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追放

「セオ、おまえは追放だっ!」

 ダンジョン最下層に広がる空洞に苛立ちをぶつけるようなセリフが木霊する。

「そんな、ジェレド。ここまでいっしょに頑張ってきた仲間でしょう……」

「甘ちゃんねぇ。そんなだからこのパーティはいつまでたってもパッとしないのよ」

「言い過ぎよ、アーリン」

「ハッ。あなたも本当はそう思っているんでしょう?あいつ(セオ)がパーティのお荷物だって」

「そんなこと……」

「『幸運』と『サラマンダーの加護』のレアスキルを二つも持ったパーティが万年Bランクに甘んじているのは、『不運』なんていう超弩級のハンデを背負いこんでいるからだって、このあたりの酒場じゃ有名な笑いぐさよ?」

 アーリンの言葉が俺の胸に突き刺さる。

 彼女は最近パーティに加わったメンバーだ。辛辣な言葉だが、古くからの付き合いというしがらみがない分、核心を突く説得力がある。

「……」

「ほらぁ。ぐうの音も出ないじゃない。分かっているんなら自分から身を引くべきでしょ」

「で、でも、運が悪いって言っても命にかかわるような事故にはなってないし……」

「当たり前でしょ?これで人死にが出てたら疫病神を通り越して死神よ」

「みんなに迷惑かけているのは分かっている。だから誰よりも事前の情報収集は力を入れているし、万が一のために食料もポーションも余分に準備して……」

「それが迷惑なんだよ。おまえがいると、無駄に魔物と遭遇エンカウントするわ、落石は起きるわでいっつも遠回りになっちまう。この前のダンジョンだって、そのせいで後から来たヤツらにお宝をかっさわれたんだ。せっかくオレ様が頑張って高難易度ダンジョンを攻略しても、実入りが少なくてやってらんねぇんだよ。なあ、ロー、おまえもそう思うだろ?」

「……」

 ローはいつも通り無言だ。だがその態度はジェレドの意見を強く否定するものではなかった。

「日数が伸びたせいで今回の遠征は完全に赤字だ。ボランティアじゃねぇんだよ、冒険は!」

「費用の穴埋めなら俺が……」

「そんなはした金の話をしてるんじゃねぇ。アレだ!」

 ジェレドが怒りに震えながら崖の下を指さす。

「アレは絶対にレジェンド級の魔剣だった。手に入れれば数千万、いや数億はくだらない値がついた。最強の力が、最高の栄誉が手に入ったはずなんだ。それをおまえは、おまえが近づいたせいで……」

「あれはセオが崖崩れからジェレドを助けようとして……」

「『幸運』を持つ彼がそんな目に遭うわけないじゃない。あるとしたら、『幸運』を打ち消す誰かさんのせいに決まってるでしょ」

 もしかしたら、という思いが仲間全員の脳裏をよぎる。

 そんな仲間たちのことを俺は責めることができない。俺自身、もしかしたら、と思っているのだから。

「とにかく、決まりだ。セオ、おまえはク・ビ・だっ!」

「ねぇ、ダーリン、もう帰りましょう。こんなところにいつまでも居たら、誰かさんのせいでまた魔物が集まってきちゃうわ」

「だな、魔物が湧く前にとっとと戻らねぇと。食料も底をついちまってるし」

「食料なら俺の予備を分ければ一日くらいはなんとか……」

「当然だ、足手まとい。あー、おまえはいっしょにくんな。離れて行動しろよ」

「そんな、セオくんを一人にするなんて……」

「そいつのせいであたりの魔物は全部、ここに来るまでの道で倒す羽目になっちまったんだ。運が良けりゃ、一匹も出くわさずに帰れるさ。運が良けりゃな」

 ギャハハハという笑い声を残してジェレドとアーリンが来た道を引き返し洞窟の奥へと歩き去る。

 ローはいつものように気配を消していつの間にか姿が見えない。

 心配そうに俺を見るリリアの手を引いて、申し訳なさそうにナディーンも去っていく。

 俺はしばらく動けずにいた。

 だが、こんなダンジョンの奥で一人になるのはまずい。

 力の抜けた足を何とか動かして、先行する仲間たち、いや元仲間たちのランタンの明かりがかすかに感じとれる暗闇の中を歩き始めた。


 帰り道では一匹も魔物に出くわさずに済んだ。

 運がよかった、なんてことは俺に限ってはあり得ない。

 ダンジョンに潜るときはいつも、取りこぼした魔物との挟撃を警戒して徹底的に湧きつぶしを行っている。その効果が続いているのだろう。このダンジョンは、しばらくは赤子が散歩できるほど安全だ。

