宮城委員長の正義
ここの炒飯はパラパラしていて大変美味しいゅうザマス。
申し遅れたザマス。私、「憲法百四条を守る会」の委員長を勤めます、宮城夏穂ザマス。
向かいにいますは私の忠実な僕……、失礼したザマス。同士で副委員長の阿部聖子ザマス。
私たちは支持者の方々と有意義なお話をした後、ここでお昼を頂いてるザマス。味が素晴らしくてここでよかったザマス。
しかし煙草の臭いや煙はなんとかならないザマス? 私にはお昼を頂く権利はあれど副流煙を吸う権利は無いザマス。煙草人間なんて死ねばいいザマス。
時間がまだあるので、映画について語り合うザマス。あら、なんだか周りが迷惑そうザマス。声が少々大きいザマス? でも私たちには言論の自由があるので、あなたがたにはそれを止める権利は無いザマス。こっちがいい迷惑ザマス。
「やはり外国人俳優はジン様が一番ザマス」
「いえ委員長。私はナン様の方が……」
まあ、なんということザマス。副委員長の分際で私に逆らうとは、粛清ザマス!
……いけないいけない、権力を握る前に粛清などしては国民の支持を得られぬザマス。国民は洗脳してから搾取するが一番ザマス。まあ私の後で煙草を吸う最下層国民・いわゆる愚民は洗脳する前に処分するザマス。
余談が過ぎたザマス。先の副委員長の発言を撤回させるザマス。
「この国の権利と国民の自由を守るためなら、ジン様を好きになるのが理にかなっているザマス」
「分かりました。ナン様のファンはやめます」
副委員長は素直で扱いやすいザマス。だから副委員長にしてやったんザマス。
あら、新しいお客様ザマス。二人組ザマス。
二人は席に着かずに私の隣にいる男の前に立ったザマス。
「土屋三朗だな。殺人及び銃刀法違反容疑で逮捕する」
すると土屋と呼ばれた男の懐からピストルみたいな物が出てきたザマス。
「副委員長!」
私だけを守るザマス!
ところが土屋は小柄な方の刑事に投げ飛ばされて抑えつけられたザマス。
まあ、なんということザマス。犯人にも人権があると言うのに。この国家権力にぶら下がった犬はそれを踏み躙ったザマス。言論ザマス。
言論は知性豊かな私が相手するザマス。
「何をするザマスか、犯人に暴力を奮うなんて、国家の横暴ザマス!」
「しかし……、こいつは銃を……」
口答えは許さないザマス。
「警察の暴力は許されないザマス! 大人しく撃たれて死ぬがいいザマス!!」
国家の犬が減れば税金の無駄が減るザマス。
「確かに彼は少々やりすぎたかもしれませんね。不快な思いをさせた事、お詫びします」
あら、大柄な刑事さんは話が分かるザマス。眼鏡をかけて頭良さそうで知性豊かな私と釣り合いが取れるザマス。
「申し遅れました。私、警視庁捜査一課の松上。隣は部下の鶴川です」
「わ、私『憲法百四条を守る会』の委員長を勤めます宮城ザマス」
松上刑事はそれを聞くと「ほぅ」と声を上げたザマス。
「百四条ですか……、法案が議論された時、自由主義者であられた当時の首相、篠原先生が政治生命を賭けて入れた曰く付きの条文ですね」
あら、そうだったんザマス? 私初めて知ったザマス。
「百四条は自由を訴える内容です。自由憲法との評判のあるこの憲法改正の議論がある昨今、この条文を堅守することは国民の支持を得られやすいでしょうねぇ」
どうして私の思惑を知っているザマス。「百四条はなんとなくよさそうだから、守ると言えば国民の受けが良さそう」ってことをザマス。
いけないザマス。これ以上彼と話しているとボロが出るザマス。
全く知識人は厄介ザマス。私が権力を握った後でどのような揚げ足を取るか分からないザマス。煙草人間の次に処分する必要があるザマス。
さっさとこの店を出るザマス。
「副委員長、お会計を」
私が国民に払うお金はないザマス。だから支払いは全て彼女持ちザマス。ところが副委員長は小声で私に寄ってきたザマス。
「い、委員長、実は……」
なんザマス! 財布を忘れたザマス!?
「ここは素直に謝って……」
何を言うザマス。私のやることに間違いはないザマス。ここで謝っては国民に侮られるザマス。
そうザマス。妙案が思いついたザマス。
「刑事さん、さっき店を出た少年にうちの阿部が財布を盗まれたザマス。あの少年を撃ち殺すザマス!」
私に逆らったらどうなるか見せ物にしてやるザマス。もっともそんな少年などいないザマス。私が作り上げた嘘ザマス。
「しかし私は少年の姿など見ていません。そうですね、鶴川君」
「はい、俺も見ていません」
くっ、騙されなかったザマス。
なんとかこの場を乗り切ろうと周りを見るザマス。
刑事は二人ザマス。そのうち鶴川は土屋を抑えているので離れられないザマス。
残るは松上ザマス。これは足の遅い副委員長が彼に捕まるので、私は逃げ切れるザマス。
いやこれは逃げるのではないザマス。名誉の転進ザマス。不味い炒飯を食わされた上に五百円を要求されると言う抑圧からの解放ザマス。
「ここは走るザマス」
一気に店を飛び出すでザマス。
「食い逃げだ!」
予想通り松上は副委員長を捕まえたザマス。
……と思ったら体がいきなり止まったザマス。なんだか油臭いザマス。見たら不味い炒飯を作っていた愚民ザマス。刑事でも無いくせに私を捕えるなど暴力ザマス!
「痛い痛い痛い! 何をするザマス。刑事さん、この人が私に暴力を奮うザマス」
松上は淡々と答えたザマス。
「貴女は自分が何をされたかより何をしようとしたか考えるべきです。貴女は炒飯の代金を支払ずに逃げようとした。店主である彼には貴女を捕まえる権利があります。これは正しい行為です」
まあ、なんということザマス。私の訴えが愚民の暴力に敗れることなんてありえ無いザマス。そうか、国家権力が私を弾圧しているんザマス。負けないザマス。裁判で勝って奴らの泣きっ面を拝むザマス!