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おまえらが正規兵?冗談でしょ

 峠のこちら側は傾斜が緩いのか、関所のすぐ近くまで森林が迫っていた。

 見通しの悪いカーブを曲がる。

「……ッ!」

 左右の森からわらわらと兵士が現れた。槍を構えた完全武装の一群だ。柄の長い斧を持った者もいる。

 連中は絶対にニアを逃がしたくないらしい。

「チッ、伏兵まで用意しているのか」

 荷馬車をひいたままのグラニでは突破は無理か。

 手綱を引いてグラニを止める。グラニは素直に言うことを聞いてくれたが、その目は火が点いた闘争心を映して爛々としていた。

「公女誘拐の罪でおまえを逮捕する。大人しく馬車から降りろ」

 兵士たちが浮かべる品のない笑いは昨日の野盗と同類のものだ。だが、着ているものはスーヤーン郡の制服だし、手にしている武器もきちんとした物だった。中身がならず者であろうとなかろうと、制服を着た兵士に逆らうのは領主に対する敵対行為だ。

「関所の手続きはきちんと済んだはずだが?」

「関所が血で汚れちゃあ面倒だろうが。誘拐犯は外で始末するようにとのお偉いさんからの命令なんだよ」

 死人に口なしってことか。

「まったく。ついてねぇなぁ。グラニ、嬢ちゃんたちは任せたぞ」

 ヴフゥゥ。

 グラニが狂暴に歯を剥いて兵士を威嚇する。

 俺は御者台を降りてゆっくりと馬車の前に出た。

 ガントレットの中の指を軽く動かしてウォーミングアップをする。

 肩を揺すって背負った大剣の位置を直す。残念ながらこの得物は使えない。

「さあて、どこまで通用するかねぇ」

 一気に押し囲まれては勝ち目がない。一対一の戦いに持ち込んで一人ずつ倒す以外に方法はなかった。だが、時間をかけるわけにはいかない。すぐに関所からの追手が追い付いてくるだろう。

「そぉりゃっ!」

 わざと大きな気合を放って正面の敵に向かうと見せかけ、右の槍兵に突進する。

「うわっ」

 不意を突かれた槍兵は思わず槍を振りかぶって叩き下ろしてきた。

「槍を構えているくせに突いてこないで振り回すなんてシロウト丸出しだぜっ」

 穂先より内側に踏み込んで左腕で槍の柄を受ける。

「よっ」

 そのまま巻き込んで脇でがっちり固定する。

「離せっ!」

「やなこった!」

 体制を崩した兵士の顎に右のガントレットを叩き込む。クリーンヒットだ。

 兵士は悲鳴を上げる間もなく膝から崩れ落ちた。

 槍を手挟んだまま体を捻り、穂先の回転で背後から襲おうとした右隣の兵士を牽制する。

「しゃっ」

 すぐに槍を放り出し、左の兵士に突進する。

 長柄の斧を構えた兵士が振りかぶった隙に、さらに身を低くしてダッシュ、膝裏を刈るようにしてタックルを決める。

「げぇふっ」

 腹と背中の両方に強烈なダメージを受けて兵士が斧を取り落としそうになる。俺は息が詰まって悶えている兵士の武器を奪うように両手でしっかりと柄を握った。

 次の瞬間、俺の両手に電流が走る。ビリッと来る程度だが、覚悟をしていた俺と違って兵士のほうは電撃の不意打ちに思わず斧を手放した。

 二人の手から落ちた斧を蹴り飛ばして遠ざける。。

「うわっ、なんだ、今のは?」

 突然武器を失うことになった兵士が目を白黒させて喚いた。

「さあな。後でゆっくり考えなっ」

 ガスッ、ガスッ。マウントポジションから強烈な打ち下ろしを二発入れたところで兵士が白目をむいて泡を吹いた。

「舐めやがってぇっ!」

 別の兵士が無防備に見えた俺の背中に力一杯斧槍を振り下ろす。

「ぐっ、ッ痛ぇなぁ」

 槍斧の勢いを殺すために前転して逃れたが、さすがに背中に直撃した衝撃は大きい。もっとも、大剣が盾代わりになって体はどこも切れちゃいないが。

「くそっ。運のいい奴め」

「へっ、本当に運が良けりゃ、こんな目に遭っちゃいないよ」

「ほざけ!」

 思ったよりも手ごわい行商人に戸惑って山賊崩れと思われる兵士の手が止まる。

「うわあぁぁ」

「ぐえぇぇ」

「ひいい、やめっ、ぎゃああ」

 馬車のほうから悲鳴が悲鳴が上がる。

 グラニだ。

 前脚で踏みつけられ、後脚で吹っ飛ばされ、頭髪をむしられ耳をかじり取られた兵士たちが転がっている。

 俺が二人でグラニが三人か。やっぱり肉弾戦ではグラニには敵わないな。

 怖気づいた兵士にニヤリと笑いかけて牽制する。

 だが、あと五人。いまは予想外の反撃に混乱しているが、五人が連携して掛かってくればさすがに持ちこたえられない。

 じりじりと間合いをうかがう。

 どうする?

 馬車だけ先に行かせて逃がすか?

 だが伏兵が他にいた場合、積んでしまう。

 それに、連中に荷台に取り付かれてしまえばおしまいだ。中の少女たちを人質に取られたら手も足も出ない。

 時間は俺に味方しない。

「うらあぁぁ」

「逃がさねぇ」

 ちいっ、もう来やがったか。

 敵の援軍が到着する。関所で振り切った連中だ。完全に前後を挟まれてしまった。

「おう、よく来てくれた、兄弟」

「シロウト一人になに手間取ってんだよ」

「こいつだけならともかく、この馬っころがどちゃくそ凶暴でよう」

「ああ?畜生に負けたのか?だっせぇなあ」

「負けちゃいねえさ、これからぶっちめるところだったんだ」

「へっ、俺たちもこいつらにゃあ面子メンツを潰されてんだ。容赦はしねぇ。ぶっちめようぜ」

 うへー、戦意マシマシの輩が三倍に増えちまった。

 こっちには援軍なしだってーのに。不公平だぜ、姫神様ってばよぉ。

「どうしよう、セオ」

 垂れ幕の隙間からニアが心細げに声を上げる。

「いいから馬車に隠れてろ」

 今のところ荷馬車の中が一番安全なんだから。


 兵士と睨みあっているところに荷馬車の背後から重い馬の蹄の音が響く。

 ドカカッ、ドカカッ

 このうえ騎兵まで参戦だと?無理ゲーだっつーの。


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