「いまから装備を補充して向かえば、俺一人でも最奥部まで行けるはずだ……」

 一旦戻った宿で再度装備を整えながら考える。

 最奥部に引き返して崖の下から宝物を回収する。それ以外にジェレドの信頼を取り戻す方法が思いつかない。

 肉体に降り積もる疲労感をポーションの一気飲みでごまかして、俺は再びダンジョンへと向かった。


 ◇◆◇


「船旅?」

「ああ、そうだ。前にみんなで決めた通り、オレたち不死鳥の暁(フェニックス・ドーン)は冒険者として次の段階に進むために王都を目指す」

「不死鳥の暁?なにそのはずい名前」

「いいわぁ、素敵。何度でも立ち上がる不撓不屈の英雄ってわけね。この良さが分からないなんて、あなたセンスないわね」

「新しい俺たちのパーティ名だ。厄落としを兼ねて今までの不本意な評判を一掃する」

「ジェレド……」

「パーティリーダーは俺だ。文句あるか?」

「ふん」

「王都は遠い。ちんたら陸路を歩いている暇はない。ゆえに船旅だ」

「それは、確かに船なら一週間ほどだし、陸路に比べたらひと月は旅程を短縮できるけれど……」

「いいじゃない。お荷物の疫病神はいないんだし」

「……出発はいつだ」

「明後日だ」

「明後日ですって?そんなに早くチケットは取れないでしょう。今はちょうど女神祭の時期だから船も混んでいるはずよ」

「ぬかりねえよ。先週のうちに五人分押さえてある」

「五人分?」

「……セオの分ははなから無しか」

「ジェレド、あなた最初からセオを切り捨てるつもりだったのね。お宝がどうだとか赤字がこうとか御託を並べていたけれど、それが無くてもセオをパーティから外すことは決めていたんでしょう?」

「あら、彼がいたらどのみち船旅は避けたでしょう?彼のスキル『不運』のせいで嵐や海の魔物に襲われたら大変だもの。乗るなら五人しかありえないじゃない。だから五人分のキャンセルが出たときに確保しておいただけよ」

「いけしゃあしゃあと……」

「ごちゃごちゃとうるせぇぞ。これは決定事項だ!」

「でもセオくんが……」

「あいつはもう、ソロだ。あんなスキルを抱えてこのまま冒険者なんて続けられるわけがない。あいつのことは忘れろ」

「……」

「リリア、悔しいけどジェレドのいうことにも一理あるわ。セオはいつか自分のスキルに殺される。そう考えたら、今のうちに冒険者を引退させたほうが彼のためなのかもしれない」

「ナディーン。それなら私も……」

「リリアの脱退は認められない。ヒーラーはパーティの生命線だ。リリアもオレたちに野垂れ死んでほしくないだろ?」

「リリア。わたしからもお願い。ジェレドに賛成するのは癪だけど、わたしたちが冒険を続けるにはリリアの力が不可欠なのよ」

「……」

「……わかったわ。でも最後にセオに挨拶したい」

「ちっ、勝手にしろ。明後日の集合時間に遅れるなよ」

「あーあ、辛気臭くなっちゃったわ。ここはお開きにして、部屋で飲み直さない?ジェ・レ・ドぉ」

 ジェレドの手を取って宿の酒場から連れ立っていくアーリンの背中にナディーンが吐き捨てる。

阿婆擦あばすれめ。ああいうのが女の評価を落とすんだわ」

「ナディーンちゃん、悪い言葉を使っちゃだめって言ってるでしょう」

「はいはい、リリア母さん」

「もう」

 セオは大丈夫かしら。明日顔を見に行こう。


 ◇◆◇


 数日後、俺がダンジョンからなんとか生きて戻ったときには、パーティメンバーは船で旅立ったあとだった。行き先を尋ねに訪れた冒険者ギルドで、俺たちが故郷の村で立ち上げたパーティ、梟の夜(オウル・ナイト)が解散したことを告げられた。


 あれから、五年の歳月が流れた――。

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