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追放S級鍛冶師、孤児たちと最強ギルドを作る  作者: 東野あさひ


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第38話「灰狐の影」

その夜、工房の炉が静かに火を落とした頃――

一人の男が、闇に紛れて丘の上からハルド工房を見下ろしていた。


「ふん……ガキどもがギルドを名乗ってるのか。ふざけた茶番だな」


灰色のマントに、狐の面。

それはかつてフェンを拾った灰狐商会の一員――いや、幹部だった男、ジルドだった。


彼の横に控える屈強な男たちが、剣を抜いたまま地面に突き立てる。


「ボス、襲いますか?」


ジルドは鼻で笑った。


「いいや。いま壊すには惜しい。――育ちきるまで待つさ。

熟れた果実の方が甘い。潰しがいもあるってもんだ」


そう言い残し、闇の中に姿を消した。


工房の者たちは、その気配に誰一人として気づかなかった。



翌朝、オリンはいつものように早く起き、炉に火を入れた。

まだ陽も昇らぬ時間、弟子たちはまだ眠っている。


ふと、工房の扉の前に置かれた木箱に目を留めた。


「……依頼か?」


中には一振りの斧。刃の部分に奇妙なひび割れが走っている。

だが、それ以上に目を引いたのは――その斧に彫られた、“灰狐”の刻印だった。


オリンの目が細くなる。


(挑発か……)


箱の中に、一枚の紙が入っていた。


「鍛冶師オリンへ

この斧の“本質”を見抜き、修復できるものならしてみろ。

……商会の旧友より」


無署名。それでも、誰からの挑戦状かは明らかだった。


「火は、試練を運んでくるな」


オリンは箱を抱え、静かに工房の中へ戻っていった。



午前中、弟子たちが次々に顔を出すと、中央の作業台に置かれた斧に気づいた。


「うわ、なんだこのヒビ……って、灰狐の刻印!?」


フェンが思わず声を上げる。


「これは……俺、見たことある。灰狐商会が上層に出入りしてた頃、使ってた“呪鉄斧”だ。普通の手段じゃ直らないよ……」


「でも、これ……」


ライラが斧の刃に手を添え、目を伏せた。


「使ってた人、相当苦しんでたと思う。“怒り”とか“嘆き”が、金属に焼きついてる。これ、ただの道具じゃない」


「オリンさん、これ……どうしますか?」


グリトが不安げに問うと、オリンは短く答えた。


「俺がやる」


その声に、場が静まり返る。


「火に、問いかける。

“この刃を、再び持ち主の手に戻す意味があるのか”――とな」


オリンは誰にも指示をせず、一人で作業台に立った。

弟子たちはその背中を見守るだけだった。


炉が赤く燃える。


偏温制御の熱が、一点だけを鋭く照らし出す。


「呪いの残響……素材の歪み……いや、“刃の記憶”そのものか」


斧の表面が、焼けて黒ずんでいく。


それを、オリンは一切迷いなく削ぎ落とす。

まるで、誰かの怒りごと――悲しみごと、祓うかのように。


「重い……これは、持ち主が抱えてきたものすべてだ」


手に伝わる感触は、金属とは思えないほどに生々しかった。


それでも、オリンは一度も手を止めなかった。


まるで過去のすべてを“赦す”ように。

それが彼の鍛冶なのだ。


「……終わった」


彼が最後の焼き戻しを終えたとき、斧はまるで“浄化”されたかのように静かだった。


あの灰狐の刻印すら、炭化して跡形もなく消えていた。


「戻してやれ。この刃が――お前の元に帰ると願っている」


誰に向けた言葉かは、誰も尋ねなかった。



その夜。


再び、工房の外に木箱が置かれていた。

だが今度は“送り返す”形で。


箱の中には修復された斧と、一枚の紙。


「刃は見抜かれた。呪いは消え、残ったのは“誇り”だった。

それをもう一度握るかどうかは、持ち主の選択だ。

火の中で、俺はそう見た」


――鍛冶師オリン



遠く、王都の外れ。


その木箱を開いた男――ジルドの指が震えていた。


「……へぇ。あの斧、返してくるとはな」


その目は、かつてのような奢りではなく、どこか怯えすら含んでいた。


「火の中で、すべてを見抜くか。……なるほど、だから“恐れられてる”ってわけだ」


やがて彼は苦笑しながら斧を拾い上げた。


「……もう一度、握るさ。

次に火を見るときは――お前と、“正面”からだ」


灰狐の影が動き出す。


だが、それは恐れるものではなかった。

それは――オリンと弟子たちの“鍛えた信念”によって、打ち直される運命にある。

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