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種なしパン

 血の付いた包帯を池の水で洗い、煮沸消毒する。そのあとはテントを立てて、それから夕食の支度だ。キャンプもいつの間にか人数が増えてやるべきことが増えている。

 幸い、小麦は豊富に積んでいる。まあ、売り物なのだが、自分たちで食べる分くらいは問題ないだろう。

 ボウルを用意して小麦粉をお椀に三杯ほど取る。

 水を少量ずつ垂らしてこねる。

 粘り気が出てきて粉がまとまり始めたら少量の塩を加える。この辺りの分量はまあ適当だ。さらにこねて耳たぶくらいの固さになればオーケーだ。

 出来上がった生地を丸めてボウルの中心に置き、濡れ布巾をかけて十分ほど休ませる。

 作業の合間に火にかけておいたスープの様子を見る。うむ、山の寒村でもらったニワトリの骨から良い出汁が取れた。ガラを取り出して人参にんじんかぶを適当な大きさに切り放り込む。

 ダエナにフォークを渡してニワトリのガラにくっついた肉をせせり落としてもらう。幼女といってもタダ飯は喰えない。働かざる者食うべからずだ。

 さて、スープの仕込みは出来た。次は生地を焼く番だ。

 専用のまな板に軽く打ち粉をする。

 ボウルの中の生地をひと握り分千切って手のひらで丸め、まな板に叩きつける。

 麺棒を使ってできるだけ均一に伸ばす。まあここは野外料理なので火が通る程度に薄ければ多少いびつでも許してほしい。

 フライパンを温めてバターを溶かし、伸ばした生地を焼く。二、三分もすれば香ばしい匂いがしてくるから裏返して両面を焼く。しっかり焦げ目がついたら完成だ。

「うーん、いい匂い。パンを焼いたの?」

「ああ。種なしパンだから温かいうちに食べないと固くなっちまうがな。スープのほうはどうだ?」

「こっちも美味しそうにできてるわよ」

「どれどれ。ん-、ちょっと塩を足すか。よし、これでいい」

 出来上がったスープを火からおろす。

 遠火で串焼きにした燻製肉を外して細切りにして皿に盛る。

 好みでスープに入れてもいいし、パンにはさんで食べてもいい。

 俺はいつものように自分のスープに胡椒を一振り入れた。

「おいしーい」

 ニアの歓声にダエナもパンを頬張ったまま何度もうなずく。

「行商人殿は治療だけでなく料理もできるのだな」

「まあこっちが本業っつーか、旅が本業みたいなものだからな」

 商人としての腕前はあまり自慢できたものではないので。

「セオはどうしてそんなに何でもできるの?」

「ふむ。私もぜひ聞きたい」

「何でもは出来ないさ。戦闘はからっきしだし」

「そんなことなかったよ。ルーナが来るまでしっかり私たちを守ってくれたし」

「そうです。それにあの大剣。あのような見事な剣は見たことがない。行商人殿は一体何者なのですか?」

「だから行商人だって。あー、まあ、ちょっとは冒険者をやっていた時期があるけどな」

「やっぱり」

 ニアが我が意を得たりとうなずく。なんでニアが自慢気なの?

「俺の産まれ育った村は北方の辺境の村でね。リトンっていう村なんだが、そこでは十五歳の年に成人の儀式として姫神様からギフトスキルを授かるんだ」

「ふむ、聞いたことがあります。冒険者の多くがギフトスキルを活用していると」

「ルーナは持っていないの?」

「武人貴族の社会では若いうちからスキルに頼ると能力が伸びないと言われております。ですので、ギフトスキルの儀式は三十歳を超えて伸びしろがなくなったころに行うか、人によっては生涯授からずにいる者もおります」

 騎士の家系はストイックなんだな。まあ、万が一授かるのが戦闘以外のスキルだったら逆に立場を悪くしかねない。将来が決まっているってのも考えものだね。

「ガキだった俺は儀式の前にできるだけたくさんのスキルを学んで、どんなギフトスキルをもらっても活かせるようにと欲張ったんだ。さっきの治療魔法もその一つさ」

「料理もそのときに覚えたの?」

「料理はまあ、孤児院育ちだったから家事の手伝いをさせられているうちに自然と覚えたかな」

 お腹がくちくなってうとうとし始めたダエナに膝枕をしながら熾火を見つめる。自分の身の上話をさせたのは焚き火のもつ魔力だったろうか。

「姫神様から授かったのは『不運』という名のスキルだった」

「『不運』?それって……」

「悪くなる可能性がある物事は必ず悪くなる。そういう働きを持った能力だ。ただし、これは俺の選択行動に対してのみ働く。しかも受動的に(パッシブスキル)だ」

「それは……」

 ルーナがその意味を悟って息を飲む。

「ああ、確率的に外れる可能性のある攻撃は必ず外れる。動かない壁に向かって切りつければ当たらなくはないが、人間や動物なんかの動くものを狙った一撃は必ず空振りになるんだ」

 相手が右に動くと思って切りつければ左に避けられ、左に逃げると思って左に踏み出せば右に逃げられるというわけだ。

「でも、セオの攻撃は当たっていたわ。盗賊や峠の兵隊を倒してたもの」

「あれは避けられないように相手を捕まえたうえで殴ったからさ。いろいろ試して、武器として使えるのはゲンコツだけってことになったんでね」

 ま、武器を使わないのにはほかにも理由があるんだが。


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