心つく前から冒険者を目指していた。
もともと冒険者が集まる辺境の村で、危険も多いがお宝も手に入る生活が日常だった。孤児だった俺はそんな冒険譚に憧れて様々なスキルを修行したものだ。ギフトスキルは成人の儀式の前に習得したスキルの上位互換が出やすいという噂を信じて。
そして、運命の日、俺はスキル『不運』を授かった。
儀式を執り行った司教様も戸惑っていたっけ。
「このような神託は私も初めての経験じゃ。お主の賜った神託は『不運《Bad Luck》』じゃ。じゃが、女神様の行いには必ず意味がある。腐らず、神託の導きに従い良き道を歩くのじゃぞ」
あの日の司教様の言葉が脳裏によみがえる。
……
それからしばらくは幼馴染とパーティを組んで冒険者をやっていたんだが、まあ、いろいろとあって、いまは元冒険者の行商人というわけだ。それはそうだろう。攻撃は当たらない、罠があれば必ず踏み抜くような運のないヤツはパーティの足手まといにしかならないし。
おっと、いけない。考え事をしている間に馬車溜まりに着いちまったようだ。
「よう、相棒。ちょっと待っててな。荷物の番を頼むぜ」
馬車を引いている灰色の騙馬を水桶の前につないで俺は商業ギルドの建物に向かう。
市に出店するために商業ギルドに寄ったんだが、店を出す場所は抽選だって言われちまった。ドーム型の屋根が連なる屋内型の市場は常連の商人が占めており、俺のような流しの行商人には大通り沿いの露店スペースの割り当てしかないそうだ。
「抽選ねぇ」
不運スキルにより、ハズレは確定。あとはどんなひどい目に遭うのかってところだ。
店を出したのは街の目抜き通りから外れた日当たりの良い街路の一角だ。
日当たりがいいっていうのは素人目には良い物件と思われがちだが、露天商には向かない。
商品が痛むからナマモノは置けないし、骨董品なんかも日焼けして価値が下がるリスクを考えると店先にズラリと並べるわけにはいかない。かと言って天幕の奥に置いたら置いたで外が明かるすぎて店内の様子が見えないから、せっかくの目玉商品が客の目を惹けずに宝の持ち腐れになる。街に根付いた馴染みの店ならいざ知らず、通りすがりの根なし草な行商人ではなんの店かもわからないまま通り過ぎるのが人の常だ。
(だが値打ち物の骨董品なんぞ在庫しておらぬであろう)
「うるさいなあ。一般論ってやつだよ」
さきほどから人通りはそこそこあるのに、初夏を思わせる陽射しにやられて通行人は急ぎ足で過ぎていく。街路の向かい側に軒を並べる店先には爽やかな風が通り抜けて背後の建物が提供する日陰が心地よい空間を演出している。お祭り気分の冷やかし客も財布のひもがゆるんでいる様子でおおいに賑わっているようだ。こちら側は背景の日干しレンガの壁からの照り返しが眩しくて、顔を向けてさえもらえない。
(客足が振るわないのは品揃えのせいではないか?)
「ちっ、しょうがないだろう。商品を仕入れる資金も時間もなかったんだから」
左右の店を見ると、初物の果物を揃えた店や冷たい飲み物を提供する店は日当たりのいいこちら側でも繁盛していた。
まあ正直なところ今回の出店は暇つぶしのようなものだ。もともと俺はここのような都市をターゲットにした行商ではなく、小規模な村々を回って日用品や塩、香辛料を売り歩くのが本業である。今回は通行税免除の件があったから街の市に出店することにしたまでだ。だから売れないことに不満はない。ってことにしておく。
そんなわけで通行人で賑わう街路の一角に、俺の店の前だけぽつんと開けた空間が出来上がっていた。その空間越しに通行人の雑踏が聞こえてくる。
「この時期に大市を開催するなんて、領主様も粋なことをやるねぇ」
「なんでも領主様の弟君が提案したらしいよ」
「へぇ、あの穀潰しの放蕩者がねぇ」
「おいおい、お貴族様に対して滅多なことをいうものじゃないよ」
「だけど、領内一の嫌われ者だって有名じゃないか」
「それが最近、そうでもないらしいんだわ。街道の警備を強化して野盗を追い払ったり、職にあぶれた者に仕事を斡旋したりして成果を上げているんだとよ」
「へぇ、アードルナーン子爵様も弟君のことは心配されていらっしゃったからな。更生したんならよかったじゃないか」
「だけど弟君の悪口を言ったヤツが警ら隊にひどい目に遭わされたって噂もあるぜ」
「なんだよ、結局裏があるのかよ。まあ、お貴族様なんてそんなもんだろ」
ぼんやり人間観察をしていると、お付きの女性を伴った身なりの良い子女が一軒一軒物珍しそうに店舗を覗き込んでいるのが見えた。




