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追放S級鍛冶師、孤児たちと最強ギルドを作る  作者: 東野あさひ


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第36話「ギルドという器」

辺境の山間に佇む《ハルド工房》は、再び平穏な日々を取り戻していた。


だがその平穏は、決して以前と同じものではない。


――鍛冶競演祭を終え、弟子たちはそれぞれに課題と覚悟を胸に刻んでいた。

そしてオリンもまた、これから先の道を見据えていた。


それは、「ギルド」という名の器を形にするという新たな挑戦だ。



朝、炉に火をくべる音が静かに響く。


フェンが薪を割り、グリトが道具の整備をし、ライラが防具棚の整理をする。


サーシャは研磨用の石を整えていた。


「師匠、これ……設計図なんですけど」


グリトが差し出した紙には、工房の全体図が描かれていた。


「この際、建物も少し拡張しませんか? ギルドとしてやっていくなら、武具保管庫や依頼掲示板、それに宿泊用の部屋も必要かと」


「ふむ」


オリンは図面に目を通しながらうなずく。


「誰が描いた?」


「俺とサーシャで。フェンの意見も入ってます」


「ライラは?」


「……後で文句を言われそうだったから、最初から入れてます」


「正解だ」


オリンは静かに笑い、図面を炉のそばのテーブルに広げた。


「よし、着手しよう」


その一言で、弟子たちの目が輝いた。


「やったー! 増築だ!」


「新しい棚を作るの、楽しみだな」


「……バリケード強化の罠もつけていい?」


「それは却下だ」


ライラの案に全員が苦笑する。


それでも、笑いの絶えない朝だった。



工房の奥、かつての倉庫だった部屋では、オリンが一人の来訪者を迎えていた。


「お久しぶりですね、オリン殿」


男は歳の割に若々しく、品のある身なりをしていた。

――《交易組合連盟》の書記官、レヴィン・バースト。


鍛冶競演祭の運営にも関わっていた人物であり、ギルド設立の際には避けて通れない相手だ。


「お前が来るということは……通達が?」


「ええ。王都の許可が正式に下りました。《ハルド工房》は本日付で《辺境鍛冶ギルド・ハルド》として認可されます」


その言葉に、オリンは短くうなずいた。


「……早かったな」


「貴殿の評判と、競演祭での活躍の結果です。弟子たちもずいぶん名が知れていますよ」


「名よりも、腕で語らせたいがな」


「それもまた貴殿らしい」


レヴィンは笑いながら、机に書類を並べた。


「さて、正式な認可に際しては、いくつか条件がございます。

まず一つ目――ギルド長としての登録。これはオリン殿、ご自身ですね?」


「問題ない」


「二つ目、所属構成員の名簿提出。現在の弟子たちに加えて、新たな登録希望者があるとか?」


「ああ。数日前に村の若い鍛冶見習いが一人、門を叩いた」


「年齢は?」


「十三。名はロルフ。まだ何も打てんが、目の光はよかった」


「期待の新人というわけですね」


「育てるさ。火に向き合う覚悟があるなら」



日暮れどき。


増築されたばかりの部屋に、弟子たちが集められた。


壁には新たに作られた掲示板。

中央には大きな炉。そして、入り口には「辺境鍛冶ギルド・ハルド」の木彫りの看板。


「ギルドになったんだ……本当に」


ライラが、まだ信じられないというように言った。


「ギルドってさ、もっと大人数で、もっと賑やかで、もっと……あれこれ面倒くさいイメージだったけど」


「うちのギルドは、火と鉄があればいい」


オリンは静かに告げた。


「依頼はくる。試練もくる。だが、すべては火を通して鍛えればいい」


「……はい!」


弟子たちは、そろってうなずいた。


そのとき、工房の扉が軽く叩かれた。


現れたのは、見慣れぬ少年――ロルフだった。


「お、お邪魔します……! レヴィンさんに言われて来ました……ここで鍛冶を学べるって……!」


少年の手には、傷だらけの木剣。


オリンはそれを見て、軽く目を細めた。


「火は、見たか?」


「え?」


「火を見て、何を思った?」


ロルフは少し黙ってから、まっすぐ言った。


「――怖かった。でも、きれいだとも思いました!」


その答えに、オリンはうなずく。


「なら、まず炉の掃除からだ。……火の守り方を、覚えていけ」


少年の顔がぱっと明るくなった。


こうして、《ハルドギルド》は新たな“器”を迎え入れた。


そしてその火は、また一歩、未来へと伸びていく。

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