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追放S級鍛冶師、孤児たちと最強ギルドを作る  作者: 東野あさひ


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第30話「焔を越えて、光へ」

王都の夜明けは早い。


けれど、《工房ハルド》の朝はそれより早く、炉に火が入れられ、鉄の香りと音が空に溶けていく。


「……やっぱり、火の匂いが落ち着くな」


サーシャが目を細めて炉を見つめながら言った。


「王都に来てからずっと慌ただしかったからね」


ライラが、炉の側でまだ眠たげな目をこすりながら頷く。


「オリン先生、今日って……新しい依頼主が来る日だよね?」


グリトの言葉に、工房の空気が少しだけ張り詰めた。


フェンが鍛造台から顔を上げ、真剣な表情で言った。


「灰狐商会の……いや、正式には“王都貴族連合代表”だ」


あの王都大会での勝利は、ただの名誉だけでなく――政治の風まで動かした。


《工房ハルド》の力は、すでに“個人鍛冶師の反乱”を超え、“既存の支配構造”を脅かす存在として見なされていた。


「ようこそ。《工房ハルド》へ」


扉をくぐったのは、上等なマントに身を包んだ壮年の男だった。


その背後には、見覚えのある男の姿――


「……ヴォルグ」


「久しいな。火守」


仮面を外したヴォルグは、今や“王都の調停者”として暗躍している。


「紹介しよう。彼はクローヴェル伯。王都貴族の中でも、“鍛冶統制令”の撤廃派の筆頭だ」


「ふむ。若き鍛冶師たちの炉を見てみたくてな」


伯爵は工房をぐるりと見渡し、炉に近づくと、ふっと微笑んだ。


「いい火だ。……ここには、“物を作る者の魂”があるな」


「火を見て、それがわかるとは。珍しいお方だな」


オリンがそう返すと、伯爵は肩をすくめた。


「昔、少しだけ打っていたことがあるのだよ。もう、手はすっかりなまってしまったがね」


その目に一瞬だけ、懐かしむような色が浮かんだ。


本題はすぐに切り出された。


「――私たちは、“王都鍛冶会”の再編を進めようとしている。君たち《工房ハルド》にも、中心に加わってほしい」


「……政治に、加われというのか?」


「いや。あくまで、“火を知る者”として、技と魂を伝えてほしい」


ヴォルグが補足する。


「王都には“火を見失った者”が多すぎる。“力”や“金”のために刃を作り、“名誉”のために炎を偽る者も」


「だが君たちは、違った」


サーシャ、フェン、ライラ、グリト――弟子たちは無言でうなずいた。


「……引き受けよう」


オリンの声は、焔のように静かに、しかし揺るがなかった。


「ただし、“誰かのために鍛える”という火を、消さないこと。それが条件だ」


「――約束しよう」


クローヴェル伯は深く頷いた。


その夜、宴が開かれた。


《工房ハルド》の勝利と、王都鍛冶会改革への船出を祝して。


弟子たちは思い思いに語り合い、笑い、食べた。


「これから忙しくなるなぁ……新しい弟子も来るかも?」


「“ハルド学派”とか言われたりして!」


「そ、それはちょっと恥ずかしいかも……」


オリンは焔の奥で一人、少し離れて座っていたが――

ふと、誰かが隣に座る。


「……あたしも、火の傍にいていい?」


それはソルナだった。かつて学園から追われ、今は工房の“新たな火”になりつつある少女。


「ああ。火は、誰でも見ていい」


「でも、“本物の火”は、見るのがちょっと怖い」


「怖いと思えるうちは、まだ大丈夫だ」


「え?」


「恐れを持つ者は、火に飲まれない。火を支配しようとする者が、飲まれる」


しばしの沈黙のあと、ソルナがそっと焔に向かって言った。


「じゃあ……あたしも、ここで火を見つめていたい」


「……好きにしろ」


そう言って、オリンは少しだけ笑った。


王都はまだ完全に変わったわけではない。

灰狐商会の残党も、貴族連合の思惑も渦巻いている。


だが――


《工房ハルド》の火は、確かに新たな光をともしていた。


そして、その火はこれから、多くの若者の目に映ることになる。


鍛冶とは、刃を打つことではない。


“心”を打つことだ。


その想いを胸に、彼らの物語は、さらに熱を帯びて進んでいく――。

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