守護騎士の探索
姫様の捜索に出てはや二日。東側はハズレだったようだ。街道をどこまで進んでも、見覚えのある荷馬車は見つからなかった。二日目は街道を大きく外れて農村地帯を回りながら郡都方面へと戻り、そのまま北側一帯を探索した。
「すまないな、クリステル。無茶な行軍を強いている。あの村で飼い葉を調達しよう」
前方に見える風車を目標に馬を進める。二日続けての野営では馬も人も十分な休息を取れているとは言い難かった。
農村は夜明けすぐという早い時間にもかかわらず、多くの人々が忙しく立ち回っていた。
「すまないが、飼い葉とそれから馬の世話をお願いできないか」
「騎士様が一人でこんな村までいらっしゃるなんて珍しいねぇ」
馬の世話を引き受けてくれた民家のおかみさんが私の分の食事を運びながら話しかけてくる。
「人を探している。最近このあたりに行商人は来なかったか?」
「行商人はいつも大勢来るからねぇ」
「少女連れで、灰色の騙馬が引いている荷馬車の行商人だが、心当たりはないか?」
「ああ、それならつい先日、うちに泊めたよ。品の良さそうなお嬢さんを連れていたね。何かあったのかい?」
「いや、連れとはぐれて探している次第だ。合流しようと追いかけているのだが、どちらに向かったかわかるか?」
「さてねぇ。ああ、そうだ。うちの娘とは仲良くしていただいていたから、何か聞いているかも知れないね」
「本当か?娘さんとお話させてもらえないだろうか」
「構わないよ。アーリーナ、ちょっと来ておくれ」
十歳くらいの少女が溢さないように慎重な手つきで木のジョッキに入ったミルクを運んでくる。ミルクを受け取ると、少女は少し気後れするような表情で私を見つめた。
「この子がアーリーナだよ。アーリーナ、このお方は一昨日のお姉さんの知り合いだそうだよ。どんな話をしたか聞かせてさしあげて」
「アーリーナだね。私はルーナだ。初めまして」
「初めまして、騎士様」
「私はア……ソニア様を探している。」
「ニアおねえちゃん?」
ソニア様の名前を聞いて少女の顔がパッと明るくなる。
「おねえちゃんは鍵を探しているんだって。綺麗な箱を持っているんだよ。あんなに奇麗な宝石箱は初めて見たわあ。でも鍵が無いから中に何が入っているか知らないんだって。きっと夜空みたいにいっぱいの宝石が入っているんだわ」
間違いない、姫様だ。
「ほかに何か、行き先に関してお話をしなかったかい?」
「おねえちゃんはお母さまに会いに行くんだって。だからもうここには来れないっていってたの」
別れのときを思い出したのか、寂しそうに表情が曇る。
「お母さま……州都アウナーラに向かったのか。どちらの方角に進んだかわかるかい?」
少女は真っすぐに山を指さした。
「山を越えるって言っていたよ。おねえちゃんは山が初めてで楽しみなんだって」
「そうか、ありがとう。とても参考になった」
「騎士様、おねえちゃんに会いに行くの?」
「ああ、そうだ」
「いいなぁ、私も行きたい」
「すまないがお嬢さん、私の馬は軍馬だ。お客様を乗せられるものではない。それに勝手に出て言ったら母上が悲しむだろう。そうしたらソニア様も残念に思うはずだ」
「そうね。おねえちゃんもお母さんを大事にしなさいって言ってたわ」
「そうだね。ソニア様はもう何年もお母さまと離れて暮らしていらっしゃる。だから会いに行くのだよ。お嬢さんが勝手に村を出て追いかけてきたら、ソニア様も悲しむだろう」
「おねえちゃん、可哀そう。わかったわ、あたし、おねえちゃんの分もお母さんのお手伝い、がんばる」
「そうだね。そのほうがいい」
ようやく姫様の足取りを掴んだ。早く追いつかねば。
休息もそこそこに再び愛馬の背に鞍を乗せる。
「もうひと踏ん張りだ、クリステル。悪いが付き合ってくれ」
愛馬は一声いななくと、文句も言わずに走り始めた。
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