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〜きなこ〜  作者: きなこのママ


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13/15

まこと

部長が死んだのはその年の冬だ。

全然部室に来ないな、と心配していたらそういうことだった。


何かの病気で死んだとか、急な事故だったとか、連絡はまるでなくて、ただご家族から本人のラインを通じて死んだことが伝えられて知った。


学年が違うし、部活動以外では会わないから、状況はすんなり受け入れられた。


部長の消えた部室は残ったが、サーフィン同好会が活動拠点を探しているという噂を耳にした。


「嘘かもしれない」


「わざわざ自分の子どもが亡くなったことラインで言いますか?あたしだったら絶対ないですね」


「部長が騙っているかも知れないし、親じゃなくて兄弟の可能性だってある」


「そういう考えって不謹慎だと思いますけど」


「キナコは部長が死んだと思うの?」


「信じられるわけないじゃないですか。でも部長はここ最近来てなかったわけだし、そこで連絡が入ったら、ああ現実なんだってなるじゃない」


浅黒い肌のサーフィン同好会メンバーが挨拶に来たあとに、私とキナコは部長の残した珈琲を淹れていた。


十分に冷めた珈琲に口をつけてからどちらからともなく話し始めたのだった。


「部長は山と海どっちが好きだったのかな」


「山の行事ばかり参加してた気がするね」


寺門さんもやってきたのでドリップした珈琲を新しいカップに注ぐ。


「部長の話題ですか?」


「そう」


素っ気なくキナコが答えると、寺門さんはしばらく目をつむって考え込んでいた。

そして熱い珈琲を舐めるとフッと息を吐いた。


「探検部っぽいことってこれまでやってこなかったですよね」


「まあ、普通に旅行だな」


「もしも危険を冒して部長が甦るとしたら、やりたいですか?」


「寺門さん、なんでそんなことを聞くの?」


いつの間にかカップは空になっていた。寺門さんはお代わりを自分で注いでいる。


「ウチの家系はいたこなんです」


「いとこん?」


「いたこ」


「いたこ、木嶋先輩知ってる?」


「部長じゃないから分からない」


「霊を憑依させることができる一族なんです。アンティゴノス朝マケドニアから始まって、東方に伝来した由緒正しきシャーマンです」


「マケドニアにルーツがあることが由緒あることなのか判断できかねるな」


「行きましょう」


「え?」


「行きましょう、木嶋先輩」


キナコが二度も私に勧奨している。寺門さんがカバンから亀の甲羅を取り出してさする。中身はない。


「行くってどこに」


「まずは部長のお墓ですね」


「お参りするってこと?」


私の質問に寺門さんは首を振る。


「違います。寧ろ逆ですね」


「逆って?」


「墓を暴きます」


「なるほど、それは色んな意味で危険を伴う」


キナコが部室から駆け下りていき、倉庫からシャベルを持ってきた。


「骨壺は土に埋まってるんじゃないんじゃない?」


「え、そうなんですか」


「というかやる気満々じゃん」


「部長が生き返るならやりますよ」


「では、決まりですね。今宵まだ月が上がりきらないうちにお墓に集合しましょうか」


そう言って寺門さんは出ていった。

キナコも家に戻って寝溜めをするために去った。


残された私は二人の珈琲を流しに捨ててソファに横になった。

カレンダーは先月で止まったままだ。


ーーー


真夜中の墓場に訪れる機会はそうそうない。

隼人に連絡すると面白そうだからと参加を表明した。

しかしいつまで経っても来ない。


白装束の寺門さんとスウェットのキナコとともに卒塔婆の間を歩き出す。


「ここね」


キナコが懐中電灯を向けると、墓石に「部長」と刻まれている。まさか部長が名字だったとは、寺門さんは知らなかったようだ。


シャベルを振りかざすキナコを制止し、私は線香の燃えかすが置いてある台座を手で動かそうと試みる。

それはとてつもなく重い。

一人では埒が明かないので、寺門さんとキナコにも手伝ってもらいようやく退かすことができた。


「これかな?」


いくつか並んだ骨壺のうち、最も手前にある汚れのないものを取り出した。


蓋を開けると赤黒く焦げた骨がぎゅうぎゅうに詰まっていた。

部長はまだ二十代だから、骨がしっかりしている。


ふいに足音がして私たちはその場に伏せた。

息を殺して辺りの様子を伺う。


「しっ、誰か来る」


月明かりを反射する白装束の寺門さんが口元に指を立てる。

人影がゆらゆらと揺れながらやってきて、ゆっくりと懐中電灯の先をこちらにかざす。


「あ」


困惑の表情を浮かべた隼人がそこに立っていた。


「みんなおっかない顔してるから化け物かと思ったぜ」


「驚かせてすまない、こちらも警戒してしまった。寺の坊主なんじゃないかって」


「木嶋はいいけどよ、寺門さんの格好はやばいね。冷汗かいたよ」


開けたての骨壺を目にして隼人は事が順調に運んでいると察したようだ。


「さ、早く乗りな。兄貴に無断で借りてきたからさ、部長の骨をぶち撒けるのだけは勘弁してくれよな」


駐車場には前照灯が点きっぱなしのバンが停まっている。


しんと静まり返った墓地には深い闇が横たわっている。

部長を置いたままにしておけば、安らかに眠ってくれるはずなのに、私たちはそこから覚醒させようとしている。


部長が望んだことか?

疑問は即座に振り払い、隼人の車に飛び乗った。





(続)

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