第22話「初任務:辺境村の守り刀」
ギルド・ハルドに初めての正式依頼が舞い込んだのは、ギルド登録の翌週だった。
依頼主は、王都から北へ三日の距離にある《エルムの村》。
依頼内容は「村を守るための武具を新調してほしい」というものだった。
表向きは通常の装備品依頼。しかし、オリンの目は細められたままだった。
「……この村、灰狐の旧商圏だな」
フェンが唾を飲み込む。
「まさか……罠?」
「罠かはわからん。ただ、依頼は本物だ。村長の署名とギルド印がある」
オリンは手紙を指差す。
「“獣人族の盗賊に悩まされている。だが、王都は守備兵を送らない”とある」
「つまり、村が自衛するための装備を求めてるってことだね」とライラ。
「それって……ギルドとして、大きな仕事じゃない?」グリトの目が輝いた。
「そうだ。初任務にしては、重い内容だ」
それでもオリンは依頼を受けることを決めた。
「行くぞ、おまえたち。これが、“俺たちの火”を証明する最初の一歩だ」
◇ ◇ ◇
道中は馬車で二日半。道が悪く、途中の補給所も限られている。
フェンは地図を見ながら、つぶやいた。
「ここ……昔、魔獣の通り道だったんだよな。今はどうなんだろ」
「獣人族って、どんな奴らなの?」ライラが訊ねる。
「人と獣の特徴を併せ持つ種族。昔は共存してたが、今は国境地帯に追いやられた」
グリトがぽつりと補足した。
「そんで、その辺境で盗賊化した奴らが問題ってことか……」
皆、無言になる。
しばらくして、オリンが口を開いた。
「火を扱う者は、武器を渡すことの重みを知れ。それが“守るため”でも、“奪うため”に転ぶ可能性があるときは、なおさらだ」
弟子たちは神妙にうなずいた。
◇ ◇ ◇
三日目の朝、《エルムの村》に到着した。
家々は石造りで、炉もあったが老朽化している。村の守りは木柵と、錆びた槍。
「よく、今まで持ったな……」フェンが漏らす。
村長のアルデンが迎えてくれた。
「よく来てくださった。王都には見放されて、我々はもう……」
「話は聞いている。まずは状況の確認だ」
オリンとサーシャが村の現地調査に回り、弟子たちは仮設の作業場を設営した。
ライラがうれしそうに工具を並べ、フェンは地形を確認して武器の適正配置を考える。
グリトは村人たちと会話しながら、必要な補助器具の設計に入った。
「おまえたち……成長したな」
オリンは小さく、つぶやいた。
◇ ◇ ◇
三日後、納品と説明を終えたころ――
「敵だッ! 南の森から、来るぞ!」
村人の叫びが、冷たい風を裂いた。
オリンが振り向いた瞬間、フェンが槍を構えた。
「オリン、あいつら、こっちを試すつもりだ!」
森から現れたのは、獣人の一団。牙のような武器を持ち、統率は取れていないが数が多い。
村の男たちが震える中、オリンは叫んだ。
「弟子たち、持ち場につけ!」
フェンが先頭を切り、ライラが守備を固める。グリトは爆裂弓の補助機を起動させた。
サーシャが研磨した刃は、かすめるだけで相手の動きを鈍らせた。
オリン自身も、“偏温制御”で炉を高温にし、敵の装備を熱で鈍らせる。
「こっちは、守るために鍛えた!」
フェンの叫びが、戦場に響いた。
敵は退いた。
大きな被害もなく、村は守られた。
◇ ◇ ◇
夜。村人たちは焚火の前で、手を合わせた。
村長が言った。
「……あなた方の作った武器は、ただの道具ではない。希望だった」
弟子たちは、それぞれ照れくさそうに笑った。
オリンは静かに言った。
「だが、これが終わりではない。炎は、絶やさなければこそ意味がある」
「また、来てくれる?」村の子どもが聞いた。
「ああ」オリンはうなずく。
「だって、俺たちはギルドだからな」
――そして、その火種は、さらに広がろうとしていた。




