第7話「弟子の刃に宿るもの」
あの査定から一週間が経った。
工房の空気は、いつになく張り詰めている。
「もう一度、ギルドに査定を受けるってことは……やっぱり、納得できなかったんだな」
フェンが槌を握る手を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「悔しかったんだ」ライラが言った。「あんな冷たい目で、私たちの武器を見下されたのが」
「“火を見ろ”って教えてくれたオリンが、睨み返したとき……僕、うれしかった」
グリトの声はかすかに震えていたが、その目はまっすぐだった。
再査定まで、残り三週間。
俺たちがやるべきことは一つ――
“圧倒的な証明”を残す武具を造ること。
ギルドの規格も、書類も、帳簿もすべて無視できるような、誰が見ても納得する“実力の証”。
そのために、俺は弟子たちに告げた。
「一人一人、自分の“代表作”を一本ずつ作れ。型も種類も任せない。ただし――魂を込めろ」
弟子たちは、それぞれ静かに頷いた。
まず動いたのはフェンだった。
「俺……やっぱり、刃物を作りたい。切るってことに、ずっと惹かれてきたから」
彼が選んだのは、“居合用の片刃剣”。
速さを生かすために、極限まで軽く。
だが、軽さは脆さにも通じる。素材の選定と鍛えの技術が求められる。
「これ、霊銀鉱だよな?」
フェンが倉庫から引っ張り出してきたインゴットを見て、俺は目を細めた。
「扱いが難しいぞ。火力調整も、焼き戻しのタイミングもシビアだ」
「でも、これじゃないと“速さ”を活かせない」
迷いのない目だった。
俺は首を縦に振る。
「なら、火を読む力が必要だな。炉の右側、温度差を意識しろ」
フェンは黙って頷き、炉の前に座り込んだ。
長い戦いが、始まった。
次に動いたのはライラ。
「私は、“守る”ための防具を作りたい。だけど、それだけじゃダメだって気づいたの。――今度は“信じられる”防具にする」
彼女が選んだのは、防刃外套。
布と革を重ね、さらに内側に刻印を施して衝撃を分散する仕組み。
「ライラ、これは一歩間違うと刻印が干渉し合って“破裂”するぞ」
サーシャが忠告した。
「わかってる。でも、組み方次第では“すべてを受け止める”布になるはず」
ライラは素材の一枚一枚を撫でながら言った。
その手は震えていなかった。
作業台に並ぶ針と糸と刻印具。彼女の戦場は、静かに熱かった。
そしてグリト。
「僕は……誰かの“力になる”道具を作りたい」
彼が選んだのは、多機能補助具。
手首に装着できるブレスレット状の補助具で、装備者の動きを補正・強化する魔導刻印が施されている。
「使う相手を選ばない。でも、使った相手が“もっと強くなった”って思えるような、そんな道具にしたい」
俺は頷いた。
「その考え、好きだ。俺の考える“鍛冶”ってのも、そういうもんだ」
グリトは細かい刻印設計図を何度も描き直し、試作を繰り返した。
火花が飛ぶ音、刻印針が走る音、繊維が縫い込まれる音。
工房はまるで、生き物のように熱を帯びていた。
数日後、完成した試作品が揃った。
「フェン、試し打ちするぞ」
「お願いします!」
俺はフェンの剣と、自作の鋼盾を手に向き合う。
「来い」
「うおぉおっ!」
フェンの一撃は、風を切った。
――キィィンッ!
鋼盾の表面が斬られていた。
一見傷は浅いが、内部にわずかな“断層”が走っている。
「斬れてるな……しかも、斬撃の反動が小さい。手の中に衝撃が戻らない」
「刻印の角度を変えました。受け流すように、力を逃がすように……!」
フェンは息を切らしながらも、満足そうだった。
ライラの外套も、サーシャが直に試した。
「槍の突きにも耐えるのかしら?」
「やってみてください!」
ライラの声が震えていないのが、印象的だった。
ズドンッ――!
勢いよく槍が布を貫こうとするが……布は衝撃を“飲み込んで”いた。
「この布、力が入ってこない……! まるで、空気に突いたみたい……!」
「“衝撃を拡散する編み方”を試してみたんです。内側に〈拡散〉と〈柔流〉の刻印を重ねて……」
サーシャが感心して肩を叩いた。
「すごいわね、ライラ。あなた、本当に鍛冶屋なんだわ」
グリトの補助具は、俺が装着して動いてみた。
「右腕が……軽いな」
「負荷を分散して、筋力の動きと同調させてます」
「よくこんなに小さくまとめたな。これ、誰にでも使える」
「ありがとうございます……!」
グリトは、照れながらも嬉しそうだった。
その夜。炉の前に並んで座った四人。
「俺たち……“やっと一人前”になれたかな」フェンが言った。
「まだまだだけど、でも、自分の仕事に胸張れるって思った」ライラも続ける。
「うん……“誰かのために作る”って、やっぱりすごいことだね」グリトは穏やかに微笑んだ。
「――俺も、だ」
俺は、ゆっくりと言った。
「お前たちがいたから、火を見直せた」
「オリン……」
「次の査定、通るかどうかはわからん。けど、一つだけ言える」
「“これが、俺たちの鍛冶だ”って胸を張れるなら、負けてない」
三人は力強く頷いた。
再査定まで、あと十日。
“刃に込めた想い”が、試されるときが近づいていた。




