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追放S級鍛冶師、孤児たちと最強ギルドを作る  作者: 東野あさひ


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第44話「牙の炉、未来を鍛つ」

谷に新たな火がともった。


赤溝谷での炉精との邂逅ののち、《火の牙》はその地に新たな工房――いわば第二の拠点となる「牙の炉」を築き始めていた。


「……これが、親方が言ってた“もう一つの牙”か」


フェンが高台から見下ろしながら呟く。


真新しい炉は、まだ石組みと基礎しかできていないが、風の通り道を計算し尽くして設置され、空気の流れだけでも“よく燃える”予感を漂わせていた。


「この谷は霊気が濃い。材料も火も、魂を込めたら応えてくれる」


そう話すオリンの目には、どこか懐かしさと決意の混じった光があった。


「前の炉とはまるで違うな」


グリトがスケッチ帳をめくりながら言った。


「空気の取り込み口が左右両側についてる。しかも、火床に沿って螺旋刻印の溝が入ってる。これ、ただの加熱じゃない」


「燃焼を制御してるんだ」


サーシャが膝をつき、刻印の配置を指でなぞる。


「親方が言ってた。炎の“ゆらぎ”を制御すれば、素材の癖に合わせて熱を変えられるって」


「じゃあ、ただ熱するより――」


「ずっと繊細な焼き入れができる。素材の底力を引き出す技だよ」


その会話を耳にしながら、オリンは静かに耳を澄ませていた。


――火が生きている。


そんな錯覚すら覚える、炉の音。


「この火で打つのは、誰の武器だ?」


オリンの問いに、ライラがそっと答えた。


「王都からの追加依頼の剣……と、フェンの新しい短剣。それと……」


「俺の盾もな」


グリトが笑う。


「支援専門だったけどさ。ちょっとは前に出てもいいだろ?」


弟子たちの表情に、不思議な一体感があった。


誰もが、焔の意味を知っていた。


この炉は、単なる生産設備ではない。

彼ら《火の牙》の魂であり、未来そのものだった。



その夜、谷の工房で初めての“打ち初め”が行われた。


炉に火が入れられ、橙色の光が岩壁を染める。


オリンの手が鋼塊を炉にかざすと、まるでそれに応えるように炎がうねり、螺旋状に素材を包み込む。


「見極眼……発動」


オリンの右目に宿る特殊な能力――武器や素材の“欠陥線”を視認できる瞳が、鋼の中に走る微細な亀裂や不純物の流れを捉えた。


「偏温制御、10度下げ」


炉の局所温度を自在に操る能力で、素材の特性に合わせて火力を絞る。


カン、カン――。


打音が静かに響き始める。


弟子たちは言葉を失い、その光景を見守っていた。


親方が“魂を打つ”瞬間だった。


サーシャは刻印台の前で待機し、打ち終えた金属片に精緻な術式を刻み始めた。


「……この流れなら、四重展開でいける。最後に反響符を重ねて……!」


フェンは鍛造途中の短剣を手に取り、刃のバランスを確かめる。


「軽い……のに、芯がある。これが親方の火……!」


ライラは防具の接合点を、何度も何度も手でなぞり、素材の密着具合を確かめていた。


「“守れる”感じがする……命を、任せられる……!」


グリトは補助具の構造に新たな可動軸を設け、魔力伝導の流れを調整していた。


「これなら、刻印との連動がスムーズになる……!」


夜が更けても、火は消えなかった。


それどころか、《火の牙》の仲間たちの情熱が、焔をさらに高めていくようだった。



数日後、王都の依頼品が完成した。


それは精緻な炉制御によって打ち上げられた、過去最高品質の武具だった。


冒険者ギルドの査定官が目を丸くする。


「……この剣、王都でも滅多に見ない……いや、技術力では上をいってるかもしれません」


評判は瞬く間に広がり、《火の牙》には次々と新たな依頼が舞い込んだ。


だが、彼らはすべての依頼を受けることはしなかった。


「親方の方針で、“魂が通う依頼”しか受けないんです」


グリトがそう言って頭を下げると、冒険者は少し困ったような顔で笑って帰っていった。


それでよかった。


オリンも、弟子たちも、“ただ数をこなす”ことに意味はないと知っていた。


火を見ろ。

火を感じろ。

火に応えろ。


そうやって、ひとつひとつの武器を“打ち手の誇り”として送り出すことが、《火の牙》の矜持だった。



しかし、静かな熱の裏で、新たな火種が生まれようとしていた。


灰狐商会――


彼らは《火の牙》の成長を明確な“脅威”とみなし、ついに王都内部の腐敗した貴族と結託を始めていた。


「“焔の牙”が火遊びをすれば、王都の秩序が崩れる……そうお考えでは?」


「ふん。ならば、“事故”でも起きればいい。火には、燃え広がる癖がある……」


灰狐の黒幕が、不敵な笑みを浮かべる。


次なる策略は、もう動き出していた。

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