第33話「閃光の刃、疾風の誓い」
第二試合の開始が告げられた。
テーマは――「走る刃」。
観客席がどよめいた。スピードと精密さ、機動性と破壊力、両立が難しいとされる分野だ。
その舞台に、フェンが静かに立った。
「大丈夫。師匠がついてる。俺、やれる」
自分に言い聞かせるように呟いて、火床へ向かう。
目の奥に、闘志が宿っていた。
◆
対戦相手は、王都工房《白雷炉》に所属する若き天才鍛冶師――エルゴ・ノートン。
まだ十七歳ながら、王都内で“神速の刃”と称される実力者だ。
「まさか、田舎の工房から本気で来るとはね。楽しませてよ」
彼の嘲笑にも、フェンは黙って炉に火を入れるだけだった。
「火を、見る」
オリンから何度も言われた言葉が、脳裏に蘇る。
“火を見ろ。素材の声を聞け。刃に宿る意志を忘れるな”
フェンが選んだ素材は、魔力伝導性に優れた《蒼鋼》。
軽くてしなやかで、強靭。
だが――扱いが難しい。
「フェン……大丈夫かな」
ライラが不安そうに呟く。
だがオリンは静かにうなずいた。
「フェンは“見極めた”。火も、素材も、自分も」
◆
試合開始の合図。
二人の鍛冶師が、それぞれの作業に入る。
フェンは素材を火にくべると、微細な温度変化を“偏温制御”で補正しながら加熱していく。
「蒼鋼の融点は高い。でも、火の機嫌を損ねなければ、必ず応えてくれる……!」
打撃、加熱、鍛造――。
小柄な身体で大槌を振るうその姿は、まるで舞うようだった。
オリンの“見極眼”が、弟子の成長を見つめる。
「――躍動しているな。あいつ、火と一緒に踊ってるみたいだ」
グリトが感嘆の声を漏らす。
フェンは、速度重視の片手剣を打っていた。
刃の曲線は疾走時の空気抵抗を減らし、柄は滑らず握れる工夫がされている。
仕上げに彼が刻印したのは、工房の刻印《ハルドの炎》と、自身のシンボル《風の羽根》。
「……これが、俺の答えだ!」
完成と同時に鐘が鳴り響いた。
審査員の前に提出された二本の剣。
どちらも美しい仕上がりだ。
だが――
「これは……」
審査員のひとりが、フェンの剣を手に取った瞬間、表情が変わった。
「軽い。そして、バランスが……素晴らしい。動くための刃だ。まさに“走る刃”」
観客投票では、王都側に票が多く入った。
だが、審査員の総合評価は――
「第二試合、《工房ハルド》勝利!」
またしても歓声が湧き上がる。
フェンは拳を握りしめてオリンの元へ戻った。
「師匠……俺、やったよ」
「――お前の火は、よく燃えていた。立派だったな」
オリンの掌が、フェンの肩を軽く叩いた。
それだけで、フェンの目に涙が浮かぶ。
「くっそ……こんなの、反則でしょ……」
ライラが後ろで目頭を押さえていた。
◆
だが――次が本番だ。
三試合目。オリン本人の出番。
会場の空気が、一気に張り詰める。
対するは、ヴェルク・ロザン。王都連盟の筆頭であり、かつて灰狐商会の武器を“正規品”と認可した張本人。
火床に並び立つ二人。
審査員が、第三試合のテーマを高らかに宣言した。
「最終試合のテーマは――『真実の刃』!」
一瞬、空気が止まったように感じられた。
オリンの目が、すっと細まる。
ヴェルクが、にやりと笑う。
「お互い、過去を背負ってるってわけだ」
「そうだな。だからこそ、火は偽れない」
「お前の刃がどれほど通じるか……俺が試してやるよ」
審査員がうなずき、試合開始の鐘が鳴った。
オリンは、静かに火に向き合う。
そこには迷いも怒りもなく、ただ、信じてきた“火”との対話があった。
弟子たちは、祈るようにその姿を見守っていた。
――次回、決着のとき。




