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追放S級鍛冶師、孤児たちと最強ギルドを作る  作者: 東野あさひ


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第45話「火種は静かに仕込まれる」

王都から届いた一通の封書が、赤溝谷の空気を変えた。


それは、正式な紋章入りの羊皮紙に包まれた依頼状――


「王国騎士団第一大隊より、《火の牙》宛の装備強化依頼。鍛造工房長 オリン・ハルド殿」


工房内がざわめく。


「王国騎士団って……あの、“帝都戦”で無傷だったっていう?」


ライラが硬い声で言った。


「最精鋭じゃねえか。そんな連中の装備、俺たちが?」


フェンが眉をひそめた。嬉しさより、警戒が先に立っていた。


「しかも、わざわざここまで足を運ぶって……」


「おかしいな」


サーシャが呟いた。


「王国の上層部は、灰狐商会と裏でつながってるって話だったよね?」


グリトが声を潜める。


「その灰狐が、俺たちを“潰す”気で動いてるのは確かだ。なのに、騎士団から直接依頼? ……うさんくせえ」


「……断るのか?」


ライラが問うと、オリンは焔を見つめたまま、小さく首を横に振った。


「火は、見なければならん」


その一言で、全員が悟った。


この依頼は、“火を見る”試練――

ただの鍛造仕事ではなく、《火の牙》の存在が王都の“秩序”とどう交差するか、その分岐点に立たされているのだ。



三日後、王国騎士団の装備隊が赤溝谷を訪れた。


先頭に立つのは、黒金の鎧に身を包んだ長身の男。漆黒のマントには王国の紋章――燃え立つ剣と槍の交差が刻まれていた。


「騎士団第一大隊、鍛冶管理官、ゼクス・アラードだ。貴工房の評判は王都にも届いている。ぜひ、その腕前を拝見したい」


低くよく通る声。だが、丁寧な言葉の裏に威圧があった。


弟子たちの背筋がこわばる。


オリンは無言で一歩前へ出た。


「……素材は?」


「こちらだ」


ゼクスが片手で指示すると、部下たちが頑丈な箱をいくつも下ろした。


中身は――


「黒鋼の塊……いや、これは――“灰鋼”だ!」


グリトが息を呑んだ。


灰鋼――


灰狐商会が独占供給している、特殊加工済みの“加工困難素材”。


扱いを誤れば内部爆ぜを起こし、炉ごと吹き飛ぶ“呪物”とも呼ばれる代物だった。


「ふざけてんのか……! こんな素材、鍛えさせる気か!」


フェンが怒鳴りそうになるのを、サーシャが押しとどめた。


「親方……!」


オリンは静かに炉に近づき、鋼塊を一つ取り出した。


――重い。重すぎる。


ただの金属ではない。

素材そのものに、何か“意志”のようなものが纏わりついていた。


「……火を見ろ、か」


呟くと、オリンは鋼を火床に置き、偏温制御を始めた。


炉の一部を凍らせるほど冷やし、素材の“偏り”を浮かび上がらせる。


「見極眼、展開」


右眼に浮かぶ、欠陥線の軌跡。


通常の素材なら真っすぐ伸びるそれが、灰鋼では“渦”を巻いていた。


「これは……焼き入れを逆算するしかない。中心からではなく、縁から――」


全員が見守るなか、オリンは打ち始めた。


一打、また一打。


火が、鋼の“呪い”を打ち砕いていくようだった。


ゼクスの目が、かすかに見開かれる。


「……これは」


素材が赤く光り出す。


灰鋼の“中核”――本来なら制御不能な不純核が、ゆっくりと姿を変えていく。


打音が、変わった。


重々しく、しかし響き渡る音に。


「これが……《火の牙》の焔か」


ゼクスは、初めて笑みを浮かべた。


しかし、その瞳の奥では別の思惑が静かに動いていた。



翌朝、装備隊が引き上げたのと同時に、谷の見張り台が異常を告げた。


「不審な気配が……東の崖上に!」


ライラとフェンが即座に動いた。


崖を駆け上がった先、そこには一人のフードの男が立っていた。


「……見つかったか」


男は静かに呟くと、掌に刻印符を浮かべた。


「灰狐の回し者か!」


フェンが叫び、短剣を抜いた。


「――“呪煙散布”」


呪文とともに、黒煙が辺りを覆い尽くす。


「下がれ、フェン!」


ライラが盾を前に出し、二人を煙から庇う。


男の姿は、すでに消えていた。


「……親方の鍛冶を、試しただけじゃなかったんだな」


ライラの顔が曇る。


王都騎士団の“依頼”は、試練であり、罠でもあったのだ。


そして、それはまだ“序章”にすぎなかった――

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