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〜きなこ〜  作者: きなこのママ


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6/15

みなも

山に訪れてハイキングをしないのは、インドカレーをナンなしで食べるのと似ている。

部長がそんなことを語り出したものだから、「〜といえば〜が欠かせない」選手権の火蓋が切って落とされた。


「インドカレーはナンがなくても食べるでしょ、サフランライスとか。ってことでオレが考えるなら、そうだなあ…」


腕を組んで目を閉じた隼人が妙案を閃くのを待っている間に、キナコが手を挙げる。


「ハイハイッ!」


「言ってみたまえキナコくん」


「シロップのないカキ氷!」


「ふむ。カキ氷には色とりどりの甘いシロップがつきものと言うわけだね。どうでもいいかも知れないが、ボクはレモンが好きだがね、フフ」


「アハハ、その情報入りません!」


「キナコくん、君は素直すぎるぞ〜」


部長とキナコがレモン派かメロン派か、どっちが優勢かの争いを始める。


でこぼこした木道、煌めく木漏れ日、草むらを風がなでる音に囲まれていると心が落ち着く。

隼人をチラリと見やると、まだ悩んでいるので私も参加することにした。


「山にハイキング、カキ氷にシロップ。夏に肝試しはどう?」


「え、木嶋先輩。それフツーです」


「キナコのカキ氷も似たようなものだろ」


「三つ目なんだから少しはひねらないと!」


「そうだフツーだぞ木嶋くん、しかも肝試しが定番かどうかすら怪しいぞ。花火大会なら毎年どこかしらで目にするに違いないが、幽霊目的でお墓に侵入したのなんて人生で数えられるくらいだなボクは」


ふと思いついただけなのに真面目に返されてしまった。

キナコに至っては三つ目でひねるという謎の法則を展開している始末だ。

困った私が閉口していると隼人は雷に撃たれたように顔を上げる。


「肝試しのオバケ役とかけて〜」


急に口を開いたと思ったら隼人は私の肝試しというワードを引き取ったらしい。


「コンクリートジャングルととく〜」


キナコが即座に「その心は!」と合いの手を入れる。

いつの間にか競技が謎かけに変わっている。

部長も期待の眼差しを隼人に向けた。


「その心は〜どちらもまちわびる(待ち侘びる、街はビル)でしょう」


「うーん。良く分かんない!キャー!クモの巣ゥ」


キナコは地面に落ちていた長い棒を拾ってブンブン振り回す。

クモの巣どころか私たちがハチの巣になりそうな勢いでキナコはパニクっている。


そんなキナコに部長は冷ややかな視線を送っていた。


「まったくキナコくんというやつは、良く分かんないときは分かるまで考えなさいな。君も一応大学生だろうに。こんなことでは寺門くんもびっくりして退部しちゃうよ」


「お、部長、珍しく金言!」


「もう。珍しくは余計だよ、隼人くん」


やがて賑やかな私たちの騒ぎ声を打ち消すほどの大きな音が聞こえてきた。


「わあ。立派な滝ですねえ!」


握りっぱなしだった棒を投げ捨てたキナコは崖のフェンスにしがみつく。


「滝のマイナスイオンでキナコくんの有り余るプラスを鎮められるといいね、ククク」


部長は自分の言葉にツボったのか悪魔に取り憑かれたように笑っている。


「なあ隼人、ここって変な噂とかないよな?」


「変な噂?なんのこと?」


「さっきからキナコも部長も変じゃないか。キナコのテンションが高いし、部長はケラケラ笑い続けてるし、いつもの二人と違うっていうか」


「さあ、あんなもんじゃないか。まさか木嶋、この滝で身を投げた人たちの怨念パワーが出てるとか言うんじゃあるまいな」


「まさか。そんな高さでもないだろ、怖がらせるなよ」


滝壺を覗くと白い泡が止めどなく噴き出している。

一度落ちたら抜け出せなくなるのか?などと頭をよぎった。


「さ、頂上までもう少しだから頑張ろう」


隼人に道の先頭を促され、私は山道の分岐点を案内板に従って登っていく。


途中「熊出没注意」の看板があった。

看板があるということは遭遇する確率が高いエリアということか。


昔部長と一緒にアウトドアショップに訪れた際に、熊スプレーという商品が販売されていることを知った。


熊スプレーは本来の用途とは別に人に向けて噴射するなど悪用されては困るので、任意で購入者に台帳を記入してもらうそうだ。


「人が騒いでいたらクマから自発的に寄ってくることはないと思うけどな。それにアレ見ろよ」


隼人が指し示す方向には他のトレッキング愛好家たちが見える。

耳を澄ますと熊鈴の音色も聞こえた。


「どうしようもないときはあの人たちに向かって大声で叫んで助けを呼ぼうな」


「ああ、そうだな。それにしても道が険しくなってきた」


私が振り返ると、部長もキナコも序盤ではしゃぎすぎたのか斜度の上がった急登のせいで息を切らしている。

切り株に腰かけた二人はどうやら動けそうもない。


「荷物持とうか?」


私の申し出にキナコは静かに首を振る。


「大丈夫、自分で持てるから、ってあ…」


隼人がキナコのリックを持ち上げた。


「いいの?隼人くん」


「オレ小さいとき父親の縦走に付き合ってたから楽勝だよ。なんなら部長のも持とうか?」


「ボクまでお願いしたら男が(すた)る!」


頂上まではここから遠くない。

身軽になったキナコが再び元気を取り戻している。


「黄身のない目玉焼き!」


「雪だるまの人参!」


「月に鼈!」


〜が欠かせない選手権が再び幕を開けようとしていた。





(続)

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