おおきなレーザー光線のある街
少し残酷で、取り留めのない話。
レーザーと光線という言葉があるくらい昔々のことです。
一本のおおきなレーザー光線が通過している街がありました。
そのレーザー光線のサイズはおおよそ電車5両分程度で、常に光と熱を放っていました。地上から少し高い位置にありましたので、交通に不便はなく、街が分断されるような事はありませんでした。
街の住人達はそんなレーザー光線に対し、昔から今までずっと対策を取ってきました。直視しても被害が出ないように特別なヘルメットを被り、近づいても蒸発しないように特別な耐火服を着用し、劣化しにくい特別な建物を建て、レーザー光線を覆い隠す特別な布を作ったりしました。
そうして、レーザー光線の脅威に慣れてきた住人たちは「レーザー光線のエネルギーを何かに利用したい」と思うようになりました。その結果、レーザー光線の熱でゴミを燃やしたり、エネルギーを電力に変換したり、レーザー光線は生活の一部となっていました。
しかし、そこまでレーザー光線を使いこなす住人も、レーザー光線の詳細についてはまるで理解していませんでした。
Q.いつからあったのか?Q.どこから来たのか?どこまで続いているのか?Q.誰かが撃ってきているのか?Q.何から出ているのか?Q.なぜこの街を通過するのか?Q.どのように放たれているのか?
そんな5W1Hで予測可能な質問全てに対しても、「A.わからない」という回答しか用意できません。街が先なのか、光線が先なのかさえ分からないのです。
住人たちは寝る間も惜しんでレーザー光線に対して頭を悩ましていました。
そんなある日のこと、また住人たちはレーザー光線に対して作業を行っていました。
それは大きな壁でレーザー光線を完全に遮断する、という、とても単純な作戦です。それでいて、今まで何度も失敗してきた作戦でもありました。様々な鉱石で作られた大きな壁に殆ど同じくらいの大きな穴が出来た、そんな記録が幾つも残されていました。
ですので、「今回は違います!新しい鉱石を加えたので失敗しません!」と豪語する責任者たちも、「あと何度これを言えばいいのか」と思っていました。
しかし、今回は失敗ではありませんでした。
少なくとも、壁に穴は出来ませんでした。
今回作られた壁、それに当たったレーザー光線は——————遥か彼方の空の上へと——————反射したのです。
住人達はしばらくそれを見つめていました。
そして、"レーザー光線の端"が見えました。
それはぐんぐんと近づいてきました。
おおきなレーザー光線はとても速く。
光線の文字通り、光の速さで周囲の街に衝撃波を叩き込んで—————————————————————最後の壁以外の、全てを消し去りました。
しかし、壁以外に一つだけ……残っていました。
それは、とても大きく白い光を放っています。
よく見れば、丸い何か、楕円状。
これは「電磁波長龍ダイレーザ」の卵です。
ダイレーザは星を包むほどとてもおおきい体躯を誇り、それでいて光のように素早く、常時体内で発電した電気を纏って身を守っているドラゴンの一種です。
ダイレーザは体の性質上、回遊魚のように動き続けなければ発電が止まってしまいます。決まったナワバリをずっとグルグルと回り続ける様子から、光回線龍とも呼ばれます。その姿はまるでレーザー光線にも見えます。
ダイレーザはあまり争いを好まない温厚な生き物で、鉱石を食べるので狩りなどもしません。
また、ダイレーザは自身から発生する電磁波を使って周囲の生き物の精神に干渉し、自身の存在が当たり前だと錯覚させることもあります。そして、好物である鉱石などを用意させたりするのです。
ダイレーザは殆どナワバリから出ません。しかし、一つだけ必ず縄張りから出るときがあります。それは産卵期です。
ダイレーザは卵を産む時期が近づくとすぐに移動する準備を始めます。これは卵が成体のダイレーザの熱と光に長時間耐えることができず、割れてしまう為です。親ダイレーザは子ダイレーザの顔を見ることも無く飛び立たなければいけないのです。
では、このダイレーザに親子の情はないのでしょうか?
いいえ、親ダイレーザにも我が子への愛があります。その証拠の一つがこの少し傷ついた壁です。この親ダイレーザの体当たりによって食べやすいようにほぐされた壁は赤ちゃんダイレーザにとっての離乳食、お袋ダイレーザの愛を感じる手料理なのです。
今回のお話ではダイレーザが住人たちに主食である鉱石を大きな壁として用意させる様子などを学ぶことが出来ましたね。
それではみなさん、また来週〜〜〜!
完
~次回の放送では『赤ちゃんダイレーザの冒険』を放送いたします~
しません。