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泥濘のリュカ〜わたしを殺した彼のルーツ〜  作者: 31040
第一幕 夾竹桃祭りの夜 ――序章
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クローナ大陸各国新聞報道

【イス皇国日刊紙デイリーモアクイツ】__クローナ歴506年7月15日の記事より抜粋


『イス・シデ大陸間戦争で戦死したはずの家族をイス皇国で見かけた――という話がある。

 35年前に終戦を迎えた先の戦争では、クローナ大陸連合国軍がイス皇国最前線へと送られた。その後、無事に故郷へ帰還した兵士は50代から60代になっている。しかし、目撃情報はいずれも戦時中と変わらぬ若い姿のままだったというのである。

 不老といえばクローナ神話の不老不死者イモゥトゥだ。クローナ神話では、邪神リーリナに呪いをかけられた人間が死を奪われイモゥトゥになると伝わっている。邪神リーリナを滅ぼしたのが聖人ジチであり、ジチの教えを元にしたのがクローナ大陸に多数の信者を抱えるジチ教だ。

 イス皇国内のジチ教徒は人口のおよそ四割。目撃された戦死者がイモゥトゥだという噂は宗教の壁を超え、ナータン教徒の居住区域まで広まっている。また、近年イス皇国への流入が増えている移動生活者ディドリーは、故郷ディドル大陸に伝わる不老不死の怪物〝吸血鬼〟と重ねているようだ。

 すべての目撃情報が遠目に見かけた程度であるにも関わらず、なぜ邪神リーリナの呪いだという話がこのように広まったのか。それは、イス皇国特有の事情がある。ジチ教徒は庭先に邪神除けの夾竹桃を植えるのが一般的だ。しかし、イス皇国では戦時中に燃えた夾竹桃の毒煙で死者が出たことにより自主的に撤去が進み、戦後も植樹を控える信徒が多い。結果、イス皇国から夾竹桃が激減したために邪神の呪いが払えなかったと言うのである。

 今年もジチ教最大の夾竹桃祭りが7月20日に迫っているが、夾竹桃の購入者は例年より増えている。これは間違いなくイモゥトゥの噂が影響してのことだろう』

 



【ヨスニル共和国月刊紙チェサタイムス・マンスリーティップス】__クローナ歴552年5月5日の記事より抜粋


『奇病か怪異か!? 赤ちゃん返りした少女

 まず、あなたの近くにいる少年少女の姿を思い浮かべてほしい。目を輝かせ、日々新しい知識を吸収し、成長していく姿を。もしその少年もしくは少女がある日突然赤ちゃんのようになったら? きっと誰もが困惑し、狼狽するだろう。言葉も礼儀作法も忘れ、それどころか帽子を被ることも扉を開けることもできなくなるのだ。

 これは作り話ではなく実際に起こったことである。不幸に見舞われたのはザッカルング共和国との国境近くに暮らす十五才の少女。この記事は少女を雇っていた農夫の証言に基づいて書くものである。

(中略)

 幸いなことに少女は事情を知った篤志家に引き取られたとのことである。

 記憶を失うだけでなく成長が止まったままだという奇病。医学書を繰っても該当する症状は見つからないが、本紙記者が調査した限りでは、ナスル王国、イス皇国、ザッカルング共和国にも同じように赤ちゃん返りした少年少女の噂が存在する。この奇病がクローナ大陸特有のものかは不明だが、不老の人間が実際に存在するのならジチ教徒は口をそろえてこう言うだろう。邪神リーリナの呪いだと』




【ヨスニル共和国日刊紙チェサタイムス】__クローナ歴552年5月8日の記事より抜粋


『ヨスニル国立大学付属ソトラッカ研究所が5月7日に緊急会見を開き、同研究所で四人のイモゥトゥ(クローナ神話における不老不死者)を保護していると発表した。会見で担当者は次のように語っている。

 ――イモゥトゥは我々と同じ人間であり傷付けられれば痛みを感じます。彼らは虐待を受けており、ソトラッカ研究所は彼らを救うべくこの会見を開きました。研究所はイモゥトゥのシェルターです。自分もイモゥトゥではないかと考えた方はぜひ当研究所を訪ねてください――』




【ヨスニル共和国日刊紙チェサタイムス】__クローナ歴552年5月9日の記事より抜粋  


『ソトラッカ研究所はイモゥトゥが実在することを7日の会見で公表し、翌8日補足として次のような手紙が本社に送られてきた。以下に一部を抜粋して掲載する。

 ――ソトラッカ研究所がイモゥトゥ研究を開始したのはクローナ歴515年のことです。研究所敷地内で保護した少年が「自分はイモゥトゥだ」と話したことが始まりでした。その少年は体の至るところに暴力を受けた痕跡があり、警察に通報しようとしたのですが本人が拒み研究所での保護を求めました。そのため、その夜は研究所の宿舎に泊まらせました。

 そして翌日、診察にあたった医師が少年の体から一切の虐待の痕が消えていることを確認しました。通常では完治まで一週間以上かかる傷です。少年の話によれば、イモゥトゥは傷の治りが早く、病気にかかりにくい上、罹患してもすぐに治るということでした。

 少年は(少年といっても、彼が言うには80年くらいは生きているそうです)研究に協力する代わりに自分の仲間も研究所で保護してほしいと要求しました。虐待の痕跡があったこともあり、研究所は少年の要求に応じ三人のイモゥトゥを追加で保護しました。現在、四人のイモゥトゥが研究所の保護下にあります。

 彼らがどこに住んでいるのか明かすことはできません。なぜなら、調査の過程でイモゥトゥを捜索している者が我々以外にもいるとわかったからです。おそらく少年たちを虐待していた者でしょう。四人の証言から、クローナ大陸には少なくとも数十人のイモゥトゥが存在していると思われます――

 研究所はこのように経緯を語っているが、手紙の中ではさらに興味深い事実が明かされている。研究所が〝新生〟と名付けた症状である。新生は譫妄と記憶障害から始まり、ある日突然すべての記憶と知識を失って赤ん坊のようになるという。これがイモゥトゥ特有の症状かどうかは今後検証を行うとのことだが、本紙の姉妹紙チェサタイムス・マンスリーティップスでは5日発刊の最新号に〈奇病か怪異か!? 赤ちゃん返りした少女〉という記事を掲載した(なおこの裏面に同記事を掲載)。その内容はまさに新生である。タイミングを考慮すると、同記事が掲載されたことによりソトラッカ研究所が緊急会見に踏み切った可能性がある』

 

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