第49話「展示会への招待状」
王都に正式登録された《火の牙》の名は、じわじわと工芸組合内に広がりを見せていた。
ギルド認可から三日後、鍛冶工房の朝は、いつも通り熱気と声で満ちていた。
「フェン、鋼のバランスが偏ってる。斧じゃなくて鈍器になっちまうぞ」
「うっ……そんなつもりじゃ……でも、これもアリだと思って」
「“アリ”の前に“鉄則”を覚えろ」
オリンの短い叱責に、フェンは口を尖らせながらも真面目な顔で修正に取りかかった。
ライラは炉の温度を調整しながら、横目でグリトの補助作業を見ていた。
「グリト、その補助剤、昨日と配合変えた?」
「うん。親方が“軽量化を重視”って言ってたから、青鉛鉱を抜いてみた」
「……やるじゃん。前より発色が良くなってる」
「えへへ」
日々の鍛錬と挑戦が続く中、扉の向こうから「コンコン」と硬いノックが響いた。
「はいよ、どなた?」
サーシャが扉を開けると、そこには上等な仕立ての制服を着た女性が立っていた。肩にかかる徽章は、王都でも名の知れた鍛冶貴族《アレンドル家》のものだった。
「《火の牙》工房はこちらで間違いないかしら?」
「……はい。どのようなご用件で?」
サーシャが応対する横から、オリンが前に出る。
「俺がここの代表だ。用件を聞こう」
女性は軽く一礼し、懐から一枚の封書を取り出した。
「こちら、“王都鍛冶展示会”からの正式な招待状です。《火の牙》工房様を、次回展示会の招待工房として推薦いたします」
その瞬間、工房の空気がぴんと張りつめた。
「展示会……? あの、貴族や宮廷の連中が視察に来るって噂の?」
ライラの声がかすかに震えた。
「そう。王都最大規模の公開審査会です。名を上げたければこれ以上の舞台はない。もちろん、参加には推薦状と、実績の裏付けが必要で――」
「それが、俺たちに?」
オリンの問いに、女性は微笑みながら頷いた。
「ええ。先日の審査であなたが製作した“多用途戦斧”が、審査委員長の目に留まりました。“実用と美を両立させた鍛冶の理想形”だと」
オリンはしばらく封書を眺め、弟子たちの顔を順に見た。
期待と不安が混じった目。
だが、その奥には確かに“挑戦”を求める光があった。
「……受けよう。だが、俺一人じゃない。弟子たち全員でやる。構わないか?」
女性は目を細めた。
「もちろん。工房単位での参加になりますので。展示は十日後。詳細は封書にあります。健闘を祈ります、《火の牙》の皆さん」
女性が去ると、工房内に静寂が戻った。
しばらくして、フェンがぽつりと呟いた。
「……すげえことになったな」
「うん。けど、楽しみだよ。王都中に“火の牙”の名を見せてやろうよ!」
グリトが拳を握る。ライラも頷く。
サーシャは冷静に封書の中身を確認しながら言った。
「展示会の会場、王都の“虹の間”……貴族や宮廷工房、他の名門ギルドも来るらしい」
「やるからには……全力でいく」
オリンの声に、全員が息を飲んだ。
「素材の選定、テーマの構想、分業の配分。今日から鍛冶以外にも“伝える力”が必要だ。見せてやるぞ、俺たちの火を」
――そして始まる、準備の日々。
オリンたちは工房にこもり、製作に没頭した。
日を追うごとに工房の空気が熱を帯びていく。
サーシャは装飾の意匠を練り、グリトは仕掛けの試作に没頭。フェンとライラは新たな武具の形を模索した。
オリンはというと、全員の作業を見守りながら、己の“芯”を練り続けていた。
それは「火」と「牙」が交差する、たったひとつの作品。
展示会で問われるのは、ただの技巧ではない。
――どんな理念を、どんな思いを込めて鍛えたか。
「火を見ろ」
その言葉を胸に、オリンの槌が夜を貫いて響く。




