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〜きなこ〜  作者: きなこのママ


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7/15

すもも

部室の天井には雨漏りでできた染みがある。

黒っぽいところが集まって人の顔に見えた。


私が部室に来てから数分も経たないうちに寺門さんがやって来た。


「こんにちはー」


今日は両手に紙袋を提げている。

中身は爆買いしたばかりの漫画だという。

アパートよりも部室が近いので、腕が疲れてきたから一時的に置きに来たのだそうだ。


「木嶋先輩以外もいらっしゃるんですか?」


「いや、今日はひとり」


「そうですか。お邪魔じゃないですか?わたし」


「まったく問題ないよ。みんなの部室だから」


安心したように私の反対側のソファで早くも一冊目のページを捲る寺門さんは白いタンクトップの上に涼しそうな水色のシャツを羽織っている。


痩せた首元には細いネックレスをしている。


「そうだ、部活どうでしたか?」


漫画に視線を落としたまま寺門さんが尋ねる。


「温泉行ったり、バーベキューとかしたよ」


「あと山にも登ったんですもんね、いいなあ」


そこで寺門さんが顔を上げる。私と目が合うとニコリと微笑む。


「先輩はお菓子とか食べますか?」


うすしお味のポテトチップスの袋を開けてテーブルに置いた寺門さんに勧められて私もひとくち頬張る。


「あんまり買わないな」


「ダイエットしてたりするんですか?」


「そういうわけじゃないけど」


「自炊してます?」


「うん。たまに弁当も作るよ」


「キナコ先輩のことどう思います?」


「いいやつだと思うよ」


「ですよね」


部室の冷蔵庫から2リットル無糖炭酸水を取り出した寺門さんはそのまま口をつけて飲み始めた。


四分の一くらいが一気になくなっていき、華奢な喉が嚥下の度に波打っている。


「部室、暑くないですか?」


「じゃあ窓開けるかい」


そう言って私は席を立ち窓を解錠する。

風がないよりはマシと考えるならばこのまま開けっ放しでもいいだろう。


「亀は元気にしてるの?」


「お陰様で、餌代に困ります」


「凄いね、何匹飼ってるの?」


「百匹はいますね」


「そりゃあお金かかるわけだ」


「ウソです」


「ウソかよ」


二冊目の漫画を手に取りながら寺門さんはソファに仰向けになる。


「木嶋先輩」


「なに?」


「下の名前なんでしたっけ」


(たくみ)


「じゃあタクちゃんだ」


「そう呼ばれないこともない」


「タクちゃん」


「なに?」


「呼び捨てで怒らないんですね」


「怒りはしないだろ別に」


ポテトチップスはついつい手が伸びてしまう。

久しぶりにジャンクなものを食べた。

隼人とバーガー食べた以来になるか。


「タクちゃんは幽霊って信じます?」


「難しい質問だ」


「イエスかノーでどうぞ」


「ノーではないかな」


「曖昧な人ね」


寺門さんは三冊目で手を止めた。

立ち上がってこちらに近づいてくる。


目の前で立ち止まると香水のニオイがした。

炭酸をかけられたみたいに爽やかなニオイ。


寺門さんの顔が近づいてくる。

私は思わず目をつむる。


「はい、取れました」


目を開けると寺門さんの指には羽毛が摘まれていた。


「髪の毛についてましたよ」


そう言ってゴミ箱に羽毛を捨てた。

寺門さんの指から離れた羽毛はゆっくりとプラスチック製のゴミ箱の底へと舞い降りていく。


「次の部活はいつですか?」


「しばらくないんじゃないかな」


「なんでです?」


「部長が亡くなったからね」


「え…」


蓋を開けたままの炭酸水の表面で泡がパチパチいっている。

泡が弾ける度に水面が揺れる。


「ウソだよ」


「ウソで良かった!」


きょとんとしていた寺門さんがホッとため息をつく。


「それウソで言っちゃダメなヤツですから」


「部長いなくなったら悲しいよ」


「そうですよ。立ち直れない」


「寺門さんさ」


「なんですか?」


「お願いがあるんだけど」


今度は私がソファから腰を上げる。

そしてゆっくり寺門さんに歩み寄る。

寺門さんはじっと私を見つめている。


「その漫画読ませてほしい」


「はい、どーぞ」


何十冊も入った紙袋をテーブルにドンッと載せるとポテトチップスが弾んだ気がした。

そのとき屋外から足音がしてキナコが部室に入って来た。


「おー!寺門さんと木嶋先輩じゃん。ポテチ美味しそう!」


「ん、邪魔しちゃったかな。キナコの予想だと部長しかいないはずだったのに、逆に部長がいないじゃないか」


続けて隼人も顔をのぞかせる。


「どうも、キナコ先輩。そちらは?」


「あ、隼人くんは木嶋先輩と同級生だよ!幽霊部員!」


「どうも、寺門さん。前回は部活来れなくて残念だったね。オレは三木隼人、宜しく」


互いに挨拶を交わした後は寺門さんは黙々と漫画を読み耽る。


「キナコって今日はバイトじゃなかったっけ」


「うん。シフト代わってもらったの!それで暇だったから図書館で勉強してました」


さっそくポテチを食べているキナコが新しく借りた本を見せてくれた。


「ちょうどオレも図書館にいてさ、勉強に飽きたところで部室に来たってわけ。図書館で駄弁るわけにもいかないしさ」


「隼人は勉強しなくてもテストの成績いいじゃん」


「テスト以外にも調べ物したいときは図書館便利だぞ?」


隼人のセリフに私はハッとさせられる。

大学の勉強だけじゃない勉強もあるのか。


「そんでお二人さんは今から予定ある?」


私はとくにない。寺門さんの方を見る。

寺門さんはゆっくりとからだを起こす。


「内容によりますね」


「ハハハ、別に大した話じゃないよ。キナコと商店街のお祭りに行こうかって言ってて、どう?一緒に」


「面白そうですね、行きましょう。ね、タクちゃん」


「ん、ああ」


ダラダラ部室で過ごすつもりが思いがけず出かける羽目になってしまった。


「これも部活の一環ですかね〜」


四冊目の漫画を読み終えた寺門さんは炭酸水の残りを冷蔵庫に閉まって戸口に立った。


「じゃ、またあとで会いましょ」


そう言うと部室の扉の向こうに寺門さんは消えた。

まだ捲ってすらいない寺門さんの漫画を袋に戻し、ポテトチップスの香りが漂う部屋で私は一度眠ることにした。





(続)

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